堺において50年以上建設事業と資産コンサルティング事業を展開するとともに、先日の事業承継に際して経営者のAIクローンを導入し、経営に対する思いを次代へと伝えていく進和建設工業株式会社 会長 西田 芳明様にお話を伺いました。

36年前に技術職から社長に就任されたとお見受けしましたが、社長になる事を決意された背景をご教授いただきたいです。 

直接のきっかけは、ちょうど36年前、先代である父親が廃業を宣言したことですね。

そのとき私自身は技術一筋で、父はもう継がせたくないと言っていましたが、それをどうにか説得して2年間という条件付きで3代目社長となることを許されました。

その廃業宣言から社長就任までが僅か2週間のことですから、承継のための準備なんて何も手を付ける時間がなかったし、経営者としては空っぽの人間でしたよ。

ですので、そこから思い切り勉強して、思い切り働きました。建設業界に限らず成功している社長に何人も会いに行って、自分の中に取り込もうとしたんです。

私はそうして36年間1日も休まず人に会い、本を読んで、自己研鑽をし続けましたよ。結局のところ、そうした積み重ねこそが今事業が成功に至った秘訣だと思っています。 

社長にご就任された後のローコストマンションの開発の背景とローコストマンションについてご教授いただきたいです。

「ローコストマンション」とは、読んで字のごとく建築費をできる限り抑えたマンションのことです。

その出発点としては、世界と比較したときに「日本の家賃は高いな」と感じたことがあるんです。そのとき自分がオーナーの立場になってみると、家賃を抑えるためには建築費を抑えることが最も大事だと思いついたんですよ。

ですのでローコストマンションの開発は、オーナーにとっては収益性が上がるし、入居者にとっては良いマンションを安く借りられるし、さらに我々建築会社にとっては建築技術を向上させるきっかけにもなる。まさしく五方良しの事業になるんですね。

企業というのは利潤だけではなく、社会に対する公益性ということも考えなければなりませんから。社会全体に良い影響を及ぼす事業を展開したいという意図もあって、ローコストマンション開発を始めました。

建設業界をより魅力的にするために様々な観点で活動されていると思いますが、どのような時にやりがいを感じられますか。

建築って、私たちが子どもの頃は「格好いい仕事」でした。

しかしここ最近はいわゆる3Kの業種として見なされることも多く、人気が下がっていることを実感してもいるので、もっと魅力的にしていかなければならないと思っています。

それは給料を上げる、働きがいのある仕組みを作る、といった基本的な改善はもちろん、地域と密着できるようなプロジェクトを展開したりすることで従来のハードなイメージを変えていくことも必要になってくるでしょう。

今はその目標に向かって構想を巡らせたり、実際に行動に繋げていくところにやりがいを感じていますね。

AIクローンによる事業承継を決意されたきっかけは何ですか。

 次代に残す、伝えていく、ということが重要だと思っているからです。それは技術やノウハウはもちろんとして、一番は経営に対する思いですね。

 今まではそうした思いを著書にしたり、レポートにしたりすることで他人に伝えていましたが、それらをAIクローンに学習させることで、よりリアルな変わらない形で後に残すことができるんです。

 現在はこれまでの著書に加えて講演の資料、ブログ、社史、理念体系などを学習したところですが、まだまだ発展途上なので、これからも私の思想を表明したものならなんでも入れていきますね。

AIクローン以外でどのような事業承継の準備をされましたか。

まず、経営における価値観や方針などの思考の共有を重視しました。2014年から2024年の10年間にわたって「事業承継プロジェクト」を実施し、事業承継に必要な事項を細かいスケジュールに落とし込みました。

次に、私と現社長、社員数名に加え外部講師を交えた「合宿」を行いました。合宿は1泊2日の旅程を計8回、2022年から1年半かけて実施しました。合宿では、経営に関する私の考え方を119項目にわたり記された資料をテキストとして活用し、マインドの共有を図りました。

さらに、その合宿の内容を二冊の本にまとめました。社内向けには「志をつなぐ」、社外向けには「社長の最後の仕事 100年続く承継と継承 会社の未来につなぐべき経営のすべて」というタイトルで発行し、経営のすべてを後世に伝えることを目指しました。

最後に、急進的な改革を避けるようにし、現社長には2年間、先代と同じことを継続するよう助言しました。これは、私自身も承継直後の2年間、先代の方針を深めることに努めた経験に基づいています。

今後の展望をご教授いただきたいです。

 今後はさらに人材の育成に力を入れていきたいですね。

 結局のところ、経営とは人作りだと思っていますし、そのためには責任を負ってもらうのが一番ですから。事業を展開して子会社を作って、それをどんどん社員に任せていって、苦しい状況の中で成長してもらいたいです。

 進和建設工業では、新卒社員に対しても主体性を重視しています。私が思う大事な能力は三つで、一つは自分で考える力、二つ目はやり抜く力、三つめは自信を持つという力。これをどんどん社員に伝えていきたいと思っています。

最後に事業承継ラボの読者にご教授いただきたいです。

 企業経営に関しては、やはり会社自体が永続的に発展していくような仕組みを作ることが、経営者の一番大きな役割だと思っています。それに加えて人作り、会社のブランディング、といったことを重視すべきでしょう。

 事業承継について言えば、なによりもまず後継者を早く決めること。承継は5年、10年というロングスパンでの計画になるので、早め早めの対応が肝心です。

 会社が永続的に発展していくのが大事と言っているのは、会社は社会に対して大きな役割を背負っている以上、個人のものではなくて公的なものだからです。

 だから粗悪なM&Aのように、事業そのものを僅かな金に換えてしまうようではいけなくて、技術やノウハウを次代に伝え、社会に貢献できるような経営の仕方をしてほしいと思っています。