「新株予約権」とは、株式の発行を会社に対して請求し既定価格で取得できるという権利です。商品やサービスの予約と似ていますが、新株予約権は使用方法(株式引き換えの金額や条件)を発行者がコントロールできるというのがミソです。

新株予約権のおもな使い途として3つ挙げることができます。役員・社員などのインセンティブ(動機付け)報酬、敵対的買収への防衛策、そして資金調達です。

この記事では、新株予約権の基本と3つの使い途についてわかりやすく解説していきます。

新株予約権の特色

まずは新株予約権の基本的な特色を確認しておきます。

新株予約権とは?

新株予約権は会社法(第2編第3章「新株予約権」236~294条と第7編第4章「登記」911・915条)で定められています。

新株予約権は、新発行の株式を購入できるというだけでなく会社に対して発行を請求することもできる権利です(これに対し、「新株が発行された際に優先的に引き受けることができる」という権利を「新株引受権」と呼びます)。

新株予約権が募集される際には次のような事項が定められます。

  • 募集対象者
  • 新株予約権を取得するための金額(無償も可)
  • 新株予約権1つあたりの株式数
  • 新株予約権を行使して株式に換えるための金額(行使価格)
  • 新株予約権行使の期間・条件

新株予約権の特色① 発行時に決めた価格で株式に交換できる

第一の特色は行使価格が募集時に決定されていることです。予約権行使時の株価が行使価格より高ければ、取得した株式を売ることで差額を得ることができます。活用法によっては株価に応じて行使価格が変動するように設定しておくこともあります(「株価の90%」など)。

新株予約権の特色② 行使条件を細かく設定できる

新株予約権行使の条件をかなり自由に、細かく設定しておくこともできます。例えば、行使できる地位・立場を「在職中」「退職後1年以内」「敵対的買収者とその関係者以外」などと限定したり、行使できる数の上限を会社の利益に応じて変動するように定めたりすることが可能です。

こうした条件をうまく設定することで、さまざまな活用法が可能となります。

法律上の制限

原則として、公開会社(上場企業など、株式を自由に譲渡できる会社)では取締役会、それ以外では株主総会が新株予約権の内容を決定します。非公開会社でも取締役会へ内容決定を委任できる場合があります。

ただし、新株予約権が応募者に無償で与えられたり、予約権行使価格が不公平なほど割安に設定される場合は、公開・非公開問わずすべての会社で株主総会による決議が必要です。
新株予約権の内容(とくに行使条件)が法令・定款に違反していたり、不公正な方法で決定・発行が行われたと思われる場合、株主は会社に対して発行停止を請求することができます。

新株予約権の活用法

冒頭に述べた3つの活用法を取り上げ、行使条件の定め方や法的な留意点について解説します。

インセンティブ報酬(ストックオプション)

新株予約権の募集対象を社員・役員とし、行使条件を「在職者であること」などとしておけば、インセンティブ報酬として活用できます。この場合の新株予約権をストックオプションと呼びます。

爆発的な株価上昇を望めるスタートアップ企業や上場を目指す非公開会社などにとっては、社員の目的意識と士気を高めるうえでとくに大きな力を持ちます。

M&A防衛策

敵対的買収者とその関係者が権利を行使できないように条件を設定すれば防衛策となります。敵対的買収者が公開買い付けなどにより多数の株式を取得しても、既存株主や友好的な第三者が(割安価格で)新株予約権を行使しそれを優に上回る株式を得れば、買収者の議決権を薄めることができるからです。

ただし、こうした「差別的」な行使条件を設定するにあたっては慎重な配慮が求められます(有名な事例として「ブルドックソース事件」があります)。とくに重大な留意点は次の2つです。

①企業全体の価値や株主にとっての共同利益を守るためのものであること。経営陣や特定の株主の支配権確保のためであってはならない(株主平等の原則)
②自由な投資活動を阻害しないよう、そうした防衛策は事前に策定して公表しておくことが望ましい

株価への影響を抑えた資金調達法

資金調達のために大量の株式を発行すると、1株当たりの利益が希薄化したり株価に大きな影響が出たりする可能性があります。株式の代わりに新株予約権を発行することで、こうした影響を抑えつつ資金を柔軟に調達することが可能となります。

具体的には、行使価格を株価と連動するように設定し(「株価の○%引き」など)、予約権行使の時期と数量について(許可制にするなど)会社がコントロールできるようにします

まとめ

新株予約権は行使の価格・時期・条件をかなり自由に設定することができ、広範囲の目的に活用可能な魅力的な手段です。その分、発行前に決定しておかなければならない事項は多岐にわたり、法的な原則(株主平等など)や細則について重大な留意点が存在します。

また、新株予約権の実際の効果については市場次第という面もあり、効果的な運用のためには長期的な計算が必要な場合もあります。

実際に発行を考える際には新株予約権に詳しい専門家(公認会計士・弁護士・行政書士・コンサルタントなど)に相談してみることをおすすめします。今回解説したことを理解しておけばスムーズな対話が可能となるでしょう。