少子高齢化の煽りを受け、中小企業や個人事業主の後継者不足を補うために注目を集めている事業承継。
親族や社外の信頼できる方へ企業の経営を委ねることで事業を存続させるのが目的ですが、事業承継ではで多額の「贈与税」や「相続税」がかかってしまいます。
新たな事業を打ち出すためにも、なるべく支払う税金は低く抑えたいものです。
ここでは、事業承継を行う際に気をつけたい節税のポイントを紹介し、贈与税や相続税を抑えるための手順について解説します。
これから事業承継を行う方はぜひ参考にしてみてください。

事業承継でかかる税金は贈与税と相続税

事業承継をする際には大きく分けて贈与税相続税の2種類の税金のうち、どちらかを支払わなければなりません。
経営者が存命のうちに事業承継を行う場合は株式を贈与することになるので「贈与税」を支払いますが、経営者の死後に事業承継を行う場合は株式などを遺贈することになるので「相続税」がかかります。
贈与税を支払うのか、相続税を支払うのかは事業承継のタイミング次第となりますが、それぞれ税額の計算方式が異なるので注意しましょう。
まずは事業承継と贈与税の関係性について見ていきます。

事業承継と贈与税

経営者が存命のうちに事業承継を済ませた場合は、受け継いだ会社の資産価値にあわせて計算した贈与税を支払います。
贈与税の税率については2016年に改正が加わり、誰から誰へ贈与されるかによって「一般税率」「特例税率」に分けられました。
それぞれ税率が異なるので、事業承継を行う際にはどちらにあてはまるのか注意しながら税額を見積もっていきましょう。

一般税率の計算方法

贈与税の計算を一般税率で行うのは兄弟間の贈与や夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合に限られます。
つまり企業の後継者が兄弟やパートナー、未成年の子供である場合には一般贈与の税率が適用されるのです。

一般贈与の税率は以下の表を参考にしてみてください。

 

基礎控除後の贈与額

税率

控除額

200万円以下10%なし
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3.000万円以下50%250万円
3,000万円以上55%400万円

参考:国税庁

次に、特例贈与による計算について紹介します。

特例税率の計算方法

特例贈与によって事業承継を行うのは、経営者が直系尊属(祖父母や父母など)であり、後継者がその年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)である場合に限られます。
一般的な親子承継はこのケースに当てはまるでしょう。

特例贈与の税率は以下のとおりです。

 

基礎控除後の贈与額

税率

控除額

200万円以下10%なし
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円以上55%640万円

参考:https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4408.htm

一般贈与に比べて贈与額の税率が緩く、控除額も高くなっているのが分かります。

次に事業承継と相続税について見ていきましょう。

事業承継と相続税

経営者が死亡した後に事業承継を行う場合は、受け継ぐ会社の資産価値にあわせて計算した相続税を支払います。
相続税の計算を行う前に確認したいのが「相続時精算課税制度」です。
これは満60歳以上の直系尊属(父母や祖父母)から満20歳以上の直系卑属(子または孫)に2,500万円までの財産が非課税のまま贈与できるという制度で、事業承継にとって有効な制度でもあります。
相続時精算課税制度を利用すると暦年課税制度が利用できなくなるなどのデメリットもありますが、事業承継時に節税効果を得たい場合は利用するのも有効な手段でしょう。

相続税の計算を行う際は以下の手順を踏む必要があります。
国税庁の「相続税の計算」を参考に計算方法を見ていきましょう。

  1. 相続人ごとに取得する財産の額が異なるため、各相続人ごとに取得した財産額を算出します。
  2. 相続時精算課税を利用していた場合は生前に受け取っていた贈与分も含めます。
  3. 葬式代や債務などの費用・負債を財産から差し引き、各人ごとの取得額を合算します。
  4. 各人の課税価格を合計して、課税価格の合計額を計算します。
  5. 課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税される遺産の総額を計算します。※1
  6. 課税遺産総額を、各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したと考えて、各法定相続人の取得金額を計算します。※2
  7. 上記で計算した各法定相続人ごとの取得金額に税率を掛けて相続税の総額の基となる税額を算出します。※3
  8. 上記で計算した各法定相続人ごとの算出税額を合計して相続税の総額を計算します。※4

※1”課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)=課税遺産総額”
また、法定相続人の数を算出する際は、相続放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとして計算します。
※2”課税遺産総額×各法定相続人の法定相続分=法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額”
※3”法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額×税率=算出税額”
※4”各法定相続人ごとの算出税額の合計=相続税の総額”

相続は複数の親族が当事者になってしまうため、時には相続争いが起きてしまうこともあります。
スムーズに事業承継を行うためにも、生前贈与などを考慮に入れながら事業承継の準備を進めるのが大切です。

法人版事業承継税制を利用すれば事業承継で税金がかからない?

事業承継によって支払わなければならない税金を理解したところで、法人版事業承継税制についても紹介します。
法人版事業承継税制とは、特定の手順と要件を済ませることで事業承継にかかる税金を全額免除できるもので、ケースによっては相続や贈与によって承継される全株式が非課税で受け取れる制度です。
「特例承継計画」を作成して都道府県知事へ提出して確認を受けることで、事業承継時にかかった税金の支払いを猶予できます。
譲渡された株式を保有し、後継者が経営を続けている限りは猶予期間が続きますが、株価が低迷したり雇用条件を守らなかったりすると利子税とあわせて納税しなければなりません。

事業承継を行う場合は、節税効果を高めつつこういった優遇制度も視野に入れて検討していきましょう。

参考:国税庁

節税しながら事業承継を行うためのノウハウ

事業承継では贈与税と相続税のいずれかが発生してしまう、と紹介してきました。
贈与税と相続税を節税するためには、事業承継にスポットを当てつつそれぞれの税金が何を基準に課せられているのか理解する必要があります。

ここからはより具体的に事業承継時にかかる贈与税と相続税の仕組みを見ていきましょう。

贈与税と相続税の仕組みを理解する

贈与税と相続税を節税するためには、事業承継によって何を譲渡されるのか理解しなければなりません。
もちろん得るのは会社の経営権ですが、事業承継によって実際に譲渡されるのは会社の株式です。
贈与税や相続税は「譲り受けた財産」に対して課税額が決まるので、事業承継によって株式を受け取った場合は、譲り受けた資産である株式の価値によって評価額を決めます。
そのため、事業承継時の株価を時価で評価して課税額を算出するのです。

つまり節税効果を高めるためには、事業承継前に「いかに株価を下げるか」がポイントとなります。
非上場企業の株価を上下させる要因は大きく「会社の純資産」「会社の利益」「会社の配当」の3つの要因です。

純資産は資本、会社の利益は純利益、配当は株式配当金を指しますが、節税のために株価を下げる場合は「純利益の減少」に焦点をあてると良いでしょう。
純利益は費用をふくらませることで比較的簡単に操作できるので、意図的に支出を増やすことで利益を目減りさせられます。

詳しい施策についてはのちほど紹介するので、参考にしてみてください。

自社の資金体力から節税の手段を絞り込む

先述したとおり、節税効果を高めるためには利益を目減りさせるのが有効です。
利益を減らすには支出を増やすのが得策ですが、資金体力がない場合は支出を増やすと倒産リスクが高まります。

節税を意識するあまりに無理な方法をとって利益を目減りさせてしまうと、事業承継後に安定した経営ができなくなる可能性もあるので注意が必要です。
節税は必要最低限にとどめて、あくまで事業承継後に盤石な経営ができるように、という前提を忘れないようにしましょう。

事業承継後の経営に支障が出ない範囲の支出額を見積もっておき、その中で取り組める節税施策を選ぶのがおすすめです。

事業承継で節税するための手法を紹介

事業承継で節税するためには利益を減少させるのが一般的ですが、具体的にはどのような施策があるのでしょうか。
おすすめの方法を4つ紹介します。

不動産投資に取り組む

不動産投資は節税効果が高く、法人・個人のいずれにもおすすめできる節税方法です。
不動産投資をおすすめする理由としては以下のようなものが挙げられます。

  • 減価償却など使い勝手の良い経費が多く存在する
  • 資産運用の手法としても魅力的
  • 将来的に売却すればキャピタルゲインを得られる
  • 相続時に小規模宅地等の特例を受けられる

参考:国税庁

不動産投資によるメリットを享受しつつ、小規模宅地等の特例を受けられるので不動産投資は非常に有効な節税対策になります。
小規模宅地等の特例は、相続人が所有していた不動産について減額措置を受けられる制度です。
現金として相続を受けるよりも不動産として相続を受けたほうが節税効果が高いので、事業承継前に不動産投資に取り組んでおくことをおすすめします。

役員の退職金を支払って利益を圧縮する

役員への退職金として現経営者へ退職金を支払うことで費用を増加させ、利益を目減りさせることができます。
これによって株価が下がれば、節税効果が期待できるでしょう。

退職金以外にも比較的操作しやすい費用は存在するので、自社の状況と照らし合わせながら支出できる科目を選んでいきましょう。

自社の株価を目減りさせる計算方式を導入する

課税額の基準となる株価を減少させるためにおすすめなのが計算方式の変更でしょう。
おすすめは類似業種比準方式を導入することです。
類似業種比順方式を用いて計算することで、純資産価額方式に比べて低い株価を算出できるので、節税効果を生みやすくなります。

類似した業種の上場企業をベースにして自社の株価を決定するので、市場の影響を受けて株価が変動する上場企業に連動して自社の株価が決まるという特徴があり、景気が良いときにはむしろ株価が高くなってしまう可能性もあるので注意しましょう。

相続時精算課税制度を利用して贈与額を減少させる

相続時精算課税制度とは、贈与税の支払いを贈与者が死亡するまで猶予してもらう制度です。
贈与者が死亡した時点で、猶予していた贈与税と相続税をあわせて支払う形になりますが、事業承継直後に支払う税額を抑えたい方にとっては魅力的な手段でしょう。

節税効果を生むためには、自社の状況と税制などを照らしあわせて最適な施策を検討しなければなりません。
自社内だけで行うには専門知識やノウハウが不足してしまう可能性があるので、事業承継を行う際は専門のマッチングサービスを提供している企業に依頼するのがおすすめです。

節税効果を狙いながら賢く事業承継するなら

事業承継を行う際は後継者探しや株式の譲渡など様々な手続きを踏まなければなりませんが、この先も企業を存続させていくには欠かせない作業です。
また、後継者の育成なども含めて包括的なケアを行わなければならないので、早めの準備と対策が必須となるでしょう。