MBO(マネジメント・バイアウト)とは、第三者による買収とは異なり、経営陣が自社の企業・事業を買収するM&A手法を意味します。経営陣がMBOを行うことで、会社の所有と経営の一致が実現されるのが大きな特徴です。
よく混同されてしまうTOB(株式公開買付)とは、誰が株式を買い取るのかという点で異なっています。

MBO を活用すべき3つの場面

MBOが、企業の成長戦略や事業継承に有効な手段となる、3つの活用場面を紹介します。

上場会社の非公開化

経営陣が買い手となって、既存株主に対し株式公開買付(TOB)を行うことで非公開化を実現することができます。MBOにより上場を廃止する理由には、上場企業特有のデメリットが関係しています。
会社の株式を株式市場に上場しているが故に、キャピタルゲインを目的とした個人投資家や機関投資家などの株主から、常に業績改善や株価上昇のプレッシャーを受けることになります。その為、短期的な業績の向上を目的とする、近視眼的な経営に陥りがちです。
また、上場の維持に伴う時間と費用や敵対的買収の危険性が挙げられます。

これらデメリットに対して、株主の影響受けることなく、機動的で長期的な経営を望む経営者が、自ら株式を取得し非公開化するためにMBOを利用します。実際に今年は、”豆蔵ホールディングス”や上場歴30年近くにもなる”JEUGIA”がMBOによる非公開化を行いました。

 

後継者による事業承継

買い手である経営陣がオーナー社長から株式を取得することで、会社の事業承継が実現します。オーナー社長として、後継者である親族や役員などの経営陣に株式を渡して会社を任せたいと考えている場合、また後継者としても、オーナー社長から株式を取得して会社を継ぎたいと考えている場合にMBOが用いられます。

似た手法にEBO(エンプロイー・バイアウト)がありますが、この違いは後継者が「役員」であるのか「従業員」であるのかということです。事業承継型MBOのメリットは、従業員からの理解を得やすいうえに、会社の事情や経営方針をよく知る役員が後継者となることで、その承継がスムーズに進む点です。優秀な役員に経営権を譲ることにより、会社の発展に大きな力となるケースも多くあります。この手法は、中小企業でよく利用されています。

 

カーブアウトによる独立

「カーブアウト」とは、「Carve out=切り出す」という意味の英単語です。MBOの場面では、大企業や中堅企業が親会社の出資・支援やファンドなど外部組織から投資を受け、技術や人材など事業の一部を外部に切り出し、新会社として独立させることで、事業価値を高める経営手法のことを言います。子会社の経営陣が、株主である親会社から、子会社の株式を取得することで、子会社の経営陣は、親会社からのカーブアウトによる独立を果たすことができます。

親会社としては、全社的な選択と集中を進めるうえで、ノンコア事業の分離を希望する場合があります。ノンコア事業を切り離すことによるコスト削減や譲渡対価による成長資金としてコア事業への投資が目的となります。

子会社のノンコア事業は、積極的な設備投資が抑制されるなど親会社から経営に対して一定の制約が課されているケースがあります。そこで、親会社の方針に捉われない自由な経営を目的として独立します。

このように、売り手である親会社と買い手であるノンコア事業の部門トップのニーズが一致した場合、MBOを通じてカーブアウトが実現されます。今年は実際に、400F(フォーハンドレッドエフ)の経営陣である中村氏が親会社の株式を買い取り、独立することを発表しました。また、オウケイウェイブは、子会社ブリックスをMBOによってカーブアウトすることを発表しました。

 

MBOの実行手順

MBO導入手順は、大きく分けて3つの手順があります。

①企業価値を算出する ②新会社の設立 ③MBO用の資金調達

企業価値算出

MBOを実施する際、株式を買い付けるために企業価値を算出する必要があります。上場企業の場合には既に株式市場からの評価で時価総額が決まっていますが、未公開企業の場合にはコストアプローチやインカムアプローチ(DFC法)、マーケットアプローチなどの企業価値の算出方法を複数もしくは最適な算出方法を使用し企業価値を算出します。

 

新会社の設立

MBOを実施するには株式買取のための受け皿となる新会社(Special Purpose Company=特別目的会社)が必要となります。資金調達のためだけに設立される法人です。

SPCを設立することで、経営陣は個人の信用ではなく、法人としての信用によって金融機関から資金調達ができるようになります。その結果、MBOの最大の課題である莫大な買収資金を調達できるようになります。新会社ではMBO実施後の借入金や投資家からの資本などの資本政策まで含めて考える必要があります。新会社による株式買取の完了後にMBO対象の企業と新会社を合併させ、MBO完了となります。

 

MBO用の資金調達

MBOでは現行の株主から株式を取得するため多額の資金が必要となります。一般的にはそのような資金を経営陣が自己資本で賄うのが難しいため、金融機関などからの借入金などを活用します。主な借入先は銀行、投資ファンド、ビジネスローン、日本政策金融公庫などがあります。それぞれ借入できる金額の大小や借り入れが完了するまでの時間に差があるため、現状や目的に合わせて活用する必要があります。

今回は、具体的にMBOを実行する前段階として有効な指標を徹底解説したいと思います。

MBOを成功させるためのチェックリスト

まず、MBOの実行に移る前に、MBOを実行する人自身の資質・能力と事業の可能性・実績について、客観的に点検し自己評価する必要があります。今回はこの部分を徹底解説します。MBOの実行を考えている経営者の方々には、このチェックリストを参考にしていただきたいです。大きく点検項目は三つあります。

事業の可能性点検

対象となる事業が、今後充分の可能性を持っているか否かを見る必要があります。点検項目は次のとおりです。

事業のポジショニング
事業が企業グループの中でどのような位置づけであるのかを見ましょう。サテライト(衛星)事業は、企業グループの中核事業とは関連がない事業であるが、今後の展開しだいでいくつかの周辺事業を生み出します。
例えば、製薬会社における介護事業等です。サポート事業は、中核事業やサテライト事業を補完する事業です。マルチメディア事業におけるプロバイダー事業であり、アウトソーシング可能な事業です。

事業コンセプトのユニークさ
同業他社と比較して、唯一といえるコンセプトか、または似たようなコンセプトかを見ましょう。

市場の成長率
当該事業が属する市場がどのようなペースで成長しているのかを見ましょう。目安として、過去三カ年の平均成長率を尺度として使います。

KFの確実度
事業の成功を実現する主要要因があり、その要因をどれだけ充足させているのかを見ましょう。規模、技術力、顧客対応の迅速さなどKFとなりえる要素はさまざまですが、業界で優位に戦っていくためには、KFとなる要因について必要なだけの能力や資産を持っている必要があります。
また、競争構造の変化により、KFが変化する場合もあります。通常KF(Key Factor)は五個以上あるので、八〇%(四個)と六○%(三個)の区切りでランクづけます。

システムのイノベーション度
事業を動かしているしくみが、同業他社を大きく引き離すような先進性を持っているかを見ましょう。業界ナンバーワン企業のシステムよりはるかに遅れたシステムでは、事業の可能性は低くなります。

 

実績点検

実績が一年以上ある場合は、事業そのものの可能性に見合った業績を残しているのかを見ましょう。この点検項目は次のとおりです。

成長性
過去三カ年平均の売上高伸び率です。業種特性により伸び率に違いがあるため、それを加味して判断しましょう。

収益性
売上高営業利益率で見ましょう。成長性と同様に過去三カ年平均値で判断します。業種特性も加味する必要があります。

フリーキャッシュフロー
事業価値を決める指標です。事業部門の場合は、貸借対照表を作成してから算出する必要があります。今後五カ年の事業計画のディスカウント・フリーキャッシュフローが、親会社から株式買取額算定の基礎数値となります。

投資回収期間での残り年数
対象事業に投下された初期および追加投資について、管理会計上の投資回収期間終了までの残り年数を見ましょう。投資額が大きくて残り年数も長いと、MBOの負担となります。

リスク内容と大きさ
対象事業が抱える種々のリスクとその程度を見ましょう。リスクには、戦争などのカントリーリスクから為替の乱高下・環境規制の強化などの外的リスクだけでなく、技術の陳腐化・価格競争による販売価格の低下と収益悪化などの内的リスクまで含みます。リスクをすべて想定し、対応策が立てられていることが不可欠です。

 

能力点検

MBO実行者の資質と能力が、MBOに挑戦するのに適しているか否かを見る必要があります。

リーダー度
どの程度部下を統率しているのかを見ましょう。MBOでは、明確なビジョンを持って部下全員を納得させて行動させる統率者型が、最も適しています。部下に持ち上げられるおみこし型では難しいです。

イノベーション経験
変化を起こす業務革新を、MBO実行者が実践してきたのかを見ましょう。業務革新の経験が一度以上あれば能力として充分です。また、業務革新にチャレンジし自己責任以外の理由で失敗した場合でも問題ありません。

現事業へのコミットメント
現事業に対するMB0実行者の執着度合いを見ましょう。MBOでは現事業と生涯を共にする覚悟が大切になります。

責任者の経験年数
事業部門やグループ企業を実際に運営した経験の長さが問われます。経験が長いほど良いわけではないが、少なくとも五年以上の経験年数は必要となります。

赤字事業(または部門)の黒字化実績
再建や活性化した実績の有無は重要です。逆風の中を切り抜けた知恵と行動こそMBOに不可欠な要素となります。現在再建または活性化で効果を上げつつある場合も問題ありません。

 

評点の算出と見方

I~Eの各五項目についてA・B・Cのいずれに該当しているかを下のチェックリストを参考に自己評価してみましょう。該当したA~Cに×印をし、右端に点数を入れます。各項目の点数を合計し、合計点数欄に記入します。

合計点の見方は次のとおりです。

Aランク:六〇点以上(満点七五点)で、自信をもってMBOに踏み切れる点数です。

Bランク:四五点以上で、I~Ⅲの中で点数の低い項目を改善するように努めましょう。六カ月を目安に見直し再び点検してください。

Cランク:四五点未満で、現段階ではMBOに挑戦することは思い止まる方が無難です。

 

■MBOを成功させるためのチェックリスト■

点検項目A(5点)B(3点)C(1点)

I.事業の可能性点検

事業のポジショニング非関連のサテライト事業関連のサポート事業非関連のサポート事業
事業コンセプトのユニークさ同種事業の中で唯一類似コンセプトが3社以内類似コンセプトが4社以上
市場の成長率過去3ヵ年平均10%超同5~10%未満同5%未満
KF(キーファクター)の確実度KFの80%以上を充足させているKFの60%以上を充足させているKFの60%未満
システムのイノベーション度業界で先進的システムを運営業界№1のものまねシステム業界№1よりはるかに遅れたシステム

Ⅱ.実績点検

成長性過去3ヵ年平均10%超同5~10%未満同5%未満
収益性売上高営業利益率10%超同5~10%未満同5%未満
フリーキャッシュフロー過去3ヵ年ともプラス直近年度でプラス直近年度でもマイナス
投資回収期間での残り年数3年以内3年超5年以内6年以上
リスク内容と大きさ致命的リスクなくリスクは軽微事業に大きな影響あるが対策可能致命的がリスクある

Ⅲ.能力点検

あなたのリーダー度明確なビジョンで全員をリード調整型おみこし型
イノベーション経験事業または部門の業務革新に成功同業務革新に挑戦し失敗挑戦したことがない
現事業へのコミットメントメント現事業に生涯をかける現事業に熱意を持つ単なる配属で熱意なし
責任者の経験年数10年以上5~10年未満5年未満
赤字事業(または部門)の黒字化実績責任者として黒字化した責任者として再建途上にある責任者として黒字化なし

 

まとめ

近年、MBOによるカーブアウトや上場廃止が増加傾向にあります。

このMBOという手法は、通常のM&Aとは異なり買収側・事業を引き継ぐ側のことも考えて行う必要があるため、難易度も高くなっています。是非当記事で、MBOの概要や特徴を参考にしていただきたいです。特にMBOを検討されている経営者の方にとって、チェックリストは実行の前段階で有効な検討材料になるはずです。是非、当記事を参考にMBOの理解を深めてください。