中小企業の持続化を目指し、その手段として日本ではまだい一般的となっていない「従業員事業承継」を通じ、企業の内部から経営人材を創出していく取組みをされるIcon Capital株式会社の代表取締役である安田修一郎様にお話を伺いました。

Icon Capital株式会社の事業概要について教えていただけますか? 

 アイコンキャピタルは、主に従業員事業承継型の投資事業を行っています。

こちらは後継者不在の企業に対して、内部の従業員様が経営者となってゆく過程を支援するという取り組みになります。さらに具体的な手法としては、投資後、従業員のオーナシップ意識が高まる組織設計・報酬設計といった仕組みを導入します。その後、一定目途がたった段階で、株式に関しても従業員の方に引き継いでいただく、という形を志向しております。

 それ以外にも会社様の事業承継ニーズに合わせてM&A含めたコンサルティングを行い、中小企業の永続化を目指した試みを展開している途上です。 

Icon Capitalという社名の由来をお伺いしたいです。 

「象徴的な」を意味する「Iconic(アイコニック)」から取っています。

中小企業を対象として事業承継支援を行い、その業種や地域において象徴的な会社を次世代へと残していくということを目的としており、その意味を込めました。

「従業員事業承継」以外の取り組みについてご教示ください。

 まず一つ目は親族内承継のコンサルティングです。

 親族内承継においては、家族同士だからこそ株式やお金が絡む話をしにくいという空気がありますので、そこで間に入って客観的なご助言をさせていただいております。ファミリービジネスならではの素晴らしさ、難しさということを第三者が入ることでスムーズにいくケースも沢山ございます。

 

 そして二つ目はМ&Aのご相談も多数ございます。

 意識しているのは、「M&Aにより会社が発展し、次世代に残ってゆくのか」という観点を重視しています。特に事業承継型のM&Aを希望される場合、承継先の中にオーナシップ意識をもって会社を引き継げる人材がいるかは、特に意識をして相手を探しております。

 メインは従業員事業承継ですが、それだけにとらわれず広い手法を手掛けていますね。

 

Icon Capital株式会社の強みや他社との違いについて教えてください。 

 基本的には、従業員による事業承継を支援している会社は日本にまだごく僅かしかないと思います。

 また他投資会社と比較すると、投資期間が一番異なるかと思います。ファンドは基本的に3年から7年のペースで第三者に譲渡するビジネスですが、私たちは20年から30年というスパンで伴走していきます。

 期間が長い場合のメリットとして、会社の中から経営人材をじっくり育ていく等、長期的な目線を持てることがあげられます。

 「番頭」という言葉があるように、日本では昔から内部昇格し、リーダーになることが当然の様にありました。現代の中小企業でも同様に、将来的な承継を見据えて中からリーダーを育てていくというやり方ができるはずですし、そのご支援ができると考えています。この会社で働くことは意義がある!経営者になりたい!という人材が中から出てくれば事業承継問題は解決する可能性が高いと考えております。

 

従業員による事業承継を選択することで、オーナーにはどのようなメリットがあるのか教えてください。 

 一番大きいのは、売却対価の違いです。一般的に従業員に事業承継を考える際は、旧オーナーにとっては多くの金銭的な対価は期待できません。一方、私たちが間に入ることで公正な価格での承継を実現させることができます。

 加えてМ&Aの場合は、従業員はこれまでずっと続いてきた会社の文化や理念や方針が根底から変わってしまうのではないか、という心配を抱えることがあります。その点、従業員承継では内部の人間が会社を引き継いでゆくという発想なので納得感がありますし、不安を与えることは少ないかと思います。

商社やM&A仲介会社でのご経験を経て独立を決意されたきっかけを教えていただけますか? 

 普通に働けているのは会社の看板が前提にあって、自分自身は大したことはない、ということを忘れてしまうのではという危機感がありました。人生の中で、看板を外して自分自身ができることを追求してみたい、という想いのもと、独立に至りました。

 この分野を選んだのは、実家の家業や仲介会社などでの経験を経て、この事業が社会に与える影響が大きいと感じたからです。後継者不足という課題は、今後ますます深刻になっていくでしょう。

日本ではまだ浸透していない「従業員事業承継モデル」を選ばれた理由をお伺いしたいです。 

 元々はアメリカの投資モデルとして聞いたことがある程度でした。それがある中小企業のМ&A仲介をご支援した際、本当は従業員に承継したかったけれど、株価が高くて従業員が買い取れなかったのでやむなくМ&Aにした、というオーナーのお話を聞いて、そこで点と点が繋がった感覚があったんです。

 そこでアンテナを広げてみると、多くの中小企業のオーナー様は、従業員を大切に思っていて、できるならば従業員のための会社を残したいと考えてらっしゃるのだと知りました。そこで潜在的な需要があるならば、そのための仕組みを整備したほうがよいと考え、この事業を始めました。 

後継者となる従業員はどのように選定しているのでしょうか。 

 最終的には中からの自然発生的な形としたいですが、最初は一人に経営権を移転するのか、それとも複数とするのかについては、会社に合わせて最も適切な方を選びます。

 日本でまだ事例が少ないので、私たち自身も最適解をカスタマイズしながらですが、個人的にはできるだけ多くの従業員に経営への関心を持ってもらいたいので、後継者候補としての対象は広げていく予定です。

 やる気のある方には、どんどん事業の一部を所有いただき、経営する感覚を知ってもらいたいです。 

既にいくつかの従業員承継投資案件を実施されたと伺いましたが、差し支えない範囲で具体的な事例についてお話しいただけますか?

 今年、関東圏の会社に2件承継させていただきました。長期投資としては、恐らく日本で初めてではないかと思います。どちらも地域・産業に根付いた老舗の会社ですが、今後もこのような経営者や従業員が愛着を持って長く勤めているような企業をご支援していきたいと思っています。 

従業員承継モデルの普及に向けて、現在直面している課題や今後取り組みたいことを教えてください。 

 課題としては、従業員承継モデル自体がまったく広まっていないことです。まずオーナー様に説明することから一苦労ですし、投資家や金融機関の皆様にもより知っていただく必要があると考えています。

 事業としては、若い人にそもそも経営への関心を広めていきたいです。会社から給与をもらうだけではなく、自分で会社を発展させる方法を考え、結果として自分自身にも利益を還元させる、という考え方・風土・制度を普及させていきたいですね。

Icon Capital株式会社で働くことに興味のある方に向けて、職場環境や採用における魅力をお聞かせください。

 まずは、自分の存在意義を意義を感じやすい仕事だと思います。自分がいなければこの会社はこんな風に残っていなかった、という満足感や達成感は忘れられないと思います。その影響は、従業員、さらにそのご家族にまで波及しますので、影響力のある仕事です。

 特に弊社は、経営支援に興味がある!経営者になりたい!事業承継問題に貢献したい!という人材を募集しています。

 最後に、事業承継を検討している中小企業経営者や従業員の方々へメッセージをお願いいたします。

 事業承継においては、理念や企業文化といった目に見えない資産を、いかに次世代に引き継げるかが大切です。それを解決する方法の一つが、従業員による事業承継であるといえます。

 ただこれまではその具体的な仕組みが普及していないということが最大のネックでした。事例や少しでも関心をお持ちの方はぜひとも一度お話させていただきたいです。