老後を幸せに過ごすために、仕事をどう引退するかがとても大事。
「会社を引き継いだ時に手元に入るキャッシュで老後をゆっくり過ごしたい」と考えている経営者もいると思います。
理想通りのハッピーリタイアには、事業承継を上手くいかせることと大きく関わりがあるのです。
近年の事業承継の傾向はどうなっているのか?
事業承継の失敗例と成功例、引退後の生活に向けた準備の方法なども併せて解説します。

ハッピーリタイアのために事業承継を考えよう

ハッピーリタイアを勧める画像

事業承継の選択肢として親族内承継だけでなくM&Aなども増えてきています。ハッピーリタイアをするためには、事業承継の現状・最新の傾向を把握して早くから対策を練ることが欠かせません。まずは近年問題視されている廃業の現状から確認しましょう。

廃業件数は過去最多に

リタイアの前にいきなり厳しい現実を突きつけてしまいますが、
実は後継者がみつからずに、最近「廃業」を選択するしかなくなってしまった企業が増加しています。

東京商工リサーチが2018年に行なった調査では、2018年に休廃業した企業の数は46,724件、1日あたり約128社が廃業していることが分かりました。
また下記のようなデータもあります。

  • 廃業が倒産した会社の3倍以上
  • 廃業した企業の代表者の83.7%が60歳以上

[出典]東京商工リサーチ

事業承継やM&Aはハッピーリタイアの近道

廃業する企業が増えるのと同時に、事業承継やM&Aが広く知られるようになっています。
日本経済新聞が行った2019年4月の統計によると、日本企業同士でM&Aを実施した企業の数は309件

これは前年同月に比べて23%も増加、単月ベースで1985年以降過去最大でした。これまでは海外企業の買収が中心でしたが、近年は国内でも事業承継やM&A戦略を駆使する経営者が増えています。
経営者の立場からすると事業承継やM&Aをすることで、手元にキャッシュなどの資産が作れるので、ハッピーリタイアを実現する手段として有効です。

[出典]日経新聞

時期を見越してハッピーリタイアを計画しはじめる

ハッピーリタイアするためには、事業承継の種類があるのかを知って自分の会社に適した形を選択していきましょう。会社に合う承継方法が見つかればリタイアまでもスムーズに進みます。

事業承継には3種類ある

事業承継には3つの種類があります。

  1. 親族内承継
  2. 親族外承継(従業員へのMBOなど)
  3. 第三者への承継(M&A)

以上の3つが主な手段です。

親族内承継はその名の通り、経営者の子供など、家族の中から後継者を選ぶやり方です。早い時期から後継者を決めておくことが大事。
後継者を十分時間をかけて育てられ、後継者にならなかった親族に対しても揉めごとが起きないないように配慮もできます。

社内の役員や従業員に事業承継する方法(MBO)もあります。長年経験を積んだ社員であれば、会社のことをよく知っているので事業を滞りなく承継することが期待できます。

第三者に会社を譲渡する方法「M&A」 があります。
同業他社などの会社に売買することもあり、条件によっては高値で契約が成立することもあります。見つけるのは大変ですが、条件にマッチする買い手がいればキャッシュも手に入れつつ事業承継を果たせるので、ハッピーリタイアに近づくでしょう。

会社にとってベストな選択肢を

20年前までは、親族内承継を行う経営者が圧倒的多数でした。最近は、それぞれの会社や状況に応じてそれ以外の方法も選ばれる傾向にあります。各経営者は、事業承継を社長の最後の大仕事だと捉えてベストな選択肢を見つけましょう。

引継ぎ方で進め方は変わる

事業承継をどうするかも合わせて、スムーズに進むように丁寧な引継ぎの準備をしはじめましょう。
長期的に計画を立てれば、途中で当初の計画から外れそうになっても対処がしやすくなります。

関係者の視点にも立って考える

会社には取引先や従業員、株主など色々な人が関わっています。社長、従業員、取引先など利害関係者のことを考えて承継方法を探ると最も良い結果になりやすいことを覚えておきましょう。

ハッピーリタイアの成功・失敗事例

事業承継の事例を知っているか知らないかでは大きな差になります。成功例から学び、失敗例を教訓として事業承継の準備をはじめましょう。
ここからは、失敗例と成功例をご紹介します。

【失敗】優良企業なのに廃業した清掃会社

清掃会社A社は、年間一千万円程度の利益がある安定した優良企業でした。今後も経営を継続できそうな見込みがありましたが、70歳を迎えた経営者が突然、体調を崩して入院。事業承継の計画に時間がとれないまま、廃業アナウンスを実施しました。

廃業を告知したことで、クライアントからは次々と契約を打ち切るという連絡が。受注はみるみるうちに減少し、廃業告知から約2カ月後には開店休業の状態に陥ってしまったのです。

経営者は模索した結果、事業承継という選択肢があることを知り、会社存続の最後の望みをかけて専門家のもとを訪れました。

「廃業をアナウンスする前なら事業承継で成功する可能性が高かったのですが、従業員と顧客を失った今となっては事業承継が難しくなります。」

アドバイザーから受けた言葉を受け止め、清掃系会社は打つ手をなくして会社をたたむことに。廃業という選択を選ぶ前に事業承継に取り組んでいれば、この企業は今も存続していたかもしれません。

【成功】10年計画の事業承継が成功したIT会社

IT系会社のB社の代表は、会社の経営が順調だった頃から引退の日を意識して過ごしていました。約10年間かけて事業承継を計画していましたが、「事業を承継した後も絶対に譲れない」と考えた条件は、継承後も従業員の雇用を継続すること、自社の技術をさらに発展させてくれる相手と出会うことでした。

B社の社長には元々2人の娘がいて、当初はどちらかの配偶者に会社を継いでもらいたいと考えており、いちど次女の夫を会社に入社させて勉強してもらうことにしました。

しかし彼は経営者には向いていないということが分かると、これをきっかけに社長は親子承継を諦めM&Aを検討し始めます。

M&Aについて代表は、はじめこそ敵対的買収などネガティブなイメージを持っていましたが、M&Aのことを調べていくうちにメリットがしっかりと得られることも理解します。その後は妥協せずに、根気よく購入してくれる相手を見つけていきました。

最終的に同じ業界の上場企業と出会い、M&Aを成功させます。上場企業の代表については、「私の会社の製品の良さをきちんと理解してくれ、雇用も継続してくれることが大きかった」と話します。
会社名はそのまま、Bさんは代表権のない社長を2年間勤めた後、相談役顧問を経てM&Aの契約を結び3年後に完全退任しました。

M&Aはこのように、会社を守ったり、次世代へ受け継いだりするための手段としても有効なのです。事業承継とあわせて検討したい経営手法のひとつと言えます。

参考記事:M&Aの流れや手順を知りたい!M&AのポイントやPMIを分かりやすく解説

ハッピーリタイア実現のポイントと注意点

ここからは、実際にハッピーリタイアを実現するために抑えておきたいポイントや注意点を紹介します。

ハッピーリタイアを実現させる2つのポイント

ハッピーリタイアを実現するには、大きく2つのポイントに注意しながら準備を進めていく必要があります。
一つずつ詳しくみていきましょう。

リタイア後のプランを考えること

ハッピーリタイアを実現するためには「5年後」「10年後」など予め引退の時期を決めて早めから動き始めるのが一番のポイントです。
会社の計画とは別ですが、個人的にはリタイア後のプランなどをリストアップできればあなたのモチベーションにもなるのでおすすめです。事業承継においては、事業承継計画書を作成することで企業の状態と自分の状態をリンクさせながら引退の時期を可視化できるので、ぜひ事業承継士などの専門家と一緒に事業承継計画書の作成に取り組んでみましょう。

優秀なアドバイザーを見つけること

事業承継の結果を大きく分ける要因に「優秀なアドバイザーがいたかどうか」が挙げられます。
事業承継は計画を作る段階から法律や財務が複雑に絡んできます。事業承継はこれらの専門的な知識を組み合わせて計画を立てる必要があります。
社長一人で事業承継の計画から実行までをスムーズに進めるのはとても難しいのです。

そのために、事業承継の計画立案や各分野の専門家のコーディネートをしてくれる事業承継の専門家がいます。経営者の要望を元にベストなプランを練り、より理想の形に近づけてくれるので、ぜひ事業承継士や事業承継プランナーへ相談してみましょう。

ハッピーリタイアで注意すべき2つのこと

注意すべき点としては、大きく2つの要素に注意しておきましょう。

準備不足だと失敗のもと

準備期間が十分でないと、従業員教育や会社引き継ぎの計画が曖昧なまま事業承継に移ってしまうことも。事業承継のタイミングで組織がバラバラになり、数年後には会社が破綻したというケースがあります。

新しい経営者に先代の経営方針が伝わらない、絵空事ばかりの経営が続く、といった事態にならないよう、事業承継は予定を立て時間を掛けて準備しましょう

タイミングで条件は大きく変動

親族内承継に固執しすぎて、売却する時期を見誤ってしまい廃業するしかなくなってしまった会社があります。
事業承継のタイミングは自分の会社の健康状態(利益や資産状況など)を客観的に判断して、ベストな時期をつかむことが大事です。

会社を売却する時期をシミュレーションすることも大切ですが、それに合わせて会社の業績をできるだけ伸ばすことも重要です。ただ、引き継ぎ時には株価を下げて節税効果を得るのがセオリーなので、どのような手段で節税に取り組むのか、度のタイミングで取り組むのか、といった点を専門家へ相談するようにしましょう。

参考記事:事業承継で退職金支給するメリットとは?適正額の計算方法も解説

リタイア時によくある社長の不安

社長がリタイアする際には、寂寞感や不安感など、さまざまな感情が渦巻くものです。
ハッピーリタイアを実現するためには、引退後のメンタルケアも欠かせません。どのような不安が生じるのか、理解しておきましょう。

課題を一人で抱え込む

少し前までは親族内継承する経営者の数が9割を超えていましたが、近年は親族内継承の割合が減ってきています。

事業を継ぐ相手がいないと分かった経営者は、少し悩むかもしれません。
しかし、これまでお伝えした通り事業継承もいろいろな選択肢がとれるようになりました。

「普通はこうあるべき」といった考えに囚われず、優秀で信頼できる社員や同業他社の社長に目を向けてみるべきです。
また、事業承継アドバイザーに相談すると会社の方針にあった方法で承継を考えてくれます。引継ぎのプロに頼ることで、社長の負担も減りよりスムーズな事業承継に繋がりやすくなります。

経営者を辞めるのが怖い

事業承継をしても、引退してしまうと収入が入らないのではないか?
そんなことを心配する現役の経営者はたくさんいます。

しかし実際は事業継承がスムーズにいくと、継承後も数年間は経営権のない役員に就いたり、年金以外にも収入が入ることになるので心配は不要です。

まさにハッピーリタイアといえる形ではないでしょうか。
つまり、引退後を考えるよりも事業承継を成功させることに集中すべきなのです。

国内のM&Aが盛んになった今、絶好のタイミングで事業承継を成功させて、数億円というキャッシュを得た方も少なくありません。

ハッピーリタイアは気持ちの整理から

ハッピーリタイアを実現するには、自分の気持ちの整理から始めることが大切です。
引退の花道を飾るためには、どのような意識を持てばよいのか、解説します。

「経営者をやり尽くす」という気持ち

敏腕経営者の中には、自分の会社をなんとか軌道に乗せようと人生を捧げてきた自負があります。譲渡を寂しく感じ、経営者としての自分にしがみついてしまうケースがあります。

しかし従業員がいる会社の経営者なら、会社を存続させることを一番に考えるべき。
最高の形で引継ぐことまでが経営の仕事と捉えて、有終の美を飾るんだとあえて引退の時期を設定すること、設定したゴールまで経営者をやり尽くすのがベストです。

譲渡の時期が近づくと、「本当にこれでいいのか?」「セミリタイアなどの選択肢はどうなのか?」「老後を迎えた時、仕事以外にやりがいを感じることを見つけられるのか?」などと心配する方もいらっしゃいます。

しかし完全燃焼するまで経営者をやり尽くした後だからこそ見えるハッピーリタイアの景色があるのです。

人生の収支は「60代」で決まる

若くてエネルギッシュな年齢なら多少の債務があってもリベンジするチャンスはいくらでもあります。しかし60代は人生のあ勝敗を分ける集大成の時期です。

事業承継が上手く行かず債務に追われる日々を背負う人生の終わり方を選んでしまうのか?それとも事業承継で成功し悠々自適に過ごす生活を手に入れるのか?

ハッピーリタイアを実現するためには、できるだけ早く60代の収支に目を向け、早めの決断と準備が功を奏します。