中小企業の事業承継において、最も難しいのは「テクニカルな株の移転」ではなく、「人の感情」と「稼ぐ力の引き継ぎ」であると言われます。今回インタビューにお招きしたのは、IT企業で法人営業・営業組織の統括者として第一線で活躍した後、中小企業診断士として独立、現在は埼玉県を中心に数多くの中小企業の承継支援を行う、OOTAKE経営コンサルティングオフィス代表の大竹寛征氏です。
「社長を否定するな」「時間さえあれば、事業承継の課題はすべて解決できる。だからこそ、時間に余裕があるうちに、早く事業承継に踏み出してほしい」。現場で汗をかき、時には経営者と膝を突き合わせて泥臭い議論も辞さない大竹氏。その支援スタイルは、単なる計画策定にとどまらず、営業強化や管理会計の導入による「実利」の追求にあります。半年で赤字会社を黒字転換させた手腕や、士業とコンサルタントの連携に対する独自の視点など、事業承継の最前線で戦うプロフェッショナルの「本音」に迫りました。
- 1. これまでのキャリアと、事業承継支援を志したきっかけについて教えてください。
- 2. 診断士登録後、すぐに事業承継の道へ進まれたのですか?
- 3. 2020年に独立されたと伺いました。当時はどのような状況でしたか?
- 4. 現在はどのような企業をご支援されているのでしょうか?
- 5. 印象に残っている事例を教えていただけますか?
- 6. 店舗を閉めるという決断は、現場のスタッフからの反発も大きかったのではないでしょうか?
- 7. 支援の現場では、具体的にどのような指導をされているのですか?
- 8. 具体的にはどのような指標を見ていくのでしょうか?
- 9. 大竹さんは事業承継士協会埼玉支部の「副支部長」という肩書きもお持ちですが、今後の業界のあり方についてどのようにお考えですか?
- 10. ご自身も今年で60歳を迎えられますが、今後の展望は?
- 11. これから事業承継に向き合う「先代経営者」と「後継者」に向けて、メッセージをお願いします。
これまでのキャリアと、事業承継支援を志したきっかけについて教えてください。
もともと私は、SIベンダーで営業マンとして働いていました。販売管理・会計・給与計算システムなど、企業の基幹業務に関わるソリューションを販売する会社です。最終的には営業部長として30人ほどの部下を率い、新規開拓を中心に営業活動に邁進していました。
顧客の多くは中小企業でした。システムを提案する中で、業務フローの課題や効率化のニーズは肌感覚で理解できる。しかし、社長に気に入られて連れて行ってもらった寿司屋の席で、いざ「経営」の話になると、当時の私にはまったくついていけませんでした。
「社長の悩みをもっと深く理解したい」
「経営の話ができるようになりたい」
――そう強く感じたことが、中小企業診断士の資格取得を目指すきっかけです。勉強を始めてから取得までに7〜8年かかりましたが、その過程で「事業承継」という分野に出会い、「将来はこれで独立したい」と心に決めました。
診断士登録後、すぐに事業承継の道へ進まれたのですか?
2017年の4月に診断士登録をしたのですが、実はそのタイミングですぐに「事業承継士」の資格も取得しました。
大きな転機となったのは、中小企業診断士の登録養成課程の先輩であり、当時任意団体だった「事業承継協会 埼玉支部」に所属するK先輩との出会いです。中小企業診断士・事業承継士として副支部長を務めるK先輩から「埼玉支部に来ないか」と声をかけていただきました。
支部では、事業再生のスペシャリストとして活躍するH副支部長(私にとっては兄貴分のような存在)や、懐の深いKA支部長をはじめ、志の高い先輩方と出会うことができました。資格取得前から支部活動に参加させてもらったことは、大きな財産となっています。私にとって事業承継士の資格取得は、単なる資格の習得以上に、「この熱いコミュニティに参加すること」そのものが目的だったように思います。
2020年に独立されたと伺いました。当時はどのような状況でしたか?
はい、独立したのは2020年の2月です。ただ、独立していきなり仕事が入ってくるわけではありません。
埼玉県商工会連合会の「事業承継相談員」として1年間の経験を積むとともに、狭山や飯能といった地域の商工会議所を自ら開拓し、セミナー登壇や経営相談の機会をいただいていました。
「さあ、いよいよ本格始動だ!」と意気込んでいた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が発令されました。予定していた登壇をはじめ、すべての仕事がキャンセルに。「ゼロからのスタート」どころか、マイナスからの船出となった感覚でした。
現在はどのような企業をご支援されているのでしょうか?
現在、承継支援およびその他の経営支援を含め、関与先企業は約15社あります。そのうち顧問先として定期的に関与しているのは5社です。業種も規模もさまざまですが、共通しているのは「後継者支援」およびそれに準ずる経営課題の解決であり、いずれも親子承継の案件となっています。
支援内容としては、以下のとおりです。
- ・埼玉県内の米菓製造・販売業:後継者への教育支援
・埼玉県内の金属部品製造業:高齢の会長(前社長)から娘さん(現社長)への承継支援。代表権の移譲後における社内整備(業務改善・人事制度・管理会計・営業組織化)を中心に支援。
・都内の建設会社:50代の後継社長への支援。現場叩き上げで技術はあるものの、経営数字に不慣れな社長のマネジメント力強化をサポート。
・埼玉県内の美容院:70代の母と40代の娘さんの承継支援。販促(営業・マーケティング)や報酬制度の整備、経理業務の改善を通じ、娘さんの経営者としての意欲を引き出す支援。
・埼玉県内のロードバイク専門店:60代の父と30代の息子さんの承継支援。過剰在庫による経営圧迫からの脱却を起点に、現在は店舗改善と販促による売上強化を支援中。
私のメインフィールドは、承継の形態(親族・従業員・第三者)を問わない「後継者支援」です。「次世代経営者育成コンサルタント」を名乗っていますが、結果として現時点では親子承継の案件が中心となっています。
どの承継形態においても「現経営者への支援」は欠かせません。その視点を磨くべく、さまざまなケースに取り組んでいます。
「事業承継を、会社の飛躍につなげる成長戦略へ」――これが私の支援コンセプトです。
印象に残っている事例を教えていただけますか?
先ほど挙げた「美容院」の事例が分かりやすいかもしれません。同社は美容院・エステを複数店舗展開する企業です。駅前店は家賃が高い一方、客単価が低く集客も伸び悩み、大きな赤字を抱えていました。対照的に、商業施設近くの2号店(美容院のみ)は立地も良く、高単価で安定運営できていました。
そこで私は「駅前店を閉めましょう」と提案。無駄な固定費を削減する一方、社長が所有するマンションの一室を活用し、念願のフェイシャルエステサロンを開設してもらいました。いわば「スクラップ&ビルド」の戦略です。駅前店の既存顧客を2号店とエステ店へスムーズに誘導する導線を整備した結果、顧客の取りこぼしを最小限に抑えながら、わずか半年で単月黒字化を実現しました。
店舗を閉めるという決断は、現場のスタッフからの反発も大きかったのではないでしょうか?
おっしゃる通りです。駅前店を閉めるとなれば、当然ハレーションが起きます。「なんで閉めるんだ」と文句を言うスタッフもいましたし、店舗異動についてこれずに辞めてしまうスタッフもいました。しかし、会社全体を存続させるためには、出血を止める外科手術が必要な局面があります。
結果として、この決断を実行してから約半年で単月黒字化を達成しました。もちろん、店舗撤退に伴う除却損などで通期では赤字でしたが、本業の収益構造が改善されたことで、当初あった債務超過も2年ほどで完全に解消することができました。経営相談の際、私の提案が社長の心に響いたようで、「先生に任せる」と言っていただいたことから始まった支援ですが、痛みを伴う改革を乗り越え、現在は娘さんへの承継もうまく進んでいます。
支援の現場では、具体的にどのような指導をされているのですか?
私の支援の軸は、自身のバックボーンである「営業」と、経営の要である「数字(管理会計)」の2つです。
特に製造業の現場でよく見られるのが、
「良いものさえ作っていれば売れる」
「大手から仕事をもらっていれば安泰」
という職人気質の考え方です。先代の世代はそれで通用したかもしれませんが、環境変化が激しい現代において、たとえば特定の大手1社に売上の7割を依存するような状態は、リスク以外の何物でもありません。
だからこそ私は、
「営業活動に取り組みましょう」
「リスク分散のためにポートフォリオを組みましょう」
と繰り返し伝えています。後継者はこれから20年、30年と会社を背負っていく存在です。先代の遺産を食いつぶすのではなく、自ら稼ぐ力をつけるための「成長戦略」を描く――それが私の役割です。
具体的にはどのような指標を見ていくのでしょうか?
特に徹底しているのが「変動損益計算書」の考え方です。まず「これだけの利益を出したい」というゴールを設定し、固定費と変動費を分解して損益分岐点を算出します。そこから「この利益を達成するには何件の受注が必要か」「いくらの売上を作らなければならないか」という具体的な行動目標に落とし込んでいきます。
もう一つ重要なのが「月次決算の早期化(自計化)」です。中小企業では試算表が2〜3ヶ月後にしか出てこないケースが少なくありませんが、それでは「終わったことの確認」にしかなりません。「月が締まったら5営業日以内に数字を出し、翌月の打ち手を考える」――このサイクルを回せるよう指導しています。営業マンが数字に追われる存在であるように、経営者も同じです。営業活動と財務数値は直結している。この感覚を身につけてもらうことが、後継者育成の第一歩だと考えています。
大竹さんは事業承継士協会埼玉支部の「副支部長」という肩書きもお持ちですが、今後の業界のあり方についてどのようにお考えですか?
副支部長という立場ではありますが、この役割について考えていることがあります。
事業承継の支援プレイヤーには、大きく2つのタイプがいると思っています。一つは税理士の先生方のような「リストホルダー」――顧問先という顧客リストをすでに持っている方々です。もう一つは、私のような「コンテンツホルダー」――営業支援や組織改革、後継者教育といった具体的な中身(コンテンツ)を提供できる人間です。
税理士の先生方のもとには、「自社をこれからどうすべきか」という相談が真っ先に寄せられます。しかし先生方は税務のプロであっても、営業戦略や組織マネジメントのプロではないケースが多い。だからこそ、「リストホルダー」と「コンテンツホルダー」がより有機的に連携すべきだと考えています。
現在の埼玉支部は、現場経験を積める素晴らしい環境です。一方で、収益性の面ではまだ課題が残っています。商工団体案件のような公的支援にとどまらず、金融機関や他士業との連携を深め、より付加価値の高いコンサルティングを提供できる体制を整えていくことが、業界全体の発展につながると感じています。
ご自身も今年で60歳を迎えられますが、今後の展望は?
これまでは、社長が先輩・後継者が後輩にあたる年齢層のクライアントと仕事をしてきました。しかし60歳を過ぎると、そろそろ「おじいちゃん先生」と呼ばれる日も来るかもしれません(笑)。
今後は、自分が培ってきたノウハウをより若い世代のコンサルタントに伝えていくことも、一つの使命だと感じています。またこれまでM&Aの実務経験は多くありませんでしたが、顧問先が成長戦略として「会社を買いたい」と言い出したときに的確に応えられるよう、第三者承継の支援スキルも強化していきたいと考えています。自分自身も、まだまだアップデートし続けていきたいですね。
これから事業承継に向き合う「先代経営者」と「後継者」に向けて、メッセージをお願いします。
まず先代の方々に伝えたいのは、「事業承継の悩みは、時間さえあればすべて解決できる」ということです。株式の移転も、ノウハウの伝承も、人脈の引き継ぎも、いずれも時間を要します。逆に言えば、解決できない問題の多くは「時間がない」から解決できないのです。だからこそ、元気なうちに、1日でも早く着手してください。
そして後継者の方々へ。「親父のやり方は古い」「時代に合わない」と批判から入る方がいますが、それは違います。まず言いたいのは、「親父を否定するな、肯定することから始めろ」ということです。
何十年も会社が存続し、あなたが育つことができたのは、先代のやり方に何らかの正解があったからです。その「理由」をまず理解し、敬意を持つこと。変えるべきことはたくさんあります。しかし、変えてはいけないものもある。
先代はもう自分自身を変えることはできません。だからこそ後継者であるあなたが、「何を守り、何を成長のために変えるのか」を真剣に考え、実行する覚悟を持ってください。
編集後記
「IT×営業×管理会計」というロジカルな武器を持ちながら、その根底にあるのは「親子」「人間」への温かい眼差し。大竹氏のインタビューからは、そんなハイブリッドな魅力が溢れていました。特に印象的だったのは、「リストホルダー(税理士等)」と「コンテンツホルダー(コンサルタント)」の連携という視点。事業承継支援の現場では、専門家同士が縄張り争いをするのではなく、それぞれの強みを活かして企業を支えるエコシステムが求められているのだと痛感しました。泥臭い現場支援を厭わない大竹氏のような存在が、日本の中小企業を次世代へと繋いでいく鍵になるのでしょう。
代表 大竹 寛征 氏 (中小企業診断士/事業承継士)
IT企業にてシステム販売の営業職として従事し、営業部長などを歴任。多くの中小企業と接する中で、経営支援の必要性を痛感し中小企業診断士を取得。2020年に独立開業。「営業」と「計数管理」を融合させたコンサルティングを得意とし、現在は製造業、建設業、小売業など多岐にわたる企業の顧問として、事業承継および後継者育成の伴走支援を行っている。





