名古屋を拠点に、和菓子や洋菓子の原材料とパッケージの卸売業を展開する株式会社加藤商店。創業から59年、愛知県の菓子業界を支える同社は、職人たちの手による菓子づくりをサポートしています。今回は、同社3代目である加藤亮太氏に、事業の歩みや後継者としての思い、そして未来へのビジョンについて詳しく伺いました。

事業概要について教えてください。

愛知県全体、特に名古屋市を中心に、和菓子屋さんと洋菓子屋さんが使用する原材料を扱っています(和菓子屋さんが9割)。主に小豆、米粉、砂糖など、お菓子を作るための基本的な材料が中心です。

季節に応じて、例えば秋には栗を扱うことも多いですね。

また、パッケージ類、例えば箱や紙袋、パックなども取り扱っています。これらの商品をお客様の要望に応じて提案し、在庫管理や納品業務を行っています。

加藤商店は、菓子屋さんが抱える様々なニーズに対応するために、単に材料を卸すだけでなく、お客様の立場に立った提案型の営業を行うことを強みにしています。

創業当初からこういった和菓子に特化した原材料の卸売をされていたのですか。

はい。創業者である私の祖父は、もともと同じ業界で働いていました。当時は、今ほど和菓子以外のお菓子が市場に出回っていなかったこともあり、甘いものといえば和菓子が主流でした。冠婚葬祭をはじめとする様々な場面で和菓子が使用され、需要が高かった時代です。

そうした時代背景の中で、祖父はのれん分けのような形で独立し、和菓子の材料を中心に取り扱う卸問屋を創業しました。当時は景気も良く、和菓子業界全体が活気づいていたこともあり、事業は順調に成長していきました。

現在、取引先は愛知県が中心ですか?

そうです。ほとんどが愛知県内のお客様で、特に名古屋市周辺が中心です。一部、岐阜県など近隣のエリアにもお取引がありますが、やはり名古屋を拠点にしていることから、9割以上は愛知県内のお客様です。

地域に密着したビジネスを展開しており、これまで培ってきた信頼関係が強みとなっています。長年の取引を続けているお客様も多く、地域に根ざした商売をすることが当社の大きな特徴です。

トータル提案型の営業を行っているとのことですが、具体的にはどのような提案をされていますか?

トータル提案型営業とは、お客様が御菓子づくりに必要な全ての材料やパッケージを、我々が一括して提供することを指しています。

例えば、ある和菓子屋さんが新しい商品を作ろうとしたとき、私たちは単に材料を提供するだけでなく、レシピの提案や材料の組み合わせ、さらには包装まで含めた提案を行います。職人さんたちは日々の製造に忙しく、新商品の開発に時間を割く余裕がないことも多いです。

そんな時に私たちが、”こんな材料を使えば新しい商品が作れます” とか、”このパッケージを使えば季節感が出せますよ” といった具体的なアイディアを提供することで、お客様が商品開発をスムーズに進められるようサポートしています。

これにより、単に原材料を卸すだけでなく、お客様のビジネスをより良くするためのパートナーとしての役割を果たしていると考えています。

トータル提案型の営業はいつ頃から始められたのですか?

トータル提案を本格的に始めたのは、7、8年前ですね。

それまでは、和菓子屋さんからの要望があった時にその都度対応するという形が主流でしたが、どの業界にも言える事ですが何かと消費量や生産量が減る今、こちらから積極的にお客様に新しい商品や良質な情報を提案することが求められるようになりました。

それに応える形で、我々も積極的に商品提案を行うようにしました。

特に、和菓子業界は伝統を重んじる一方で、新しい風を取り入れる必要もあります。そこで、伝統と革新のバランスを取りながら、お客様が市場で競争力を維持できるように支援しています。

貴社の強みについて教えてください。

当社の強みは、やはり地域密着型のサービスです。名古屋市内のお客様であれば、すぐに材料やパッケージをお届けできるフットワークの軽さが大きな利点です。

また、長年の取引を通じて築いてきた信頼関係も当社の強みの一つです。お客様からは、「加藤商店に任せておけば安心だ」と言っていただけることが多く、地元での信頼が我々のビジネスを支える重要な要素になっています。

また、トータル提案型の営業により、単に材料を提供するだけでなく、お客様のビジネスに貢献できるパートナーとして、存在感を発揮しています。

事業承継ラボの読者であるアトツギに向けて、メッセージをお願いいたします。

僕は3代目として家業を継いでいますが、親や祖父母が築いた会社を継ぐ際に、時代の流れはどうしても30年ごとに変わってきます。そして、跡継ぎとしては、その変化に適応し、新しいことを始めないと会社が存続しないというプレッシャーが常にあると感じています。これは跡継ぎの皆さん共通の悩みかもしれません。

ただその中でも、業界やビジネスモデルは異なっても、他の業種の成功事例や取り組みには、多くのヒントが隠れていることも事実です。

コミュニティを深め、視点を広げることで、新しいアイデアやアプローチを見つけることができるかもしれません。私は、まだまだ日本で商売を続けていけると信じています。だからこそ、今ある強みをどう活かして新しい時代に対応するかを常に考えることが大切です。

スタートアップと違って、跡継ぎにはすでに築かれた強みが必ず1つ以上あります。会社が存続しているのは、その強みがあるからこそです。

その強みをどう活かして、未来を切り拓いていくか、それが我々に与えられた課題であり、武器です。皆さんもぜひ、跡継ぎとしてこの武器を活かして頑張ってください。