合併という言葉自体は聞いたことがあるものの、実際にどのようなメリットがあるのかや、手続きの流れなどを知らない方も多いはず。今回は、事業承継のための手段の1つとして合併について紹介していきます。
合併の概要やメリット・デメリットをはじめ、注意が必要なことや流れについても解説をしています。
後半には成功例も紹介していますので参考にしてください。
合併はM&Aの手段の1つ
今回紹介する「合併」はM&AのMの部分にあたるものです。M&Aは合併と買収の頭文字をとった用語です。事業の継続したり拡大したりするなどさまざまな目的をもって利用されています。まず、合併の意味や種類、買収との違いについて具体的に紹介していきます。
◯合併は経営統合による承継手段
まず、合併の定義について確認します。合併とは、2つ以上の事業体が1つの事業体として経営を統合する事を指します。また、会社法の制度に基づいて手続きを進めていきます。
合併を行う動機には、ポジティブな理由とネガティブな理由などさまざまなものがあります。
例えば、今後事業を拡大するうえで必要な経営資源を獲得するためでもされますし、経営が困難に陥った会社を救う目的で統合する場合もあります。
最近では、中小企業庁が経営者の高齢化が原因による業績停滞を防ぐために「事業承継5ヶ年計画」を策定しています。そのため、後継者探しのための合併を行うことも増えているようです。
◯合併には2種類ある
合併には、新設合併と吸収合併の2種類があります。
新設合併
2つ以上の会社が統合する際に、どの会社も潰して実質新会社をたてる形で統合を行うものです。親切合併では、新たな企業を設立するので免許の許可・認可や株式上場などを新たに行う必要があります。
吸収合併
合併前の会社をどれか1つだけ残しそこに吸収する形をとるものです。こちらは合併にかかわる手続きが、新設合併よりシンプルです。
そのためコストや手続きの手間を考えると吸収合併が行われる場合がほとんどです。さらに、吸収合併の場合には事業承継補助金のⅡ型という補助金が受けられる可能性もあります。
◯合併と買収の違いとは?
合併と間違えられやすいものに「買収」があります。言葉は似ていますが意味は違います。
合併は新設合併でも吸収合併でもどちらかの企業は必ずなくなります。
買収は、買収にかかわる会社は残ります。合併のように会社は消えることがなく、傘下に入る形をとります。
また、合併と事業譲渡についても混同しがちなので解説します。合併は会社を社員や環境を含めてまるまる受け継ぐものです。一方事業譲渡は、譲渡する契約や財産・債務、従業員などを細かく決められます。
事業譲渡では、一部受け継がないのが出てくることもあります。
合併のメリット・デメリットを紹介
合併はする側にもされる側にもメリットやデメリットがあります。ここでは、合併側と被合併側のメリットとデメリットについてそれぞれ紹介していきます。
◯合併のメリット
合併を行う側のメリットは、以下のとおりです。
- 新規分野への進出が容易になる
- 既存の分野の強化
今まで自社では不足していたノウハウやマーケティング力を手に入れられるので、新規分野進出へのハードルが下がるでしょう。
また、組織がシンプルになるのでコントロールが楽になります。組織のコントロールが楽になると、2つの会社間での綿密な関係性が構築され、シナジー効果が高まり従業員の士気も向上したりします。また、合併対価を株式として売り手に渡す方法もあるため、買い手側の企業は資金調達がなく合併を行えます。
被合併側では、後継者を早期発見できるので自身が引退した後も従業員の雇用の継続が可能です。
◯合併のデメリット
合併を行う側のデメリットは、合併に伴って現場の負担が大きくなること。
新しく従業員が加わることで諸手続きや、環境の整備などに多くの時間を費やします。また株主は、合併で売上がどうなるかといった変化に対して敏感になるでしょう。その場合、株価に影響を与える可能性があります。
被合併側からみたデメリットは、前任者の意図通りに会社が運営されない可能性があること。合併をすれば合併先の会社の方針とのすり合わせがあり合併先の方針に従うケースが一般的です。
合併の留意事項
◯法務上の留意事項
簡易合併は、存続会社の法務に関係します。存続会社の受け入れる対価が総資産の5分の1以下である場合には、株主総会を省略できます。
ここでいう総資産は、会社法施行規則にのっとって計算した額です。
5分の1より多いと、利益が相反する可能性があるため株主総会の承認が必要です。
また、反対株主が6分の1を超えた場合や譲渡制限株式を割り当てていると、必ず株主総会を実施する必要があります。
略式合併は、消滅する会社に関係するものです。
吸収する親会社が子会社の90%以上の議決権を持っていると、会社の株主総会を省略できます。
ただし、消滅する会社が公開会社で種類株式発行会社ではない場合には制限があります。合併の際に得る対価の全部又は一部親会社の譲渡制限株式であるときは、必ず株主総会が必要です。
◯税務上の留意事項
適格合併では、被合併法人の資産・負債は簿価で合併企業へ引き継がれます。そのため、移転損益は計上されません。
非適格合併は、被合併法人の資産・負債は合併時の時価で合併法人へ引き継がれることになり、移転損益は被合併法人の最終事業年度における課税所得を構成します。
適格合併の要件は、合併交付金の発生しない合併の中で、持株割合によって細かく分類されています。100%の場合はとくに他の要件はありません。その他の場合には他の条件もあります。税金が大きく変わるので、事前に確認をしておくべきです。
◯繰越欠損金の引継ぎと使用期限
適格合併には、一定の要件を満たしていると、消滅する会社の繰越欠損金を存続する会社に引き継ぐことができます。
また、合併後に消滅した会社から引き継いだ含み損の資産があり、それを売却すると譲渡損失として計上できます。
消滅する会社は、繰越欠損金の引き継ぎや使用が制限されている場合があるので覚えておきましょう。
合併が進む7つの手順
ここまでは合併の概要やメリット・デメリットについて紹介してきました。実際に合併を進めるために必要な手続きについて、順序を追って解説していきます。
①合併契約の締結
まずは、合併契約を締結します。契約を締結する前には、取締役会での承認が必要です。また、事前に株主へ通知が求められます。その上で原則として株主総会での承認決議を得ることも必要です。
②合併契約等の備置・開示
契約を行う際には、指定の期間書類を保存しておく必要があります。
保存開始期間は、下記のうち一番早い日です。
- 承認決議を得る株主総会の2週間前
- 株主へ合併することを通知又は公告した日
そこから効力の発生後6ヶ月経過するまで保管します。
③合併契約の承認決議
先程の合併契約のところでもお伝えしましたが、合併会社でも被合併会社でも原則として株主総会での承認が必要となります。もちろん、簡易合併や略式合併にあたる場合には、株主総会での承認を省略できます。
④反対株主からの株式および新株予約権の買取請求へ対応
合併に反対する株主は、原則として株式や新株予約権の請求ができます。そのため、必要に応じて株式や新株予約権の買取を希望する株主への買取対応が必要になります。
⑤対価の交付
被合併会社の株主は、必要な手続きを踏まないと株式が無効となり資産がなくなってしまいます。そのため、合併会社の株主が、被合併会社の株主に対して、等価となるように株を交付して資産の維持をはかります。
⑥合併効力発生
ここまでの手順を踏んだ後は、合併の効力が発生します。新設合併の場合には会社が新しくスタートする日が合併効力の発生日です。吸収合併の場合には、契約書に記載した日から合併の効力が発生します。
⑦事後開示書類等の備置・開示
合併の効力が発生した日から6ヶ月の間は、本店に契約にかかわる内容を記した書類等を保管しておく必要があります。それと同時に求めに応じてその情報を開示も求められます。
◯合併には必要な書類がたくさんある
合併を行う場合には、合併会社と被合併会社間で多数の書類が必要となってきます。紹介した合併契約書以外にもさまざまな書類を作成して保管するため、書類の作成だけでも膨大な時間が必要になります。
これらを代表が一人でさばこうとすると非常に大変。合併や事業承継のプロに相談すると契約や手続きがスムーズに進みやすくなります。普段の業務で忙しい社長の味方になってくれるので、合併をお考えの社長は一度話を聞いてみるといいと思います。
合併を活用してきた企業の事例
ここでは、経営の1つの手段として合併を取り入れてきた3社を紹介します。どの会社も有名どころなので、ニュース等で確認していた方も多いでしょう。
◯ソフトバンク
ソフトバンクの事例は、新事業を行う合併手法として典型的な事例となっています。2006年の4月に、イギリスの通信事業者大手のボーダフォン株式会社を買収しました。
この合併が、現在のソフトバンクモバイルの事業の基盤となっています。日本企業の取引額は最高額となる1兆9,000億円という金額で取引が行われました。Yahoo!の日本事業などで力をつけてきたソフトバンクが通信事業へと大きく踏み出すための大掛かりな買収となりました。
◯USEN
USENでは、2010年に一度会社分割したU-NEXTと再統合をしています。それからはUSEN-NEXT HOLDINGSへと商号を変えて事業が行われています。
この再統合の背景には、今後の時代を見据えて競争優位性を保つという目的のほか、事業管理体制を効率化したり、それに伴う経営コストの削減などの目的もありました。また、両者のもつ属性の異なる顧客情報をあわせることで、さらなる事業拡大を狙うために行われていた事例です。
凸版印刷
凸版印刷でも、2014年に連結子会社の株式会社トッパンシステムソリューションズと合併をしました。本事例では、システムの規格や開発、運用などにかかわるICTへの対応力の強化や関連部門との連携をお互いに強化して、凸版印刷のめざす最適なICTソリューションの提供を目的としていました。
もともと100%出資の完全子会社なので、連結業績にも影響を及ぼしませんでした。グループの組織再編ともとれる合併となりました。
合併を含む事業承継についてはプロへ相談
◯高い専門知識と豊富な経験が必要不可欠な合併処理
今回は、合併の基本的な知識を紹介していきました。実際に合併を進めていくにあたっては会社法をはじめ、さまざまな法律の理解や膨大な事務手続きが必要になってきます。
そして、スケジュールに余裕をもって計画することが必要なものの、経験がない場合には見通しも建てにくいでしょう。このように、合併には専門知識と豊富な経験がなければ難しいです。
迷いながら手探りですすめていくよりも、専門家に相談したほうがスムーズ且つ正確に手続きを進められます。
経営者が事業運営のプロであるように、合併や事業承継にもプロがいます。
合併は会社の今後に大きくかかわる大切な段階となります。そのため、専門の業者に依頼することをおすすめします。