事業承継としてのMBO|M&Aとの違いも分かりやすく解説します

事業承継は、先代の経営者や役員が保有している自社株式を後継者に譲り渡すことで、経営権の委譲を行い、次世代に経営のバトンタッチを行う経営手法の一つです。自社株を移転させるためには様々な手法が利用されますが、今回はMBO(Management-Buy-Out)による株式移転の方法を紹介します。

M&Aとの違いについても解説しているので、事業承継について詳しく理解したい方はぜひ参考にしてみて下さい。

事業承継が着目されている背景

事業承継が注目を集めるようになった背景には、中小企業庁や中小機構などの行政機関が中心になって推し進めている事業承継円滑化法の存在があります。

なぜ事業承継を推進しているのか、という理由については、今の日本が直面している深刻な少子高齢化問題や散見される黒字廃業・休業などが関連しているのです。まずは事業承継が急がれる理由として、日本が抱えている経済的な問題について見ていきましょう。

――◯日本全体の後継者不足と少子高齢化

日本はすでに「超高齢社会」に突入しています。超高齢社会とは、65歳以上の人口の割合が全人口の21%を占めている社会を指し、労働人口の減少や社会保障費の増大によって国力の減衰が予想される深刻な問題でもあるのです。

日本は高齢の人口が増えているだけでなく、少子化の煽りも強く受けているので、特に地方の中小企業などは人手不足や後継者不足に悩まされているのが現状と言えます。

参考:深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命

後継者がいなければ企業は存続できないので、せっかく利益を生み出している優良な企業であっても、現在の経営者が引退するタイミングで廃業、休業という選択肢を選ばざるを得ません。じつは、黒字経営を続けているにも関わらず、後継者不足を理由に廃業・休業を選ぶ中小企業や小規模事業者が増えているのです。

――◯黒字廃業・休業を防ぎGDPが維持できる

中小企業白書によると、廃業を選択した企業のうち44.1%が黒字経営であるにも関わらず、廃業という選択肢を選んでいますが、この背景には、事業主の高齢化と、後継者不足という2つの要因があるのです。

事業主の高齢化については、以下の図を見れば分かる通り、平均年齢がどんどん引き上がっています。

2012年の時点で、すでに自営業者の平均年齢は75歳となっており、事業承継への早急な取り組みが急がれます。

また、後継者不足については以下の図表を見てください。

後継者としての候補者が見つけられていない事業者が16〜18%にも上っていますが、着目すべきはピンク色の「決まってないが候補者はいる」と回答している層です。事業承継の後継者に経営権を引き継ぐには、教育を施したり、株式譲渡の手続きを踏んだりといった準備が欠かせません。

中小企業庁が発表している事業承継にかかる時間は5〜10年とも言われているため、経営者が高齢化した段階で後継者が決まっていないとしても、引き継ぎ期間として見積もられている5〜10年を現経営者が走りきらなければなりません。その間、業績が悪化したり、経営者の体調が悪くなる可能性も捨てきれないため、事業承継は早めの準備が必要不可欠です。

後継者がいない、候補者はいるが決めきれない、という時期をなるべく早めに終わらせて後継者候補を育てる時期を長めに確保することで、事業承継の成功率が高まります。後継者不足を感じている場合は、社外から有用な人材を招へいすることも視野に入れて後継者探しに取り組むことが大切です。

――◯事業承継税制の施行による負担減

事業承継がスポットライトを浴びている背景には、政府主導で導入された事業承継税制の存在があります。事業承継税制をうまく利用すれば、株式を贈与・相続する際にかかる税金の延納が可能になり、条件をクリアすることで免除されるケースもあるのです。

細かな条件や制度の内容については以下の記事で詳しく解説しているので、事業承継でかかる税金を少しでも低く抑えたい方はぜひ参考にしてみてください。

ここからは、MBOとは何なのか、という点も踏まえつつ、事業承継をMBOで進めるための手順を見ていきましょう。

MBOによって事業承継を進める手順

MBOは企業の役員や取締役、代表などの経営陣が自社の株式を購入することで経営権を獲得する経営手法の一つです。まずはMBOの基本的な仕組みについて解説していきます。

――◯SPC(受け皿となる企業)を設立する

MBOを行う場合は、新しくSPCと呼ばれるペーパーカンパニーを立ち上げます。日本語では特定目的会社(Special Purpose Company)と訳され、SPCは株式を買い取るための資金を調達する「受け皿」として機能するものです。

SPCの取締役や代表には「事業を承継したい後継者」を選任しておかなければなりません。このSPCの役員が合併後に本体の会社で経営権を握るので、SPCの代表がそのまま本体の会社の代表に就任する流れになります。

――◯金融機関から資金を調達して株式を買い取る

SPCを設立したら、金融機関などから資金を借り受けます。このときの借り主は事業承継を行う本体の会社ではなく、受け皿として設立したSPCです。借り受けた資金をもとに、事業承継を行う本体の会社から株式を買い取り、一時的にSPCが本体の会社の経営権を有する形になります。

――◯SPCと承継する企業を合併させ、経営権を掌握する

経営権を有するSPCと本体の会社を合併し、一つの企業としてもとに戻ります。SPCの経営陣は本体の会社の株式を保有しているので、合併後には自動的に経営権を得られる、というスキームです。

MBOで事業承継を進めるメリット

MBOの流れを見ると、少し複雑な流れになることがお分かりいただけると思います。しかし、MBOの手順を踏むことで得られるメリットも存在するので、事業承継を果たすための手段としてぜひご一考ください。

ここからは、MBOのメリットについて見ていきましょう。

――◯企業内で事業承継が進むので文化が引き継がれる

MBOはM&Aとは異なり、社内の従業員に経営権を委譲するための手段です。そのため、一つの企業内で事業承継を果たすことにつながり、見えない資産や文化、ブランドが残りやすいと言えます。

――◯後継者の教育期間を新たに設けずに済む

親族内承継で事業承継を行う場合は、後継者を探したり、後継者を育成したりといったプロセスに大きな時間と費用がかかります。これが事業承継を鈍化させている一つの要因でもあるのです。

自社の社員として長く勤めている方に経営権を委譲できるMBOを活用することで、教育にかける時間やコストを削減できるので、事業承継に取り組む企業にとっては大きなメリットが生まれるでしょう。

また、社内で実績を出している方を経営陣に引き上げることで、社内からの反発も生じにくく、ふらつきやすい承継後の経営についても一丸となって対応しやすくなるのです。

――◯従業員や経営陣のモチベーションが高まる

実績を出している方を経営陣に、と述べましたが、こういった動きが企業内に生まれることで他の従業員に対してもモチベーションを高める効果が生まれます。

「頑張れば評価される」「経営に携われるかもしれない」といった認識が従業員の間に生まれることで、社員のそれぞれが企業に対して強い帰属意識を抱き、責任感を持って業務に取り組んでくれるようになるでしょう。

また、短期的な業績の回復を目指すだけでなく、中長期的な視点で競争力の向上に貢献するようなMBOを効率性主導型MBOと呼びます。効率性主導型MBOに取り組むことで、非効率な事業や部門を削ぎ落とすだけでなく、既存事業の強みを活かすかたちで組織の強化を図る競争力の強化にも繋げられるので、MBOは企業の業績アップにも貢献できる経営手法の一つと言えます。

事業承継後の経営も考えながら、MBOの手法を選ぶのが大切です。

MBOは事業承継にも役立つ経営戦略の一つ

事業承継には様々な手法があり、企業の風土や属する業界によって最善の承継方法は異なります。もちろん、経営者や後継者の意向や状態によっても変動するでしょう。今回はその中でも「自社の経営陣に経営権を譲り渡す」ための施策として、MBOを紹介しました。様々な手続きが必要になったり、専門的な知識が必要不可欠だったりします。

また、事業承継もあわせて実現するには、税制面の優遇を得る上でいくつかの条件をクリアしていく必要があったり、後継者の育成に取り組んだりと、自社内だけではまかないきれない業務がいくつも存在するのです。

こういった問題に対しては、ソフト面だけでなくハード面についても包括的にケアできる事業承継士などの専門家にアドバイスをもらうのがよいでしょう。その上で、どの専門家に依頼すれば良いのか見極めるために、ご自分でも事業承継に関する知識を備えておくことが大切です。

事業承継ラボ

日本は大廃業時代に突入するとも言われ、 「事業承継」をいかにうまく行うか。そして、次の世代交代で新たなチャレンジを「IT」と「マーケティング」を活用して実施していく必要がある。 そんな、チャレンジングな強い日本企業の成長を支えて行きたいと考えています。 Facebook URL https://www.facebook.com/jigyoshokeilabo/ Twitter URL https://twitter.com/jigyoshokeilabo