グレーチング・排水ユニット・手すりなど、環境保全や安全に配慮した製品を製造する、株式会社シマブンの7代目である島英雄様に事業概要と事業承継の展望についてお話を伺いました。

執筆者:桐谷晃世

シマブンの会社概要について教えていただけますでしょうか。

 会社概要としては、「グレーチング」というプールや公園にあるような側溝の蓋を専門的に製造しております。

グレーチングにも非金属製と金属製のものがあるなかで、当社は樹脂製グレーチングでトップシェアを占めております。この分野では営業を北海道から沖縄、そして海外4カ国にまで展開していますね。

 当社は創立が1871年で、最初は瓦屋からのスタートだったのですが、次第に建築材料や建築資材にまで手を広げ、現在はグレーチングを主な事業として扱っているという形になります。

シマブンに海外事業の担当者として入社したきっかけはなんでしょうか。

 失職していたタイミングで父から誘いを受けたことがきっかけです。

 私がシマブンに入社したときは、ちょうどコロナ禍が猛威を振るっていた時期でした。前職の営業所が閉鎖になり、従業員は私を含め全員解雇ということになってしまって、当てもなく就職活動をしていると、シマブンから海外事業担当のポストが空いたのでそこに就いてくれ、という話を受けたんです。

 ただ海外事業の責任者とはいえ、ゆくゆくは確実に経営に関与することになるだろう、とはそのときから感じていましたね。

なぜ事業承継を行う前提で入社することを決心されたのでしょうか。

そうですね、一つにやはり物心つく前から親戚の皆さんに後継ぎとして期待されており、自分にもそういう思考が無意識レベルで存在したことが大きかったと思います。

成長してからは承継について具体的な話を父親としたことはなくて、好きなことをやっていいと言われてはいたのですが、それでもいつかは後継者として会社に入るべきなのかもしれないとは考えていました。 

今振り返って、父親と事業承継の話をしていなかったことに対する後悔などはありますか。

これは私の承継関係の友人に聞いても何パターンかあるようなのですが、あくまで私の場合は、学生の頃に事業承継の話はしなくてよかったと思っています。

自分としては、もしその話をして家業を継げるという確信を持ったとしたら、就職して懸命に働いてはいるけれど、頭の片隅には嫌だったら逃げて家業に入ればいいという意識が生まれていたかもしれないと感じます。

逆にそこでしっかり将来を決めなかったからこそ、私も色々な業界を見て自分の可能性を模索できたということもありますし、そこから家業に帰ってきたときの行動も変わっていったのではないでしょうか。

社内環境の整備に注力されていると拝見しましたが、詳しく教えてください。

そのときは「社内環境」という言葉を使っていましたが、今は「組織」という言葉を用いています。

理念としては、組織全体のレベルを上げていって、最終的に表面だけでなく根本的な部分からのブランディングを行っていきたいと考えていますね。

そのため具体的に今取り組んでいることとしては、企業理念の中枢としてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定することがあります。
また1年半ほど前になりますが、事務所を改装しました。以前の事務所で人数が増え、少し窮屈になっていたということもあります。改装して良かったという言葉はやはり嬉しいですね。他には有給制度を少し見直して、1日・半休に追加して1時間単位での有給制度を追加したりしてます。これは、ご自身の体調もそうですが、子育て世代でいつ病院や早退などあるか分からないということもあるので、設けました。これも好評で、結構皆さん使ってます。まだまだ満足することなく、少しずつ変化をしていこうと考えてます。数年後に振り返って「結構変わったね」と皆さんに実感して頂けるように、これからも頑張ります!

2021年に承継されたとお見受けしましたが、具体的に事業承継の準備などはどのようなことをされていますか。

具体的にどうということはあまり考えたことがなくて、言ってしまえばすべての活動が事業承継の準備ということにもなるのですが、ただ強いて言えば「採用」かもしれないとは思います。

まだ実際に形にしてはいないのですが、自分なりの会社に対するMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)があるので、それに基づいて次代を担う人材を採用しています。

ただしそうしたMVVは、私だけでなく従業員の皆さんにも根底では同じものが植えられていると思いますので、私が誰よりも前に立って先導するということはないです。あくまで組織全体として同じ方向を向いて活動しているという感じですね。

承継を見据えて行ってよかった準備などありましたらご教示いただきたいです。

 それは社外で関係を作ることですね。

 仕事は社内にあるものですが、同時に社外とのコネクションは経営のうえで非常に重要になります。特に承継の先輩と私的に関係を築いておくと、事業承継に際して有益なアドバイスをしてくれると思います。「自分はここで失敗したけど島くんには失敗してほしくない」というように、皆さん結構親身に答えてくれるものです。

それはどういう繋がりですか、業界や商工会ですか。

 いえ、本当に私的な繋がりで、業界でも商工会でもありません。

 私の知り合いの社長さんはほとんど関東にいらっしゃいますので、出張のときなどにご飯でも食べながらお話することが多いですね。

承継前に不安なことなどはありますか。

同じ質問を1年前や1年半前に受けていたら、不安なことだらけだと答えていたと思います。

ただ今は正直不安はないですね。それは私だけの問題ではなく、社内全体のレベルが上がってきているので、逆に私個人で心配することなどあまりないと感じているからなんです。

それにここ数年で自分がこれから何をすべきかが大体頭のなかで構築されてきて、ある程度の答えは出たという状況です。もちろんそれがない、自分が何をすればよいのか分からない段階では不安でしたが、あとは行動するだけですから。 

承継後に挑戦されたいことはありますか。

たくさんありますが、大きいものといえばぜひ私を無職にしてほしいと思います。

私の判断がないと進まないというワンマン経営ではなくて、社員全体で同じ価値観を持って同じ軸で働いてるからこそ、みんなで話し合えば答えが出るという分極的な体制を構築することが理想ですね。

 そして無職になった暁には、また自力で起業したいと考えています。今法人化したいと考えている事業は三つ四つありますし、最終的な人生の目標というものも定まってきたので、あとはそこに向かって進むだけです。

最後にメッセージをお願いします。

目の前のことに誰よりも一生懸命、そして阿呆みたいに向き合っていってください。それは仕事でも人間関係でも何でもいいですから、とにかく全力を出し切ってください。

そして主に学生の皆さんに向けてですが、誰よりも負けないものを一つでいいから、友達だろうが、これから知り合う人だろうが、絶対的な自信がある分野を持っておいてください。誰よりも泥団子が上手にできるとか、早くジャングルジムに登れるとか、その程度のことでいいので。

そういう特化した領域があるということは、意外と自分への肯定感に繋がってくるので、そこから派生して思わぬ部分で役に立つことがあると思います。誰にも負けないものを一つ、それがオリジナリティがあるものであればなおよしという感じですね。