経営承継士レガティスタ®とは、株式会社経営承継が開発した事業承継のコンサルティングプログラムlegato®を行う専門家。この日行われた経営承継士レガティスタ®養成講座のガイダンスでは、株式会社経営承継代表取締役社長の幾島 光子(いくしま みつこ)氏が登壇し経営承継士レガティスタ®の魅力やその将来性を伝えてくれた。
事業承継は人の人生を左右する重要な問題
冒頭、幾島氏より現在日本で起こっている後継者問題の概要について説明があった。
幾島氏によると、後継者がいないと言われている中小企業の会社は64.8%に及ぶとのこと。さらに15年ほど前に中小企業420万社あったのが360万社を切り、年間3万社が黒字で廃業。これは赤字で廃業しているところの3倍にも上る。このように後継者問題が中小企業の存続を難しくしている実情を述べた。
そして、さらに深刻となっているのは、この問題により約20万人の失業者が生まれているという事実。「首都圏ならまだしも、地方で特別な技術をもった人が働く会社が突然廃業してしまうと、その地域では働き手として吸収できない。他人を雇ってしまっている限りは放置できない問題です。だからこそ事業承継は早く手を打つべきです」と危機感を募らせていた。
複雑な問題が絡みあうからこそ事業承継は難しい
幾島氏は、「事業承継はいくつかの問題が複雑に絡み合っている」と説明。まずは事業承継の問題なのか、事業再生の問題なのか経営者もわからなくなっていると述べる。「よく話を聞くと、後継者の問題でなく経営者が時代に乗り遅れ、売上が下がってきていることも多い」と説明した。その次に問題となるのが、債務保証だ。
「例えば後継者である子供はOKでも奥様が嫌がることもあります。実家の稼業を継ぐだけでなく、『債務の保証人になるなんて聞いていない』ともめる場合が多いです」と述べた。
さらに問題なのは「後継者がいない、もしくは育っていない」という状況なのだとか。
幾島氏によれば「育っていない理由の多くは、親が後継者である子供に教育していないという点。だからこそ解決しづらい問題である」と説明した。
そして最後に重要なのは気持ちの問題だ。
「会社を売却してお金が入ってきた時の気持ちを経営者に聞いた際『社会的に死んだようなものだ』と言われました。会社に一生を捧げてきた人は全部無くなってしまう、よって事業承継を先送りしたくなるのでしょう」と説明。さらに当事者意識も低く、80代の会社経営者が幾島氏に『あそこの会社、なぜ事業承継しないのかね』と棚に上げたような相談に来たこともあったのだとか。こうして自分の会社に事業承継を落とし込めていない人が多数いると述べた。
事業承継の前さばきを実行する経営承継士レガティスタ®
このような問題に対してレガティスタが事業承継のコンサルティングや‘前さばき’を行い事業承継の早期化を進めていくとのこと。現状、事業承継において、後継者に継がせる、できないところはM&Aという構図が出来てしまっているが、そうではなくlegato(レガート)を行って問題を顕在化させることで、事業承継は順列組み合わせで複数を提案することができると説明。
「実際、複数案を提案する人はいません。M&Aのコンサルティングしている人がアドバイスを行うことはあっても、他の方法を提案する事業承継のコンサルティングはしていません。レガティスタは中立的な立場でプラン提案を行い専門家にトスアップする、前さばき作業を意識して行っています」とレガティスタの役割を述べた。
‘ヒアリング’と ‘インタビュー’の使い分けが事業承継成功へのカギ
ここからは幾島氏による経営承継士レガティスタのワークフローを説明。前提として、こちらが必要とする情報を聞き出す‘ヒアリング’と相手の要望を引き出す‘インタビュー’を、経営承継士レガティスタが行うlegato(レガート)コミュニケーションは明確に分けていると述べる。まず契約の前に試算表をはじめコンプライアンス面も含めてまずは自分たちがlegato(レガート)するべき人材かをヒアリングする。その上で契約をして、個別インタビューを実行。legato(レガート)ではコーチング技術を取り入れたコミュニケーション方法で関係者の想いを顕在化させることが可能だと説明する。
「経営者の方も実際どのように承継したいかわからない。ただ周りから言われたから、という人も多いです。例えば、売るしかないと思っているからM&Aという手法を選択しているが、本当はその技術を誰かに継がせたいから売ってでも継承したいという潜在的な意識があり、表面上の意識と全く異なります。これをlegato(レガート)コミュニケーションの技術でアプローチしていき潜在的な想いを顕在化していくのです。」
この潜在的な想いの顕在化が欠如してしまいM&Aの調印式の前に逃げられることも多いとのこと。事前に本当はどういうことがやりたいかを聞くのが重要だと幾島氏は述べた。
さらにコミュニケーションの肝は人間関係を築く事だが、最も重要視しているのは、相手の価値観を大切にすることであると、幾島氏は述べる。
「自分でも自分が大切なものは何かが分かっていない。そこまでを深く掘り下げていき信頼関係を築いてこそ経営者の想いを顕在化できる」と説明した。
さらに経営者以外にも複数の関係者にインタビューすることも重要なタスクのひとつであると説明。「中小企業の場合、決裁者と意思決定者が違う場合が多い。意思決定者が奥様だったり、別の声の大きい第三者だったりしてM&Aをやめてしまうケースもあります。決裁者よりも強い意思決定者が誰かを探る必要がありその人の気持ちを聞くことも重要です」
思わぬ意思決定者が引き起こすリスク
セミナーの後半では、前述の内容を基に、幾島氏の経験からlegato®(レガート)の重要性を説いていった。まだlegato®(レガート)プログラムが確立化されていないころ、幾島氏は小さな温泉旅館の経営者探しを頼まれた。この旅館は5部屋のスモールラグジュアリーに事業形態を変更したが、サービスの質が追い付かずリピーターが獲得できずにいた。そこで幾島氏は別のホテルの経営者だったA氏を雇われ経営者として紹介したが、入社2日目に事件が勃発。
「実は一番声の大きい意思決定者が板前さんで『俺が仕切っている場所に知らない奴をいれるな!』と怒ってしまい、社長派と板前さん派に分かれてしまいました。現場はサービス向上どころかぎくしゃくして混乱。お客様の評価を見ると料理の評価は高く、板前さんを辞めさせるわけにはいかない。結局心労が重なった新社長を連れ帰ることになってしまいました。私たちが板前さんの話を聞いていれば防げた問題でした」
こういった経緯から‘インタビュー’ ‘ヒアリング’を重要視。その手法を確立化するように至ったと説明した。
‘インタビュー’ ‘ヒアリング’を重要化した結果、現在、幾島氏が担当する小さな商社の事業承継では最初子供に継がせたいといっていた社長が、もっと会社を大きくしたいという潜在的な意識の聞き出しに成功。しかし周りをヒアリングしていくと、様々な障害があるということもわかり、事業譲渡や別人材への継承などあらゆる側面を提案し、社長の想いを形にしていっているのだとか。「世の中にここまでやる人材紹介は我々しかいない」と力強く語った。
事業承継の未来を導くファシリテーター
経営承継士レガティスタ®養成講座では“税務”“ライフプランニング”“ファイナンス”という事業承継の基礎を網羅的に学ぶことが可能であると幾島氏。もちろんlegatoコミュニケーションの習得にも力をいれており講座の卒業生の中には『自分のコミュニケーションの傾向が分かった』『心情面までに踏み込んだコミュニケーションを避けていたが質問することができるようになりました』と、自らの成長に対する喜びの声も多数上がっているとのことだった。
専門性の高いジャンルの初級講座などフォローアッププログラムも充実化しており、M&Aのコンサルティングの担当者や中小企業診断士、保険の代理店勤務の方など事業承継に関わる多様な人材の受講者も多い模様。講座内での繋がりが今後の事業承継事案を円滑に進めることに繋がることも。
幾島氏は、「事業承継を最適な未来を導くファシリテーターとして経営承継士レガティスタ®の資格取得を目指し、ぜひ講座を受けてほしい」と述べ、本セミナーを締めくくった。
セミナー後のインタビュー
昨今、事業承継士や事業承継アドバイザーなど、事業承継に関わる様々な資格がありますが、私たちは決して資格ビジネスを展開したいわけではなく、あくまでlegato®(レガート)ができる人を育成したい、すなわち教育ビジネスを勧めたいと思っています。
なぜなら、経営者の話を聞かずにソリューションを提案する専門家ばかりが存在しており、そこに危惧を覚えたからに他なりません。もちろん、私たち経営承継士レガティスタも専門家ではありますが、方向性がまったく違います。事業承継を実施するにあたっては約20種類の専門家が必要です。普通の経営者が単独で進められるわけがありません。そこで始めたのが経営承継士レガティスタの教育です。経営承継士レガティスタは、M&Aの専門家や株価評価ができる専門家を育てるのとはコンセプトが大きく違います。経営者の気持ちに寄り添い事業承継を勧められるコンサルタントは経営承継士レガティスタのことだと断言します。
世の中、事業承継が進んでいない企業が増えているにも関わらず、真のコンサルティングができる専門家がいない。このような状態が続く限り、後継者不足による黒字倒産企業が増えていくのは残念ながら間違いありません。当然、GDPも下降の一途を辿っていきます。そういった危険性を防ぎたい、そんな思いを持って、私たちはこの経営承継士レガティスタの育成を進めています。都市部を中心に展開してきましたが、最近は受講生からの要望で地方でも講座を開催する動きが起こっています。経営承継士レガティスタには、日本の中小企業を救いたいという熱い思いがあります。こうした思いを抱く経営承継士レガティスタをひとりでも多く輩出して、日本経済の原動力である中小企業を支援していきたいと強く思っています。
株式会社経営承継 代表取締役:幾島 光子氏
新潟大学法学部卒業。大手会計事務所における会計コンサルタント、会計事務所に対するIT戦略コンサルタントを経て、大手人材紹介会社に転職。エグゼクティブクラスの採用を担当し、のちに流通・小売専門の人材紹介会社においてエグゼクティブ部門の立上げに参画。年間400名の転職希望者との面談を実施した。2011年、日本で初めて中小企業の事業承継に関わる後継者紹介サービスを始め、2014年に事業承継専門の人材紹介会社である株式会社経営承継を設立、現在に至る。