大廃業時代に突入した現代の日本では、中小企業や個人事業主などの小規模事業者の廃業を防ぐために様々な施策が導入されています。また、金融機関が専門チームを構築して対策を講じたり、商工会が各地でセミナーを開催したりと、官民が連携しながら事業者を支援する体制を整えているのです。大廃業時代とはいったいどんな状態なのか、具体的なデータをもとに現状を読み解いていきましょう。
ことの始まりは2017年に経済産業省が発表した、とあるデータ。日本に存在している、380万を超える中小企業のうち「もうすぐ社長が引退を迎えるが、後継者が決まっていない会社」を「廃業予備軍」として抽出してみた結果、なんと全体の1/3にのぼる127万社が廃業予備軍に当てはまってしまったのです。
――◯国内の中小企業のうち1/3にのぼる127万社が廃業する見込み
本来、廃業という言葉を聞いて思い浮かぶのは「赤字が続いて資金繰りが悪化し、事業を畳まざるを得なくなった」というケースです。これを赤字廃業と呼びます。
しかし、先ほど紹介した「廃業予備軍」の条件は「社長が引退を迎える」「後継者未定」の2つ。財政状態は抜きにして、あくまで社長の年齢と後継者の有無に焦点を当てた上で抽出された廃業予備軍の企業が、127万社も存在しているのです。つまり、単に国内の景気が良い、悪いだけの問題ではないということがわかります。
――◯大廃業時代を迎える理由は「少子高齢化」
超高齢化社会に一足早く突入した日本だからこそ、社長の高齢化と後継者不足の2点は避けて通れない問題でした。その証拠に、以下の図を見てみると、経営者のボリュームゾーンが高齢化していることが分かります。
引用:中小企業白書
戦後のベビーブームによって誕生した団塊の世代が、出世や起業を通して経営者となり、バブル景気を牽引し、今は引退の鐘の音が鳴るのを待っている状態です。その結果、人口のボリュームゾーンがスライドするのと連動するように、国内の経営者の平均年齢も高齢化を続けています。その上で、日本は深刻な少子化問題を抱えているため、後継者や人手の不足も今の大廃業時代を招いている要因です。
また、東京商工リサーチが休業や廃業を選択した中小企業や小規模事業者を対象にして「休廃業の理由」を調査した結果、もっとも多かった理由として「経営者の高齢化」が挙げられています。
つまり、大廃業時代を迎えている理由は財政的な問題ではなく、後継者不足によるもので、これからさらに黒字経営を続けている優良企業の廃業が相次ぐ可能性がある、ということです。
――◯喪失される雇用は650万人
黒字企業も休廃業に追い込まれる可能性が高い大廃業時代。企業が廃業するということは、そこで働く従業員が失業する、ということです。
先ほど紹介した試算に基づけば、失われる雇用は650万人と言われています。これほど大規模な非自発的失業が生じれば、社会に与える打撃は計り知れません。
――◯喪失するGDPは22兆円にも
人を抱える企業が廃業することで、国内総生産(GDP)も大打撃を受けることが予想されます。試算によれば22兆円ものGDPが失われると想定されているのです。
GDPとは、言い換えれば「国内で生産された価値の総数」なので、GDPの減少はそのまま国内によって生み出される価値が少なくなる、ということ。現代の経済は「価値」と「貨幣」を交換して成り立っているので、国内のGDPが減少すると現状の経済レベルが保てなくなります。
例えば貿易を行う企業が廃業することで、その企業を経由して国内に流通していた海外の商品が供給されなくなります。また、輸入した商品を各地に届けていた流通業者も廃業に追い込まれるリスクが高まり、小売店にも波及してダメージが与えられるでしょう。
結果として各企業で働く従業員の仕事がなくなり、リストラされてしまう可能性が高まります。雇用されて仕事をすることは、言い換えれば「価値の創造」です。仕事を失くして価値の創造ができなくなれば、さらにGDPが減少し、国内で交換される「価値」が減少してしまいます。その結果、今度は後継者も財政も健全に機能していた企業まで廃業に追い込まれる――というような負のスパイラルに陥ってしまうでしょう。
22兆円ものGDPが失われれば、国内のどこに存在する企業であっても、深刻なダメージを受けてしまう可能性があります。対岸の火事を眺めている暇はなく、危機感を持って早急に対策を講じなければならないのです。
――◯2025年には245万人の経営者が70歳以上に到達
先ほど、「経営者の年齢のボリュームゾーンが高齢化している」と述べましたが、このままいけば2025年の時点で70歳以上になる経営者が245万人にのぼると言われています。経営者の年齢を若返らせるには、「事業承継」以外の道はありません。事業承継の需要が急激に高まっているのには、こういった背景があるのです。
その煽りを受けて、M&Aのマッチングを行う企業がM&A型の事業承継を推進したり、信用金庫や地銀が従業員に事業承継の専門知識を教育したりと様々な取り組みを行っています。
――◯新聞でも「事業承継警報」が警鐘を鳴らす
日本経済新聞などの大手メディアでも大廃業時代の到来に警鐘を鳴らしています。後継者未定のまま廃業する企業のなかには黒字経営を続けている健全な企業も存在している、優良な技術を残すために事業承継を進めるべきである、という内容の記事が特集を組まれて掲載されているのです。
もうすぐそこまで迫っている大廃業時代の足音を聞き逃さないように、事業承継についての情報収集に努めましょう。
参考大廃業時代の足音 中小「後継未定」127万社決まらぬ後継者、迫る大廃業時代 全4回まとめ読み
中小企業や小規模事業者の廃業を防ぐために、政府や民間企業が連携しながら様々な施策を打ち出しています。補助金や事業承継税制などの財政政策だけでなく、「人」に焦点を当てた後継者バンクや後継者塾など、施策のタイプは様々です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
――◯事業承継税制
事業承継では、後継者に株式や資産を譲渡しなければなりませんが、これは経営者から後継者へ財産を贈与・相続しているとみなされます。贈与税や相続税の課税対象となってしまうため、事業承継を行いたくても税負担が重すぎるために踏み切れない事業者が少なくありませんでした。
こういった状況を改善するために導入されたのが事業承継税制です。一定の条件を満たせば贈与税や相続税の納税が免除される、特例としての施策。事業承継を考えている企業はぜひ活用しておきましょう。
――◯事業承継補助金
中小企業庁が施行している事業承継補助金。中小企業や個人事業主が事業承継に取り組むさいに捻出した費用を補填するための施策で、採択されればかなり広い範囲の費用を経費として認めてもらうことができます。
事業承継補助金の用途は「事業統合・再編」「後継者支援」の2つに大別され、どちらで申請するかあらかじめ決めておくと補助金の活用方法についても見通しが立ちやすくなるでしょう。以下の記事で詳しく補助金について解説しているので、ぜひご覧ください。
――◯経営承継円滑化法
事業承継によって資産を後継者に譲渡する際に、相続の「遺留分」を超えて資産分配をしてしまうケースが散見されます。後継者には企業の過半数を超える株式を渡したり、事業に必要な資産を引き継いだりしなければ思うように経営権を委譲できないため、よく起こりうるケースです。しかし、遺留分を侵害することで「遺留分減殺請求」を受けてしまうと、後継者が保有しておくべき株式を確保できなかったり、事業用の資産が別の相続人に引き継がれてしまう可能性があります。
そこで、民法上の制限を緩和したり、事業承継で生じる他の法令との食い違いを防ぐために施工されたのが、経営承継円滑化法です。事業承継を果たす上で抑えておくべきポイントが数多く盛り込まれているので、経営者や後継者はぜひ確認しておきましょう。
――◯第三者承継支援総合パッケージ
2019年の12月、経済産業省は第三者承継を支援するために新たな施策を打ち出しています。経産省は中小企業の廃業を防ぐ手立てとしてM&Aに着目。年間4,000件のM&A件数をさらに拡大して、後継者不在の中小企業を守ろうと考えています。
また、経産省は売り手企業と買い手企業がマッチングする前、マッチング中、マッチングした後のそれぞれに解決すべき課題があり、それがボトルネックとなって件数が伸びていないと推測。具体的には、
これらを解決すべく、抜本的な改革を行うと宣言したのが第三者承継支援総合パッケージです。具体的な方針は以下の通り。
これらについて10年間集中して取り組むと発表し、10年で60万者の第三者承継を実現することを目標に掲げています。付随して様々な制度が整備されていくことが予想されるので、事業承継を考えている経営者や事業者はぜひ注意して見ておきましょう。
――◯事業承継ネットワーク
事業承継には税法、会社法などの法令が複雑に絡み合っており、社内でも株式の評価や会社の資産と個人資産を切り分けるなどの取り組みが必要になります。専門知識がないと対応しきれないことも多く、事業承継を進めるためには税理士や会計士、中小企業診断士などの専門家が介入して手続きを進めるのが一般的です。
しかし、どのフェーズでどの分野の専門家を頼ればよいのか分からなかったり、分野の中でも事業承継に強い専門家が分からなかったりするケースも少なくありません。そこで中小企業庁が取り組んだのが「事業承継ネットワーク」の構築です。
各都道府県を代表に、商工会や金融機関、民間の士業者などを構成メンバーとして設置し、包括的な事業承継支援が可能に。自治体の主導で事業承継支援を行うことで、よりきめ細かなサポートが実現でき、中小企業庁が情報提供を行うことで支援の質も継続的に高めていけます。
ネットワークが構築されていることで、事業承継の支援を受けたい事業者にとっても大きなメリットが生まれています。商工会や信用金庫など、馴染みのある団体に相談するだけで事業承継ネットワークに在籍しているメンバーにアクセスでき、必要な支援を簡単に受けられるようになりました。
「後継者問題や事業承継について悩んでいるけれど相談相手がいない」と悩んでいる方は、ぜひ「事業承継ネットワーク+地域名」で検索し、地域の事業承継ネットワークにアクセスしてみると的確なアドバイスを受けることができるので、おすすめです。
――◯後継者塾
事業承継は「引き継いでおわり」ではなく、引き継いだ後継者が経営を維持していかなければなりません。しかし、長く企業を牽引してきた経営者から見れば、後継者が頼りなかったり、実力不足に感じてしまったりするケースも少なくありません。また、後継者の立場で考えてみると、「経営者としてやっていけるのか」「先代のようにできるか分からない」という不安に駆られてしまうことも考えられます。
こういった不安は後継者教育を入念に行うことで解消できます。経営者に求められる素質を伸ばしたり、先輩経営者に指導を受けたりすることで、自信を持って事業承継やその後の経営に臨めるようになるでしょう。
後継者教育の方法は様々ですが、おすすめは「後継者塾」の活用です。同じような不安を抱えた後継者たちが集まって、先輩経営者や事業承継の専門家から指導を受けられるセミナーが各地で開催されていますので、ぜひ参加してみましょう。以下の記事では、後継者塾や後継者教育のポイントについて詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
大廃業時代を迎えてはいるものの、いまだに当事者意識を持って状況の打開に取り組んでいる事業者は多くありません。実際に大廃業時代が到来し、経産省の試算通りにシナリオが進んでしまったら、どのような影響があるのでしょうか。
ここでは例として以下の3つの経済主体に焦点を当てて見ていきます。
――◯地方銀行
地方銀行の主な収益源は以下のとおりです。
この中で、中小企業が廃業することで影響を受けるのは「企業向け融資の利子収入」。どのような影響が考えられるのか解説するために、みずほ銀行が地方銀行105行を調査した結果を交えて見てきましょう。
地方銀行105行の合計貸出額は250兆円に上っており、そのうち半数近くが「中小企業」への融資に充てられています。地方銀行はこうした融資を通して地方産業を支援し、企業があげた収益の中から融資額に応じた利息を徴収して利益をあげているのです。
ここで、大廃業時代が到来し国内企業の1/3が廃業に追い込まれたとします。融資先であった中小企業が廃業することで地方銀行は融資先がなくなり、得られていたはずの利息が得られません。単純計算でも利息収入は2/3に減少します。
さらに、127万社が廃業すれば景気は当然悪化しますから、他の残った企業も融資を受けて延命しようと考えるでしょう。しかし資金繰りが悪化した企業への貸付は地方銀行からすればリスクがともなう選択です。加えて、収益が減少している状態では、貸し渋りが生じる可能性が非常に高いと考えられます。連鎖的に廃業・倒産する企業が増加し、銀行はさらに融資する企業が減少するため収益が先細りになっていくでしょう。
このように、銀行の収益モデルは貸付先の企業と密接に絡み合っているため、大廃業時代の到来によって127万社が廃業に追い込まれるようなことがあれば、大幅な収益減は免れません。
参考:みずほ銀行
――◯元請となる大企業
中小企業や小規模事業者に仕事を依頼する大企業にとっても、大廃業時代の到来は深刻な問題です。分かりやすく建築業界を例にして考えてみましょう。
大企業のA社は長年付き合いのある下請け会社のB社と懇意にしています。A社は新たに獲得した案件を、いつものように中小企業のB社へ依頼しようと考えます。しかし、経営者の高齢化を理由にB社が廃業を選択。その場合、A社はまた新たな下請け業者を探さなければなりませんが、全体の1/3の中小企業が廃業するような事態に陥れば、新たな依頼先を探すことは非常に困難でしょう。
結果的に生産のリソースが大幅に減少することで、需要が減っていないにも関わらず受注量が減少し、売上に多大な影響を及ぼすことが想定されます。また、もっとマクロな視点で捉えてみると、22兆円のGDPが失われている状態では建築業界全体が冷え込む可能性も考えられるので、需要そのものが大幅に減少する可能性も大いに考えられるのです。
大企業にとっても「自社は廃業しないから問題ない」という問題ではなく、巡り巡って自社にもダメージを与えうる問題であるということを自覚する必要があります。
――◯中小企業・小規模事業者
中小企業や小規模事業者にとっては言わずもがな、直接的な影響が生じます。後継者候補が見つからなかった場合、まず直面するのは「売上の減少」です。一般的に、経営者の高齢化に伴って業績は悪化していく傾向にあるので、後継者が未定の状態で高齢化した経営者が陣頭指揮を取っている状態では、売上が減少していく可能性があります。
売上の減少によって人材の採用や設備の拡充、新規事業への投資が困難に。金融機関へ融資を打診しても、経営者が高齢化している企業への貸出は渋られてしまいます。このタイミングで事業承継に取り組もうと考える経営者も少なくありませんが、既に経営者が引退時期を迎えているところから後継者を探しても後継者教育に十分な時間をかけられません。
ここまできて、後継者をヘッドハンティングするか、M&Aによる買収を考えることになりますが、企業の磨き上げがなされていなければ有能な人材は首を縦に振ってくれない可能性が高く、M&A市場でも売れ残ってしまうでしょう。早めに事業承継の準備を進めたり、企業の磨き上げに着手していたりといった施策に取り組んでいなければ、廃業に追い込まれてしまう可能性が非常に高くなってしまうのです。
大廃業時代は日本に生きる方にとって非常に悩ましい問題です。しかし、打開策であるはずの事業承継に対して前のめりで取り組んでいる企業は未だに少なく、支援制度が充実している反面、当事者意識を持っている企業があまりに少ないのが実状と言えます。
なぜ事業承継に踏み出せない企業が多いのか、理由を以下の4つに細分化して考えてみましょう。
それぞれ詳しく解説していきます。
――◯資金面での負担
事業承継の形態にもよりますが、経営を誰かに引き継ぐためには多額の費用が必要になります。一般的な親族内承継のケースで考えてみても、以下の費用が必要になるでしょう。
事業用の資産や株式の買い取りには多額の費用が必要になるので、後継者が「事業を引き継ぎたい!」と考えていたとしても、費用の捻出で躓いてしまう可能性が高いです。また、費用が高くなれば贈与税も付随して高くなってしまうので、税負担も含めて費用を捻出できる方は一握りと言えます。
加えて、事業承継では様々な専門知識や手続きが必要になるので、事業承継に強い専門家にコンサルとして入ってもらう必要があり、その依頼料も必要です。
そのため、以下のような取り組みを通して資金面の問題をクリアする必要があります。
これらの対策について、以下の記事で詳しく解説しているので、事業承継でかかる費用や補助金などについて理解しておきましょう。
――◯時間面での負担
中小企業によると、事業承継では5〜10年の準備期間が必要になると言われています。かなり早めから事業承継を意識した準備が必要ということですが、この時間的な負担が重荷となって事業承継を進められない事業者も少なくないでしょう。
これほどの時間をかけて事業承継を行う理由は、企業の負債を減少させて業績をアップさせた状態で後継者に引き継ぐための「磨き上げ」や、後継者が自信をもって経営の舵取りを行うために必要な「後継者教育」に時間がかかるためです。これらの準備が整った状態で事業承継に取り組むことではじめて事業承継の本質である「経営者の若返り」と「新規事業の創出」が果たされます。
なるべく早めに準備に取り組めば、短期間で事業承継を完了させるよりも少ない負担で済ませることができるでしょう。まずは事業承継計画表を作成して、どんなスケジュールで事業承継を行うのかイメージを固めることをおすすめします。
――◯知識面での負担
事業承継ではソフト面、ハード面の承継が必要になります。どちらもかなり複雑なので、知識不足を理由に腰が上がらない方も少なくありません。専門知識やノウハウがないまま事業承継に取り組んでしまうと、争族に発展したり、支払わなくても良かった税金を支払ってしまったりといった状況に陥ってしまいかねないのです。
まずソフト面の承継とは、先代経営者が感じる不安や寂しさを取り除いたり、他の親族との争いに発展しないような配慮を行ったりするメンタル面でのケアに始まり、目に見えない企業の風土や文化、取引先との関係性などを後継者に正しく引き継ぐことも含まれます。
ハード面の承継とは、株式の引き継ぎに関わる手続きであったり、資産を引き継ぐために個人資産と事業用資産を切り離したりする、モノやカネに関わる手続き全般です。事業承継のノウハウを有した専門家へ依頼して、スムーズに手続きを進めていかなければなりません。
これらの手続きを進めていくには専門知識が必須です。しかし、事業承継に初めて取り組む方はそれらの知識を有していませんし、どんな専門家に依頼すればよいのか分からずに迷ってしまいます。だからこそ、先ほど紹介した事業承継ネットワークを活用したり、弊社メディアのような事業承継の専門家を有する事業者に相談したりといったアクションが必要になるのです。
――◯人材不足の影響
事業承継は後継者が居て初めて成り立つ手続きなので、経営者の気持ちの断捨離や企業の磨き上げなどの要素がすべて整っていたとしても「引き継ぎたい!」と思ってくれる後継者がいなければ意味がありません。事業承継は果たされないまま、廃業へ追い込まれてしまうでしょう。
冒頭でも述べた通り、現代の日本は深刻な少子化に直面しています。後継者候補はおろか、現場で働く従業員の獲得ができずに廃業に追い込まれてしまう企業も少なくありません。そのため、どのように後継者候補を探すかという点が非常に大切です。
親族内に後継者候補がおらず、社内の従業員へ承継するのも難しい場合は社外から後継者を招へいする必要があります。その際におすすめしたいのが、全国に設置されている「事業引き継ぎセンター」が実施している後継者バンクの活用です。
後継者を探している企業と、企業を探している後継者候補のマッチングを促進しているので、双方が合意した状態で事業承継の手続きを進めていけるのがメリット。既に後継者バンクを利用して事業承継を果たした例も多くなっているので、後継者不足に悩んでいる方はぜひ登録しておきましょう。
事業承継を推進するために、様々な団体が支援に乗り出しています。気軽に事業承継の相談ができるだけでなく、企業の状態に合わせて適切なアドバイスを受けたり、専門家の紹介を受けたりできるので、ぜひ活用してみましょう。
――◯商工会・商工会議所
各地に設置されている商工会や商工会議所は、地域経済の活性化を果たすために事業承継の支援にも注力しています。地域によって取り組みにはバラつきがあるので、自社の存在する自治体で行われているサポートを調べてみましょう。
多くの自治体では商工会・商工会議所の職員による事業承継の相談対応や専門家による詳細なアドバイス、専門家の紹介、各種セミナーの開催などを行っており、経営者や後継者の支援に取り組んでいます。
――◯地方自治体
都道府県や市町村が主体となってセミナーの開催や専門家の紹介を行っているケースも増加しています。支援方法は様々ですが、自治体内で事業承継を行った事業者に補助金を支給したり、セミナーを開催したりといったきめ細かなサポートを行っているのが特徴です。
また、都道府県は、先ほど紹介した経営承継円滑化法の受付窓口としての機能も担っているため、窓口で詳しく税制優遇の概要の説明を受けることも可能になりました。自分の自治体でも事業承継支援の施策がないか、調べてみることをおすすめします。
――◯よろず支援機関
独立行政法人の中小機構が全国に設置している「よろず支援機関」は、事業承継に限らず、中小企業が抱える様々な問題に対してアプローチしてくれる組織です。
創業や経営、資金調達、事業承継など幅広く対応してくれるので、「事業承継のために資金繰りを健全にしたい」といった、事業承継の前段階における相談であっても対応してくれるのです。相談内容の多くは売上の拡大で、事業承継に関する相談件数は全体の2.8%とまだ少ないですが、これからさらに増加していくと見込まれます。
参考:よろず支援機関
中小企業は、経営者の年齢の推移や経済の変化によって様々な影響を受けやすいもの。しかし、その中で研鑽してきた技術や優良なサービスが日本の礎となって、今日の生活を守っているのです。カタチのあるものも、ないものも、次世代に受け継いでいくことで企業はさらに発展し、次の未来に託されていきます。
事業承継は廃業を防ぐためのものではありません。
「よい企業を未来につなぎ、もっと多くの価値を想像するための手段」です。なるべく早めの準備と正しい知識の習得を通して、自社の未来を紡いでいきましょう。