株式会社クラリスキャピタルのサポートで、ドローンレンタルサービス「ドロサツ!!」を運営されている株式会社 drone supply & controlが2020年末にM&Aを成約されました。売り主と買い主で良好な関係を築き、M&A成約後もお互いがサポートしながら引継ぎを行なっており、まさに「M&Aに成功した」と言っても過言ではありません。
そんな、売り主の米倉様と買い主の溝口様、そしてお二方の間に立ってサポートされたクラリスキャピタルの牧野様を交えた御三方へインタビューを行いました。
※本インタビューは前編・後編の2部構成となっています。まず前編では『ドロサツ!!』を運営する株式会社drone supply & controlを創業され、今回M&Aにて会社を譲渡された米倉様のお話を掲載しています。
事業の設立からM&Aを決意するまで
――ドローンレンタルの事業を始めようと思ったきっかけをお聞かせください。
はい。私は元々リクルートで新規事業立ち上げを行なっていたのですが、事業立ち上げをしている中で、会社のブランド(ネームバリュー)を良くも悪くも活用し事業構築するため、じゃあ、会社の看板(ブランド)がなかったら、自分は事業を立ち上げられるのだろうか?サラリーマンとしてではない自分の実力はどこまで?みたいな疑問が沸いたんですよね。
その当時、2017年だったのですが、リクルートでちょうど働き方改革で副業推奨みたいなタイミングでもあったので、じゃあ副業で事業をやってみようと決めました。
その中で、どんな事業をやるのか?悩んだのですが、全くの未知の世界で挑戦したいということと、リクルートが既に行なってる事業と重ならない方が良いと考え、市場成長予測が高かったこともあり「ドローン」の事業をする事に決めました。
――本格的に副業が推奨されはじめているこの時代に、実際に副業としてご自身で経営されていかかでしたか?
スキル面・金銭面・時間面の3つに分けると、
金銭面が一番不安になりました。ドローンを購入するに際して、30万円程で購入できるのですが、サラリーマンという立場から考えると30万円は結構高額で。
加えて集客コスト等も払うと、費用がどんどんかさんでマイナスになっていく恐怖というか。サラリーマンから副業を始める場合、最初はそこの恐怖を感じるのかなと思います。そこを乗り越えると”個人”として考える30万円は大きいですが、”企業”として考えると全然大きくないということがわかってきます。
時間の面は、副業としてどれだけ時間を割けるかという部分で、本業に支障が出ないよう自己マネジメントが求められました。
スキル面については、ドロサツは、Will(やりたい事)で選択したのではなく、Can(できる事)で選択した事業だったので、できることを着実進めていくということで、一歩ずつ成長させる事ができました。
――ご自身で事業をスタートされてから、M&Aで売却をしようと考えた経緯をお聞かせください。
まず、”ドロサツ!!“のサービス自体が成長フェーズにありました。事業も順調に拡大傾向にあり、より成長させよう思った時に資金が必要だったことが理由のひとつです。サラリーマン時代に節税を目的に始めたので、当時は良かったのですがドローンレンタルのニーズが増える中、レンタルする為にまず資材が必要で、先に資金を投入して後に回収する、という投資に近いビジネスモデルであった事がその理由です。
もう一つ、自身の経験やキャリアにとっても「事業を起こす⇒成長させる⇒安定させる⇒事業をお譲りする」という会社の一連のライフサイクルを経験することに意味があると感じました。そのためM&Aで売却するということは、個人的には自然的な流れだったと考えています。
「ドロサツ!!」HP:https://www.drosatsu.jp/
M&Aに取り組むうえでの苦悩
――M&Aに取り組むうえで悩まれたことをお聞かせ下さい。
M&Aに関する情報(案件情報)は経営に大きく関わるので、あまりオープンにできない情報であり、そのためM&A取引に関する情報も少ないという状況でした。特に買い手は慣れているものの売り手は慣れていないケースが多く、売り手にとって特に不利なマーケットであると感じました。
例えば、「M&AではDD(デューデリジェンス)を行ないます。」等、M&Aに関する表層的な情報はネットから得ることができましたが、では具体的に「DDが一体何で、何をすれば良いのか?」「契約締結をどうやるのか?」「事業の評価ってどうするのか?」というような、具体的なHow(手順・方法)になった際に全く情報が無く、さらに誰に相談すれば良いかも分からず、そもそも仲介会社の概念も知らず、M&Aプロセス自体を把握することに悩みました。
情報の非対称性が大きいため、仲介会社の価値は高いと感じました。今回クラリスキャピタルさんに仲介の成約までお手伝い頂きましたが、複数の仲介会社にアポイントをとり、業界の相場を教えて頂いたりし、仲介会社の存在はとても有意義でした。
――コロナウイルスによって、M&Aの取り組みにも影響はありましたか?
コロナウイルスの影響を受けて、一度取り組みをストップしている時期がありました。なぜ、一度M&Aの活動を止めたかというと、事業の蓋然性が不透明だったことにあります。いつまでこのような事態が続くのか、そして事業にどのくらいコロナウイルスの影響を受けるのかが分かりませんでした。
そんな状況下でM&Aを進めデューデリジェンスをしたとしても、会社や事業の説明を明確することができず、ブレークするリスクが高いと考え、一度取り組みを中断しました。
――その一方で、コロナウイルスのおかげで良かったこともあります。
個人の消費活動が止まってしまい、売上も一時期落ち込んでしまいましたが、産業用ドローン市場の受注は止まっていなかった為、同タイミングで産業用ドローンへの事業投資を一気に加速しました。結果、コロナ禍においても産業用ドローン事業が大きく成長し、産業全体の力強さを確認できました。
コロナ禍では、成長するビジネスとそうでないビジネスが分かれており、成長性のある分野を育て、逆に“個人用ドローン”への投資は抑えました。個人用ドローンは、産業用よりも短期的に売り上げが立ちやすく、実際に注文を頂くこともありましたが、機材を持ちすぎてしまうと、再度コロナウイルスの影響で個人の活動が収まってしまった際に不良在庫となってしまう恐れがありました。
産業用ドローンへの投資を強化したことで、結果として、中長期的な事業展開を示すことができ、事業売却するうえでの評価にも繋がりました。
コロナウイルスの影響を受ける前は企業概要書の中で、「産業用ドローンへの進出を提言し、かつ、そのためには多額の投資が必要」という説明をしていましたが、コロナウイルスの影響を受け、逆にコロナ融資を受けることができて、実際に自身の手で産業用ドローンに投資することができました。買い手様にとっても、実際に産業用ドローンの成長を実績数値として見せることができたのがM&Aにおいてプラスに働いたと感じています。
将来への不確実性をどれだけ説明できるかがデューデリジェンスで大切だと改めて感じました。
クラリスキャピタル様のご支援内容
――数あるM&A仲介会社の中からクラリスキャピタル様を選ばれた理由はございますか?
※米倉様はクラリスキャピタル様にのみ依頼されていたわけではなく、複数のM&A仲介会社に依頼されていました。
私自身がリクルート社で「不動産仲介」の事業に従事していたこともあり、M&A仲介も不動産仲介の仕組みと構造的に似ていると推測していました。仲介会社に買い手案件を探してきてもらうという流れを考えると、M&A仲介会社を1社に絞ることはリスクであると考えていました。
事業の性質やスタートアップでまだ成長途中でもありましたので「この業界はこのM&A仲介会社に頼むべきだ。」といったセオリーが無いと思いました。仮に成熟した業界でM&Aを考えていたら、その業界を得意とするM&A仲介会社に専属専任で1社に絞っていたかもしれません。
”ドローン”という新規分野において、買い手情報を幅広く探すことが重要だったので、複数のM&A仲介会社に依頼していました。
――フラットな意見でアドバイスをくれる牧野様(クラリスキャピタル)の人間性
依頼していた複数の仲介会社の中でも、特に牧野様はとてもフラットで、思っていることを素直に仰って頂ける方でした。多少営業的観点があるとは思いますが、一つの方向に誘導するのではなく、フラットなアドバイスをしてくれて、良くも悪くもガツガツしていない印象でした。
営業スタイルで言うと、プッシュ型よりもプル型、いわゆる自らどんどん売り込んでいくスタイルよりは、要望に対して最適な解を考える方、良いご縁を引き合わせます、というような事が、お得意でお上手ではないかと感じました。その為牧野様へは、プラットフォームへの掲載等について、独占的にお任せすることにしました。
コロナウイルスの影響でM&Aの取り組みを一時止めておりましたが、再開後スムーズに事が運んだ理由も、牧野様が活動を再開する以前より溝口様(買い手様)へドロサツをご紹介頂いていたことであり、牧野様が「譲受側の両者を引き合わせて、ご縁を繋いでいく」ことに長けていたからだと感じています。
M&A成約後、そしてこれからM&Aを考えていらっしゃる経営者へ
――M&Aが無事成約できた時の感想をお聞かせ下さい。
今回は、譲渡後も私が一部株を保有したままにするというスキームでM&Aを成立させる事ができました。まだ引き継ぎをしている最中ではありますが、本当に良い方に譲渡できてよかったと感じています。溝口様に譲渡しようと思った決め手は、資金力があったことはもちろんですが、従業員との相性も良いだろうと感じたからです。また10年以上に渡って経営されていたことから、経営についても心配していませんでした。
ただ分かってはいたのですが、調印式を終えたとき、娘を送り出す父のような、どこか複雑で寂しい思いはありました。実際、会社設立の目的や自分のキャリアなどを総合的に考えるとM&Aで退く事は既定路線だったと思いますが、愛情を持って育ててきたこともあり複雑な思いです。
――これほどの信頼関係を築けたきっかけ。
今回の売却では、株式の一部を保持したまま溝口様へ譲渡するというスキームでM&Aを行ないました。わずかながらですがドロサツの株主であるということも大きな要員です。
実は、はじめは個人の方にお譲りすることに抵抗がありました。本来は体力のある大手企業に引き継いでもらうほうが更なる成長ができると考えていました。しかし、私が一部株を保有したままでも良いということを溝口様にご了承頂けたことで、新しいM&Aの形として、私も見守りながら成長をお任せできるということが最終の決め手となり、お譲りする決心がつきました。
M&Aにおける売り主と買い主はどうしても対立構造になりがちですが、一緒に事業成長していこうという助け合えるスタンスになれたので、このスキームを採択して良かったと感じています。
――これからM&Aを考えられている方へのメッセージをお願い致します。
ここ1年でM&Aのための情報収集は格段にしやすくなってきたと思います。スタートアップでM&A関連の会社が増えており、M&Aのハードルが下がってきたと考えています。情報収集と相談を繰り返していけば、M&Aをすること自体、難易度は高くないと思います。
後は、相談の方法を工夫し、また複数の人(仲介会社)に相談するのが良いと思います。一人の意見しか聞かないと、なぜこういう話をしているのだろうと疑問に感じる事も、複数の人に質問することで、話す人がどの軸から話を進めているのかを理解することができます。私の場合は3人くらいと会って話をすることでM&Aに関する大枠を捉えることができました。
また、私自身もM&Aという手法は非常に有意義な手段だと感じましたので、これからM&Aでの売却を考えている方がいらっしゃれば、何かしらの協力・情報提供ができればと考えています。
――今後の米倉様の取り組みをお聞かせください。
ドロサツの創業からM&Aまでを通して、自分の中で会社のライフサイクルにまつわる一連のパッケージを作れたと感じています。ドロサツは、当初よりデッドファイナンス(銀行借入)をして事業を成長させ、M&AによってEXITするという戦略でしたが、次の会社ではエクイティにより資金調達し、IPOにてEXITする事業に取り組みたいと考えています。
具体的には、x R(LIDAR)領域のスタートアップです。ドロサツではドローンレンタルというコアサービスで事業成長させましたが、次はコアテクノロジーを構築し、IPOを目指したいと今は考えています。
※米倉様が持たれている花束は、溝口様と奥様で米倉様をイメージして、お店にお伝えしお作りされたとのことです。(2-3回お店に通われて相談されたそうです。)おふたりの素晴らしい関係性が垣間見える一枚です。
売り手:米倉 暁 氏(写真左)
ドローンレンタルNo1ドロサツの運営等、ドローン関連事業を手掛けるスタートアップのfounder/元CEO。リクルート時代に副業で立ち上げ、2年半でexit。
現在はシリアルアントレプレナーとしてxR*Adtechスタートアップを立ち上げfounder/CEOとしてIPO目指す。
買い手:溝口 実 氏(写真右)
27歳の時(2005年)に金融系システムの会社を創業。約15年間の経営を経て、会社の未来を考えて売却を決意。
現在は株式会社drone supply & controlをM&Aにて譲受し、代表に就任。
株式会社クラリスキャピタル 代表取締役 / 牧野 安与(Ayo Makino)氏
2000年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。
意匠建築設計事務所やコンサルティング会社を経て、かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社にて約8年M&Aアドバイザリー業務に携わる。
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社時代に共著『M&Aによる事業再生の実務』中央経済社
M&A成約案件実績一覧
https://clarisc.co.jp/performance/
M&Aランキング入り等の実績
https://clarisc.co.jp/ranking/