会社の未来を大きく左右するイベントなので、信頼できる専門家にサポートして欲しいと考えるのがごく自然でしょう。
しかし実際、事業承継は少し特殊なスキルが必要で専門家はそれほど多くありません。例え法律の専門家である弁護士でも、事業承継にも詳しいとは限らないのです。
「事業承継士」は数少ない事業承継の専門家。本記事では、事業承継士の仕事内容について詳しくご紹介していきます!
この記事で分かること
- 事業承継士がどんな資格なのか
- 事業承継士の受験資格について
- 事業承継士を取得するための流れ
- 事業承継士を取得するメリット
- 事業承継士の仕事内容や今後の展望
事業承継士とはどんな資格なのか?
まずは、事業承継士がどんな資格なのか、詳しく見ていきましょう。
資格を発行している団体は「一般社団法人事業承継協会」
事業承継士を発行・認定しているのは、一般社団法人事業承継協会です。
事業承継士の教育だけではなく、事業承継士を必要とする人に対するサポートも展開しています。
事業承継協会が設立されたのは2015年2月6日と、比較的新しい団体と言えます。日本は大廃業時代を迎え、事業承継に対する需要は今も高まる一方です。
こうした状況を見越して設立された事業承継協会では、主に中小企業を対象として、事業承継をスムーズに進めるためのノウハウを広く伝えていくことを目的に、資格の認定以外にも様々な活動を行っています。
書籍の発行や、国内外の事業承継機関との交流に加えて、事業承継士のみが視聴できるオンラインセミナーを開催するなど、事業承継に関する知識の普及にはとくに力を入れています。
また、事業承継協会の公式サイトでは、事業承継士を探している人のために地域ごとで有資格者の情報をまとめています。地域や各県ごとで有資格者の氏名・会社名を一覧形式で見ることができます。
[出典]一般社団法人事業承継協会
事業承継士は事業承継協会が認定する民間資格
事業承継士は、一般社団法人「事業承継協会」が認定する民間資格です。
しかし、事業承継士資格の信頼性は、一般的な民間資格より高い水準にあります。
その理由は、資格を取得する前提として「特定の国家資格を有していること」が条件となるためです。
まず、一定の知識がないと事業承継士の試験を受けることさえ難しいことから、資格の信頼性や取得難易度も高いものになっています。
資格を取得するには「国家資格」が必要
おそらく、ここが事業承継士になるうえで一番高いハードルです。
事業承継士資格を取得するための講座は、次に掲げる資格を取得している人しか受講できません。
事業承継士の受験資格は以下のいずれをを取得していること
- 中小企業診断士
- 税理士
- 公認会計士
- 弁護士
- 司法書士
- 社会保険労務士
- 行政書士
- 土地家屋調査士
- 一級建築士
- 不動産鑑定士
- 宅地建物取引士
- ファイナンシャル・プランニング技能士
参考:一般社団法人事業承継協会
これらの資格は全てトップクラスの国家資格なので、その専門性の高さが伺えます。
事業承継士はこれらの資格を持っているうえに事業承継の専門的知識を身に着けるので、企業からも高い信頼を置かれているのです。
ちなみに、上記以外の資格・検定であっても事業承継協会が認めたものについては「対象者」とされます。
資格を取得するメリットはあるのか
ここからは、事業承継士になると得られる具体的なメリットについてご紹介していきます。
事業承継士資格は、一定の条件を満たす方であれば取得のコストよりも保有するメリットの方がはるかに大きい資格です。
自身のブランディングになる
事業承継士資格の取得講座では、事業承継特有の関連税法が学べ、自身の経歴にさらなる専門性が身に付きます。
顧客獲得の方法も含めて、事業承継士に必要となる交渉の技術や営業の技術、社長交代の際の演出も資格取得のなかで実践的に学んでいきます。
スキルの幅も広がり、自身にさらなる付加価値とブランド力をもたらしてくれる資格と言えるでしょう。
情報のアップデートがしやすくなる
資格を取得すると、認定団体である事業承継協会に会員として登録できます。
事業承継協会ではオンラインのサポートが充実しており、用意されたさまざまな資料を自由にダウンロードして活用できます。
事業承継協会は事業承継に関する調査・研究も行っているため、ダウンロードできる資料は信頼性の高い情報。
スピード感のある今日のビジネスでは、いち早く最新情報で対策することが必要です。
専門家ネットワークができる
大きなメリットとして「専門家ネットワークができる」ことも挙げられます。
事業承継士資格の講座に参加するのは、一定の国家資格を持った人たちばかり。
そのため、自分の専門とは異なる専門家たちとのネットワークを構築しやすいという特徴があります。
筆者も事業承継士の同期会に加入していますが、オンライン飲み会なども頻繁に行われているので、全国に散らばる同業の友人と情報交換できるのは大きな魅力でしょう。
また、多様なジャンルの専門家とつながりを持っておけば、自分だけでは対処できないような問題に直面した際に助けてもらえることが増え、今よりはるかに仕事が進めやすくなります。
事業承継士の展望は明るい
一方で現在、団塊世代の引退に伴って事業承継を考える時期に差し掛かっている中小企業の社長が増え、事業承継士の需要は高まっているのです。
また、政府が事業承継に注力していることからも、今後ますます事業承継士の活躍の場は増えていくと予想されます。
事業承継に特化した資格は、事業承継士以外にはありません。
事業承継の専門家は、それだけでも専門性や希少性が高いので、ビジネスチャンスとして資格を取り、キャリアを作っていこうという人も増えています。
事業承継士を取得するための手順
ここからは、実際に資格を取得するための手順について、詳しく見ていきましょう。
1.事業承継センター株式会社の講座を受講する
事業承継士資格を取得するためには、事業承継センター株式会社によって開講されている講座を受講する必要があります。
講座は全30時間で、「事業承継士とは?」という基本的な部分から、事業承継に関する各専門分野についても学習を進めていくのが主な流れです。
カリキュラムの中には「関係者に信頼される方法」や「決断力」についてなど、極めて実践的なスキル習得も含まれています。
全資格取得講座のうち75%以上の出席をしなければ、試験が受験できない仕組みになっているため注意が必要です。
2.事業承継士試験を受ける
資格取得講座を受講し終わった後は、「事業承継士認定試験」を受験します。
出題範囲は講座で使用したテキストとそれに関連する内容で、問題形式は選択問題・記述問題の混合です。
合格点は60点以上で、試験自体の難易度はそこまで高くはありません。講座を受けていれば、問題なく突破できるものです。
この試験さえ突破すれば、ほとんど資格を取得したといえます。
3.事業承継協会への入会
最後に、事業承継協会への入会です。
事業承継士認定試験の結果が60点以上であれば、事業承継協会への入会資格が与えられます。
協会に入会して、正式に事業承継士資格を取得したことになります。
入会する際に、倫理規定や懲罰基準、資格要件等の審査が行われます。
認定試験に合格すれば余程のことがない限り入会できますが、万が一のことがないように提出書類には注意を払いましょう。
事業承継士の取得費用
事業承継士資格を取得するためにかかる費用について一覧で確認してみましょう。
費用の対象 | 金額 |
事業承継士資格取得講座(受講料) | 300,000円 |
事業承継士認定試験(受験料) | 9,000円 |
事業承継協会入会(入会費) | 10,000円 |
事業承継センターでは「早期割引」として、各講座開始2か月前までに申し込み・入金をすれば10,000円+消費税が割引される特典があります。
とはいえ、講座受講料は高額。なので、まずは講座の無料ガイダンスを受講することをおすすめします。
テキストの実物を確認したり、疑問点を質問したりできるので、不安を解消してから申込みを行いましょう。
ガイダンスは各地で定期的に開催されているので、ぜひ足を運んでみてください。
事業承継士の具体的な仕事内容は?
事業承継士は特定の国家資格を持ちながら、さらに事業承継についての高度な知識を持っている「事業承継のプロ」です。
事業承継の複雑な手続きをスムーズに進めるために、的確な支援を行います。
とはいえ、行政書士や司法書士のように「業務独占資格」ではないので、事業承継士でなければできない仕事は存在しません。
それでも業界内で高い評価を得ている事業承継士とは、どのような存在なのでしょうか。
まずは事業承継士の仕事内容について見ていきましょう。
事業承継の問題を総合的に解決
事業承継士の役割は、事業承継に関わる様々な問題を解決し、企業の新たな門出を手助けすること。
会社を新たな経営者に引き継ぐためには、法律や財務などの手続きも含めて、経営に関する様々な手続きが発生します。ざっくりと、事業承継の流れを紹介しましょう。
事業承継の準備段階
- 譲渡に向けた自社の磨き上げ
- 後継者の選定や育成スキームの作成
- 株式を後継者へ譲渡するために株主から株式を買い集める
- 事業承継計画表を作成する
事業承継に取り組む
- 株式を買い取るための資金を調達する
- 株式評価額を引き下げるための施策を立案・実行する
- 贈与税や相続税を節税するための制度を活用する
- 事業承継補助金を活用する
事業承継を終えてから
- 後継者が社内の経営権を掌握できるよう調整する
- 新規事業や経営革新を行い、事業承継後の経営を軌道に乗せる
非常に簡潔に記載しましたが、これらの手続きを5〜10年というスパンで進めていかなければなりません。多大な労力とコストがかかることは想像に難くありません。
経験豊富な専門家として、事業承継士が伴走することで、経営者や企業が抱える負担は大きく減り、心強い味方とともに事業承継を進められるでしょう。
また、事業承継はその特性上、税務や会計といった専門分野に大きく関わるので、会計士や税理士、中小企業診断士などとタッグを組みながら進めていかねばなりません。しかし、会計士は会計の、税理士は税務の専門家です。事業承継の専門家は、事業承継士しかおりません。
専門家のコーディネート役
こうした特性から、事業承継士は「一つの分野に特化」しているだけでは不十分。
「事業承継に関する総合的な解決」を図れるマルチな能力が求められる職業です。
事業承継をスムーズに進めるためにはさまざまなタイプの国家資格を持つ専門家が必要になりますが、事業承継士は事業承継の音頭を取りながら「専門家をコーディネート」するのが役割です。
調整役として舵を切りながら、事業承継を進めていきます。
煩雑な事業承継を徹底サポート
事業承継士は、会社の経営方針やノウハウ・技術についてヒアリングをして「最適解」を出していきます。多くの経営者にとって、事業承継ははじめての経験ですから、親族内や社内へ承継する際はとくに、自力で手続きを進めようとしがちです。
しかし、事業承継には法律や財務などいくつものジャンルに長けていないと難しいのです。見落としがあると必要以上に課税されたり、本来負わなくてもいい負債を負ってしまう場合もあります。
「せっかく事業承継をしたのに、手続きが曖昧だったせいで経営が傾いてしまった…」というような事態に陥ることも。事業承継は会社の未来を左右するとても重要なものです。
この最後にして一番大変な社長の仕事を徹底的にサポートするのが事業承継士です。
事業承継士は事業承継のプロフェッショナル
事業承継士は一定の国家資格を持った人しか取得できない、とくに専門性の高い資格。
もともと持っていたプロフェッショナルとしての知識・経験に加えて、さらに事業承継に関する知識を組み合わせることで会社の承継を成功に導いていきます。
また、同業者は皆異なる専門分野を持っています。
一緒にチームを組んで働くことで新しい知見が得られ、自身の業務一般にいい効果をもたらすことも間違いありません。
事業承継は「会社の分岐点」ともいえる重大なプロセスです。
事業承継士はそれを一手に引き受け、会社の未来に大きな影響を与える重要な役割。
責任こそ伴いますが、この上なくやりがいのある仕事なのです。