少子化に伴い、会社の跡を継ぐ子供がいないケースが多々あります。あるいは子供には事業継承をする気がないケースも。中小企業にとって、後継者を見つけて育成することが大きな課題になってきているのです。

事業承継には、人材を育てる時間や資金もかかります。先代に何かあって土壇場になって後継者のことを考え出すのは遅いのです。

そこで、ここでは事業承継をスムーズに進めるために下記について書いていきます。

・事業承継の流れ
・事業承継の3つの方法とメリット・デメリット
・それぞれの方法がどんな場合に有効なのか

さっそく見ていきましょう。

事業承継方法の割合と流れ

事業承継にはいくつか方法がありますが、それぞれの手段がどれくらいの割合で選ばれているのか、手順はどのような流れになるのか、といった概要から見ていきます。

事業承継の3つの種類

事業承継には大きく分けて3つの種類があり、それぞれに手順があります。

  1. 親族内承継:自分の子供や親族に事業を引き継ぐやり方です。
  2. 親族外承継:幹部や役員など親族ではない社員に事業を引き継ぎます。
  3. M&A:外部の人や企業に会社を渡す方法です。

事業承継の割合

昔は親族内承継の割合が最も多く、全体の事業承継の中で90%という大きな割合を占めていました。しかし、2015年の調査では34.3%になっています。
一方で、親族外で従業員や役員に事業承継する割合は26.4%、そして外部の第三者にM&Aによって事業承継する割合は、39.3%という結果が出ています。

【出典】中小企業の資金調達に関する調査

子供を後継者とする事業者が減り、他の選択肢を取る事業者が増えていることがわかります。

事業承継の流れとやり方

事業承継の流れについて、詳しくみていきましょう。

親族内承継の流れ

親族内承継では関係者に理解してもらうことが必要です。特に、社内に子どもや親族が複数いる場合に必要なことでしょう。なぜその人を後継者にしたのかについて納得のいく説明ができないと、相続争いなどに発展しかねません。

数年にわたって後継者を教育することも大切です。社内で教育するのであれば、各部署をローテーションさせて現場の声を聞かせ、その後責任ある立場につかせて直接教育するのがふさわしいでしょう。また、他社に就職させた後に自社の子会社などで経験を積ませる方法もあります。

後継者に権威を集中させるために、過半数の株式が後継者の手に渡る手続きも考えておく必要があります。

親族外承継の流れ

親族が承継するよりも、理解を得るのに時間をかけるべきやり方です。「同僚が抜擢されてなぜ自分が選ばれなかったのか」と反感を抱かれやすい傾向にあります。また、現経営者が銀行から借り入れているお金や担保がある場合も、後継者が引き継ぐことについて、銀行から理解を得る必要があるでしょう。

親族外承継では資産の整理も欠かせません。会社名義の高級車など、現経営者と会社との線引きがはっきりしない資産の整理が必要なのです。

また、資金面でのサポートも重要で、後継者は株式を買い取る資金が十分にはないことが多いので、株の譲渡などの際に資金援助するケースも少なくありません。

M&Aによる承継
M&Aによって事業承継を行う場合は、仲介会社との契約から始まります。
M&Aの手順について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にすると分かりやすく概要を理解できるでしょう。

関連記事:M&Aの流れや手順を知りたい!M&AのポイントやPMIを分かりやすく解説

資料を基に仲介会社が見つけた買い手と話し合い、基本合意をします。その後の手順は、買収監査や買収金額の調整などです。合意に至れば、契約をして仲介会社に成功報酬を支払います。

親族内で承継するメリットデメリット

ここからは、親族内で事業承継を果たすことでどのようなメリット・デメリットが生まれるのか、詳しくみていきましょう。

親族内承継のメリット

親族内承継の一番のメリットは、会社の内外の人たちから心情的に受け入れられやすいという点にあります。

相続で財産と株を後継者に渡せるのもメリットです。所有と経営の分離を防ぐことができるので、経営者による経営革新を妨げずに進められるでしょう。会社内のスムーズな意思決定のために、所有と経営は一致していたほうが良いのです。

親族内承継のデメリット

親族内承継のデメリットでまず挙げられるのが、親族に跡を継げるだけの能力と意欲のある人材がいるとは限らないこと。日本の現状を鑑みると、後継者不足を理由に事業承継を進められない中小企業も少なくないので、親族内承継にこだわっていると、事業承継のタイミングを逃してしまう可能性もあるのです。

いっぽう、候補となる親族が何人かいると、誰を選ぶのかが難しくなります。選ばれなかった人への配慮も踏まえて、慎重に進めなければならないのが親族内承継です。

こんな場合は親族内承継がふさわしい
親族内承継にもメリットデメリットはありますが、下記のようなケースでは親族内承継がふさわしいでしょう。
・血縁者に継がせたいという意志のある場合
・自社株式を簡単に引き継ぎたい場合
・役員や従業員から素早い理解を得たい場合

親族内承継で留意したいこと6つ

親族内承継を進める際には、以下の6つの点に注意しながら進めましょう。

①候補者とのコミュニケーション

「息子なら言わなくても心は通じている。きっと跡を継いでくれるだろう」といった思い込みに基づいた行動は、失敗するケースが多いので気をつけたいところです。候補者とよく話し合いましょう

家族会議を開くのがおすすめですが、自宅で行うよりも公共性の高いカフェや銀行の応接室など、他者の目がちょうどよく入る場所を選ぶようにすると、お互いに冷静なまま話し合いを進められます。また、事業承継士などの専門家を第三者として入れて会議を開くのも有効です。

②早めに事業承継計画を立てるべき理由

後継者には、事業用資産や自社株式(3分の2以上が目安です)を集中して引き継がせることが大事です。しかし、資産を継がせるにはまとまったお金が必要です。後継者が株式などを買取る際のお金や、相続税・贈与税などの多額の資金がいるのです。

事業承継は、現経営者が引退する間際ではなく余裕をもって計画しないと成功しません。一般的には10年かけて準備するものと言われています。

③後継者育成の期間

経営のノウハウが短期間で身に付かないことは、経営者として活躍してきた方であれば、切々と実感していることでしょう。人材を育てるには、時間がかかります。一歩一歩、ステップアップさせつつ教育していきましょう。

④後継者育成のコツ

経営者の子供だからといって、指導もせずいきなり幹部に抜擢してしまうと、組織内に波紋を呼びかねません。重役たちの反感を買ってしまいます。また、社員が付いてこないという最悪のケースも考えられるでしょう。

会社に貢献してきた社員たちが会社を辞めてしまう、というケースも散見されます。まずは後継者を他のベンチャー企業などに入社させて修業を積ませることもあります。親の権威の届かないところで、人間関係のノウハウも学べるでしょう。

数年して自社に入社させても、現場での経験を積みながら社員とのコミュニケーションをとっていくことで周りの理解も得やすくなります。

⑤株を承継するときの問題点

株の承継方法にはおもに3種類ありますので、それぞれの問題点についてご説明します。

■買取(譲渡)
後継者が自身のお金で買い取るため、他の相続人から不満が出にくく相続争いも起きにくいのが利点です。
しかし、買取は後継者が多量の株を買い取る必要があるため、金融機関の融資なども交えて広い視野を持ちながら手段を検討していきましょう。
■生前贈与
自社株対策をしておけば、贈与税を安くできるのが生前贈与の利点です。
しかし、他の相続人から「不公平だ」という感情を抱かれ、相続争いになりやすい欠点もあります。
■相続
公正証書遺言によって株式を相続すれば、確実に事業承継を果たすことができます。しかし、遺言による相続の一番の難点は、現経営者が事業承継をしっかりと見届けられない点にあるでしょう。相続においては、民法によって定められた遺留分という「法定相続人に確保された最低限の取り分」が確保されています。遺言によって遺留分が侵された場合は遺留分減殺請求という手段によって、遺留分に相当する遺産を相続できてしまうので、遺言通りに相続が進まない可能性があるのです。

⑥後継者以外の相続人

相続人が複数いる場合の気遣いも必要です。一人に会社を継がせると、他の相続人からねたまれる可能性があります。相続争いに発展するかもしれません。他の相続人も納得するように、会社以外の財産を分配するなどの気配りが必要なこともあります。

親族外で承継するメリット・デメリット

親族外で承継する際は、資金面でどうサポートできるかが大きなポイントです。後継者になるべく負担をかけない方法で引き継いでいかないと、後継者候補が辞退する可能性もあります。

親族外承継のメリット

親族外承継では、大勢の候補者の中から後継者を選べるというメリットがあります。親族内承継と違い、親族外承継では多くの有能な社員の中から選べます。

また長年働いてきた社員に会社を譲渡するのは、経営の一体性を保ちやすいというメリットもあります。

親族外承継のデメリット

デメリットは、社員の中に経営をする意欲のある候補者がいないという可能性がある点です。また、候補者に株式を買い取るだけの資金がないことも多いのが実情です。さらに、個人債務の引継ぎの保証のトラブルが生じることもあります。

こんな場合は親族外承継がふさわしい
役員や従業員から理解を得たいとき、親族外承継は親族内承継よりも理解が得られやすいです。会社のために長年尽力してきた社員が選ばれれば、納得して受け入れられやすいと言えます。また「頑張れば認められる」例にもなり、役員や従業員の士気を上げたい場合にも有効です。

親族外承継で留意したい点3つ

親族外承継を進める際には以下の3つについて注意する必要があります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。

①候補者とのコミュニケーション

「この会社の社長になる!」と決意して入社する人はあまりいません。候補者は長年働いてきたかもしれませんが、やはり経営者に選ばれるとなるとそれなりの心構えが必要です。指名するにしてもそれまでに後継者候補とのコミュニケーションをしっかり取っておく必要があります。

②候補者にお金がない場合

候補者に株式を買い取るだけの資金がない場合、対策を考える必要があります。おもな施策として「MBO」があります。これはManagement Buy-Outの略で、経営陣が銀行や投資ファンドから支援を受け、企業の株主から株式を買い取る手法のことです。

その際、SPC(Specific Purpose Company)と呼ばれる特別目的会社を立ち上げ、SPCを受け皿にして銀行などから資金を調達します。その資金で経営陣が自社の株式を買い取ったら、自社とSPCを合併して完了です。

③連帯保証人になってもらう際の報酬

経営者が金融機関から融資してもらうときには、会社がお金を返せなかったら経営者本人のお金や担保とした家で資金返済をするという約束をしている場合が大半です。後継者はその連帯保証人になるケースも多いので、そのリスクに見合った報酬を支払うなどの気配りが必要です。

M&Aで承継するメリットデメリット

以前は、M&Aにはネガティブなイメージがありました。しかし最近では、賢い選択肢の一つとしてその件数が増えています。

M&Aのメリット

M&Aは数多くの買収希望者のなかから後継者を選べるのがメリット。すでに経営の経験者に引き継げるのは、会社の未来を考えても安心できるポイントです。現経営者に会社を売却したお金が入るのも魅力のひとつでしょう。

M&Aのデメリット

しかし、メリットの裏返しになりますが、数多くの候補者のなかから希望条件の買い手を見つるのが難しいことがあります。買い手の条件が厳しいと売却後にほとんどお金が残らないケースもあります。

また、後継者によっては経営の仕組み自体を変えてしまうので、経営の一体性を保ちにくくなる可能性もあります。

こんな場合はM&Aで承継するのがふさわしい
短期間で会社の整理をしたときや自分の事業を残したい場合にM&Aは選択されることが多いです。雇用関係をそのまま引き継いでほしい時にも、買収条件に入れることでそのまま雇用が継続されます。

M&Aの留意点3つ

M&Aによって事業承継を果たす場合は、以下の点に注意しながら手続きを進めていきましょう。

①会社の魅力を上げる

条件良く買い取ってもらうためには、魅力ある会社にしていくことが何よりも大事です。業績を残していることや、他社にない会社特有の商品やサービスの将来性などがあることは魅力でしょう。買い手にアピールできる長所を持っていることが重要です。

②エキスパートに相談する

M&Aの計画は、自身でやろうとするとリスクが高くなります。売買の際の契約が曖昧だと、売却後にトラブルに巻き込まれてしまう可能性もあります。
金融機関や弁護士、事業引継ぎ支援センターなどのアドバイザーに相談したほうがスムーズに進められます。

③秘密事項の管理

会社の秘密事項を外部に漏らすとトラブルになります。親族内・親族外承継では同じ社内の人に引き継ぐので、後継者を教育していく段階で秘密事項を明かしていくことになります。

しかしM&Aの場合、最終的な契約を結んで公表できるようになるまで、秘密事項を守りつつ話を進めていく必要があるでしょう。交渉中に秘密事項が漏れると利害関係者が大きな影響を受け、銀行などからの信用を無くして計画が挫折する可能性もあるからです。

メリット・デメリットを比較して慎重に決めよう

改めてこの記事で解説してきたメリットとデメリットについて、表で解説していきます。

 

メリットデメリット
親族内承継・後継者が受け入れられやすい

・後継者の教育に時間をかけられます

・あとを継げる能力と意欲のある人材がいるとは限らない

・候補が複数いると誰を選ぶのかが難しい

親族外承継・後継者候補が多くいて選びやすい・株式を買い取るだけの資金がないこと
M&A・条件が合えば買収までの期間が一番短い・条件の合う会社が見つからない

親族内承継のメリットは会社内外の人から受け入れられやすいこと、デメリットは引き継ぐ能力と意欲のある後継者がいるとは限らないことでした。

親族外承継では、親族内承継よりも大勢の候補者の中から選べることがメリットで、後継者の資金への気配りの必要性がデメリットでした。M&Aでは、親族外承継よりもさらに多くの候補者の中から後継者を探せるメリットがあり、望む買い手を見つけにくいデメリットがありました。事業承継の3つの方法には、それぞれに一長一短ありリスクもあります。

「どの方法がいいかわからない」「事業承継ができるのか不安」という方は、専門家に相談して承継方法を決めていくのが安心でスムーズです。事業承継ラボでは、事業承継の専門家が後継者探しの一番いい方法を探すお手伝いをします。事業承継の計画についてや、いま抱えている不安でも構いません。気軽にご相談ください。