愛知県海部郡大治町で100年以上続く製缶メーカー側島製罐株式会社の後継者として、2020年に東京からUターンされた石川氏。現在は事業承継に向けて、社員の皆様が幸せに働ける会社とするべく取り組まれています。

事業承継への取り組み

――まずは、事業概要について教えてください。

はい、弊社は名前の通り製缶業を営んでおり、缶製造のみを行っている会社です。

缶と言うと、飲み物の缶やドラム缶など色々イメージされるかと思うのですが、弊社は”一般缶”と呼ばれる、主にお菓子や乾物などに使われている汎用性の高い缶を製造しています。基本的にはお菓子や乾物用の缶ですが、他にもカーワックスや蚊取り線香、粉薬といった製品の缶も製造しております。

 

――ありがとうございます。では実際に石川様が取り組まれている事業承継についてお聞かせください。

去年の2020年4月に弊社へ入社し、現在1年2ヶ月が経過しました。製造現場や営業の実務はまだ着手しておらず、そういう意味では社員のみんなに申し訳なく思いつつではありますが、横断的な改善・改革に取り組んでいます。

 

――先代(お父様)から会社を引き継ぐ決断をしたきっかけはありましたか?

元々、会社を継ぐつもりはありませんでしたが、前職で金融サービスや政策を通じて中小企業の支援を主に取り組んできたところで、自分の親の会社やそこで働いている方たちにはなにも恩返しできていないという自己欺瞞のような気持が次第に強まってきたのが大きなきっかけの一つです。

会社HP:https://sobajima-daiwa.co.jp/index.html

 

事業承継のリアル

――実際に事業承継に取り組まれるなかで大変なことはありますか?

社員とのコミュニケーションで当初は苦労しました。
例えば、全然関係ないことを話していたのに、それがねじ曲げられて「たかやさんがこんなこと言ってた。」という偽情報が出回ることもありました。笑

ですが、社員のみんなと日々向き合う中で、少しずつ信頼関係は築けていると感じています。

 

――社員様とコミュニケーションを取る中で工夫されていることはありますか?

一言一言をとても大切にしています。挨拶やお礼も何かアクションがあるごとに一言発するよう意識しています。

また例えば、ただ「お疲れさま」と言うだけでなく、それにもう一言付け加えるといったように、自分自身が思っている感謝の想いをそのまま言葉にして伝えることを心がけています。

 

――何か新たに挑戦されましたか?

システム的なことで言えば、チャットツールの導入、見積作成のシステム化やクラウド会計の導入などをやってきました。前職でも特に経験はなかった領域でしたが、率先垂範ということでイチから勉強して取り組みました。

 

――「経営理念」や「人事評価制度」がないと伺ったのですが、何故ですか?

元々、大元の会社から製缶部門が独立して現在の会社ができたという背景等もあり、経営理念やそれに準ずるものは今まで存在しなかったようです。

細かい決まりや制度を決めるためにも、まず柱となる経営理念のようなものをしっかりと作成したいと考えています。現在は社内でMVV策定のプロジェクトを立ち上げ、社長や社員の声を集めながら目下作っているところです。

 

これからの会社の未来へ向かって

――これからどのように会社を引っ張っていきたいと考えられていますか?

まずは、働いている方々をもっと幸せにしたいと考えています。

去年この会社に戻ってきた時は、会社の雰囲気はやや閉鎖的で、風通しもあまり良くなく、挨拶等も元気がない印象でした。まずは、シンプルに挨拶などから改善して、まだ全員ではありませんが少しずつ社内の雰囲気を変えていけるよう取り組んでいます。

社員のみんなは、日々の業務に一生懸命取り組んでくれていて感謝しかありません。他方で、会社が長年、研修教育に注力してこなかったこともあり、社員のポテンシャルを十分に発揮させられていないという現状があり、そこのテコ入れにも取り組んでいます。

そういった中で働きがいであったり、各々の人生をより豊かにできたら良いなと思っています。

 

――御社の強みは何ですか?

社員のみんなです。
一般的に事業承継する際に問題になる点として既存社員との関係性があると思いますが、弊社の場合は有難いことにそういった軋轢はあまりありません。

弊社の社員に「やってみない?」と声をかければ、わからない事でも前向き一緒に取り組んでくれたり、中には意欲的に自ら提案して動いてくれる人もいます。もちろん、全員ではありませんが、幸せな社会を作ろうという想いに共感して頑張ってくれる社員のことは心から誇りに思っています。

また、元々製造業ながら女性社員も多く、社員もSDGsやエシカル消費等にかかる意識も高いので、自社だけでなく地域も巻き込みながらそうした機運を高めていきたいと思っています。

 

メッセージ

――事業承継を考えられている経営者や後継者の方々に向けてメッセージをお願い致します。

事業承継をする前は特に経験に投資をするのが重要だと考えています。若い時にモノに消費しすぎるよりも経験に投資することで多次元的なインプットができると考えています。

また、シンプルに事業承継は楽しいです。
大きな組織で働いていた時は、その仕事のインパクトの大きさや人との出会いの多さなど、その恩恵は計り知れないものがあるのですが、中小企業では機動力高く自由に旗振りができるので、また違った面白さがあると思っています。

大企業と中小企業のどちらが良いということはありませんが、「やりたい」と思ったことをすぐ行動に移すことができるのは中小企業の醍醐味ですね。自ら主体的に考え行動することに抵抗がない方には素晴らしい環境だと思っています。