退職金を支払うことで自社株に対して課せられる贈与税や相続税を引き下げる効果が期待できるので、税金対策としても有効です。
一方で、役員の退職金には「適正額」という考え方があります。
適正額を超える金額の退職金を支給した場合、会社の経費(損金)として計上できない可能性があることに注意しましょう。この記事では以下のような疑問にお答えしています。
「会社の経営は引退して後継者にバトンタッチしようと考えている」
「老後の資金として退職金の支給を受けたい」
「退職金の税金負担はどうなる?」事業承継にあたって退職する現経営者に対して、退職金を支給する際の注意点について見ていきましょう。
近い将来に事業承継を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
事業承継で退職金を活用するメリット
事業承継にあたって退職金を支給することには、以下のようなメリットがあります。
- 経営者の引退後の資金を確保できる
- 当期の利益を圧縮できる
- 自社株の評価を引き下げられる
1に関しては特に疑問に感じられる点はないかと思いますので、以下では2と3のメリットについて見ていきましょう。
当期の利益を圧縮できる
役員に対して支給する退職金は、役員報酬などと同じように会社の経費として計上することができます。
そのため、退職金の支給は当期の利益を圧縮し、法人税の負担額を小さくする効果があるのです。
また、退職金を受け取る役員個人に対しては所得税と住民税が課税されますが、退職所得は通常の給与所得などと違って税負担が小さくなる仕組みになっています。
これを踏まえると、多くの利益が発生した年などに退職金の支給を行えば、負担する税金を大きく減らせる可能性があるのです。
自社株の評価を引き下げられる
退職金の支給を行うことで、自社株の評価額を引き下げられます。
オーナー経営者が所有する自社株は、後継者に贈与したり、相続させたりする際に贈与税や相続税といった税金を負担しなくてはなりません。
贈与税や相続税は譲り渡す自社株の評価額に応じて計算されますから、自社株の評価額を引き下げることができれば、贈与税や相続税の負担額も引き下げることにつながります。
事業承継税制の活用か自社株の引き下げか
事業承継にあたって自社株を後継者に引き渡す場合には、事業承継税制という特別なルールを適用してもらうことも可能です。
事業承継税制を選択した場合には、自社株の評価額がどの程度であるかにかかわらず、自社株に対して課税される贈与税や相続税の納税を猶予(実質的には免除)してもらえます。
ただし、事業承継税制を選択するためには後継者が一定期間は事業を継続することが条件として求められることに注意が必要です。
後継者の事業継続の意思がどの程度あるのかに不安がある場合には、退職金支給による自社株の評価引き下げも選択肢として検討する価値があるでしょう。
また、事業承継税制を利用するためには複雑な手続き要件を満たす必要があります。
そのため、自社株の評価額がそれほど大きくないようなケースでは、退職金支給によって自社株の評価額を下げる方法を選択した方が、手間が省けると言うこともあり得るでしょう。
退職金の適正額はどのように計算する?
役員に対して支給する退職金は、税法上求められる「適正額」の範囲内にしておかなければなりません。
例えば、実際に支給した退職金が3億円で、税法上の適正額が1億円だったとしましょう。
この場合、会社の損金として処理することができるのは1億円までとなりますので、残りの2億円(支給額3億円−適正額1億円)については法人税が課税されるという扱いになります。
役員退職金の適正額の計算方法
税法上、適正額とされる役員退職金の金額は、以下の計算式で計算できます。
それぞれの言葉の意味は以下のようになります。
- 最終報酬月額:役員を退任した時の役員報酬月額です
- 在任年数:役員に就任してから退任するまでの年数をいいます
- 功績倍率:社長は3倍、専務は2倍といったように掛け算します
例えば、社長として20年間働いた人で、最終報酬月額が100万円だった場合には、下記のように役員報酬の適正額を計算できます。
この範囲内であれば、役員に対して支給する退職金を損金として処理することに問題はないでしょう。
例えば、法人の利益が出ていないにもかかわらず、上の適正額を大幅に超える金額の役員退職金を支給したような場合には、支給額の損金算入が否認される可能性があるでしょう。
まとめ
今回は、事業承継にあたって役員退職金を支給する場合の注意点について解説いたしました。
退職金の支給は、上手に活用することによって税負担を大幅に減らせる可能性があります。
税負担は事業承継後の資金繰りに大きな影響を与える項目となりますので、ぜひ参考になさってください。