女性が事業承継というものについて気負い過ぎることなくもう少し気軽に考える場にしたいという想いで一般社団法人日本跡取り娘共育協会を設立し、事業承継を行う女性同士のコミュニティを創出されている内山統子氏に設立のきっかけ、女性後継者ならではの強みをお伺いしました。

跡取り娘.com設立のきっかけと名前の由来を教えてください

設立のきっかけとしては、私自身が東京で就職してから地元に戻ったとき、女性の経営者の方が集まる機会というものが男性と比べると少ないなと実感したことがきっかけです。特に将来的に承継するかもしれないという方でも、男性同士のコミュニティに気後れしてしまったり、子育ての関係で夜中心の集まりに参加できなかったりするために、地域のビジネスの情報が行き届かなかったり、彼女たちの経営者としての成長する機会が失われてしまったりしていると感じたんです。

そこから暫く時間がたち、私の出産子育てのタイミングとも重なり、事業承継をする女性同士のコミュニティを創出し、経営者として相互補助を通じて皆さんが成長していく場を設けたいと、一念発起して設立しました。

一般的に事業承継というと、今後の人生を決める重大な決断だというイメージがあると思います。跡取り娘.comというサービス名は、そのような従来の感覚に反して、事業承継というものについて気負い過ぎることなくもう少し気軽に考える場にしたい、という願いを込めてを込めて命名しています。

跡取り娘.comを通じてご支援されていることを教えてください

支援内容としては経営者としてのマインドセットというところが大きいですね。具体的に実施しているのは講座形式であったり、交流会という形での情報交換であったりもします。そしてそのような内側のコミュニティ構築と同時に、外部に対しては女性承継者の活動の告知を行い、ダイバーシティ概念の普及に努めています。

女性後継者が男性後継者よりも後継者教育がされていない現状があると思いますがご見解をお伺いしたいです

それは難しいですね。「そんなことはいけません」と否定するのは簡単ではあるんですけれど、それは日本にずっと続いている文化という側面があるので、分厚い壁だとは現在感じています。私がここ数年間関わらせていただいて思ったこととしては、別に男性も意地悪をしたいわけではなくて、女性に苦労させたくない、娘に苦労させたくないという、そういった気持ちがおありなんだろうな、ということです。なので承継される女性にとってそれが幸せなのかどうか、といったところは性別ではなくて個人の問題になってくるでしょうし、最終的に女性が継がないということでお互いの利害が一致するようであれば、そこは尊重される選択だと思います。ただし一方で本当にスキルがある、能力がある、そして継ぎたいという意識があるにもかかわらず、それが阻害されてしまっているという状況は、残念ながらまだ残っています。そうした場面では意識を変えていかなければいけないでしょう。現在では優秀な学歴やキャリアがある女性たちもどんどん増えてきていますし、ジェンダーギャップ指数から読み取れるように、管理的な立場に女性が少ないということは日本社会の問題でもあります。ですからそうした女性たちが可能性を潰されることなく承継できるようになれば、日本のジェンダーに関する考え方の変化に繋がってくるように思います。

女性後継者ならではの強みや苦戦すること等ありましたら教えていただきたいです

苦戦するのは間違いなく先代との関係、周囲との関係ですね。一方で、女性だからという言い方もよろしくないんですが、男性の承継者と比較してあまりお父様と衝突し過ぎない、母親として子供に承継させることを考えているために先代と後代との中継ぎ的な役割を果たせる、という側面があると感じていますね。一般論ですが、男性の後継者の場合はどのようにして後代に託すかということよりも、自分の代でどれだけ業績を挙げられるか、という点を重視されることが多いような気がします。また女性の特徴だと、コミュニケーション能力に長けていますよね。男性、特に昭和のファーストジェネレーション世代の人たちは、「俺が前に立ってお前たちを引っ張ってくぞ、その代わり俺の言うことを聞け」といった、本当にワンマン経営、軍隊方式のようなところがあって。それで成り立っている時代があったと思うんですけれども、今はそうもいかないという中で、次代の女性後継者の方たちがそうした不満を吸収していったりとか。その点では、福利厚生や働きがいが重要視される昨今の風潮の中、風通しがいいコミュニケーションができるという意味で、女性の承継は時代に合っている面があるんじゃないかな、と思いますね。それと一点付け加えますと、これは女性経営者全般に言えることですが、特に女性後継者の場合は先代のリソースを使いながら、地域や社会に貢献していこうという活動をしている方が多い印象です。いわゆるソーシャルグッドですね。例えば私が知っている仲介業者さんは、女性の過ごしやすさや健康のためのいわゆるフェムティックなグッズを中心に取り扱っていらっしゃいます。こうしたマイノリティの視点を社会に導入できるという意味で、女性後継者の意義は大きいでしょう。

今後ご尽力されていたきたいことがあればご教授いただきたいです

私達は現在数値の目標を設定していまして、現在の女性の後継者の方たちの全体の中での割合は8%から10%くらいだと思うんです。そしてこの比率を少なくとも20%以上に引き上げなければいけないだろうな、と思っています。私は女性経営者団体ではなくて女性の後継者団体という自負がありますので、そのためには承継する前、実際に承継する段階、承継した後、フェーズごとに生じる障害に会員の皆様同士が各々寄り添って解決できるような場作りをしていきたいですね。理想としては、私たちが介入するのではなく皆さんが自発的に仲間のケースから学んでいくという形です。皆さんが気兼ねなく話し合えるような心理的安全性を維持することが私たちの役割であり、その延長線上に女性が安心して承継できる社会があると思います。改めて、私は女性の事業承継が社会変革に関して秘めている可能性は凄いものだと考えているんです。私は創業の人間ではありますけれども、創業と承継というのは様々な面で異なっていますよね。そして承継の場合、既に地域に根差しているのが大きなポイントなんです。もう何代も続いてる会社であれば地元の名士の方々とも繋がっているので、そうした集まりの中に女性が入るという面でインパクトがありますよね。

最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いいたします

事業承継を経験する中でたくさん迷われると思うんですが、女性の事業承継を支援している立場から言うと、女性だからこそ継いで良かった、跡継ぎが私でよかったと最終的に自分のことを肯定できるように活動してほしいと願っております。後継者の方たちは様々な場面で否定から入られたり、逆に奇異な目線で見られたり、ご苦労もあるかと思いますが、決して先代のやり方を完全に踏襲する必要性もありませんし、その中で自分の本当にやるべきこと、あるべき姿を見据えていきながら、将来に進んでいきたいですね。

 

ディレクター/桐谷晃世