地元に根付いた企業の事業承継について、次の世代に確実に引き継いでいくための取り組みの発端と経緯、そして弁護士としての法的な視点からサポートしてこられた様子などをお伺いしました。
執筆者:桐谷晃世

西田幸広先生とこの街の事業承継の経緯についてご教示ください

はじめまして、西田幸広と申します。

弁護士として25年の間、企業の皆さんから様々な相談を受けてきました。

売上の伸び悩みや人材確保、設備投資の問題など、目の前の経営課題には真剣に取り組んでおられます。

事業承継の話ですが、実は目の前の経営課題に比べると、緊急性がないため、なかなか手が付けられないケースが多いんですよね。後回しにされがちなのが実情です。

しかし、先送りにしていては、創業者の想いや技術、ノウハウを次の世代へ確実に伝えていくことができません。

地域経済が活性化するには、地元に根付いた企業が元気でないと。

そこで私は、地元企業の皆さんに寄り添い、法的な観点から事業承継をサポートすべく、「この街の事業承継」という事業を立ち上げました。

М&A仲介や承継支援の事業を始めたきっかけを教えてください

そうですね。 きっかけは、『もっと事前に手を打っておけば、こんなトラブルには発展しなかったのに』と、後悔することが度々ありました。

たとえば、遺言書を残しておけば、親族間の相続争いは回避できたであろう、そういったケースです。

『問題が発生する前に対処すること』これが何より重要である、と。

予防法務に注力すべきだ、と考えるようになりました。

そして、いわば『会社の相続』と言えるでしょう、親族間の事業承継のお手伝いから始めさせていただきました。

ところが実態としては、後継者がいない会社も多く、そういった場合には第三者への事業承継、つまりM&Aを行う必要があるのです。

特に地方においては、後継者不在が深刻な問題となっており、M&Aの重要性がより高くなっていますので。

現在では、M&A支援と事業承継支援、両面でサポートさせていただいております。

地域の方からはどのような相談が多いですか 

相談を受けるのは、圧倒的に『会社を買いたい』という買い手側からが多いです。

一方で、「後継者がいない」と悩んでおられる経営者の方からの相談も受けています。

士業の先生方や事業承継引継ぎ支援センターとも連携を取っているので、廃業を選ぶ前の段階からでも経営者の皆様と対話できる機会は増えてきました。

 事業承継を行うメリット、デメリット、税の扱い、法的な事など。 

できる限り早期に計画を立てる大切さをお伝えしているところです。

 しかし、具体的に検討し始めると『まだまだ現役でいけるから・・』と、なかなか前 に進められないこともあります。

 会社の将来は経営者の方にとって人生そのものですからね。 

ものすごく大きな問題ですよね。 だから悩むのは当たり前です。

 ゆっくりと時間をかけて、しっかり向き合わないといけませんからね。

事業承継や M&A への社会的理解はまだまだ広がりきれていないのが現状です。

私自身も試行錯誤を重ねながら、啓発活動を着実に続けていきたいと考えています。

熊本県八代市(やつしろし)の魅力をご教示いただきたいです

八代市というか、これは田舎全体の話になってしまいますが、同郷のネットワークの強さは魅力的ですね。

同じ出身というだけで受け入れてくれて、深い話もできる。

もちろんそれはよそから来た人は入りづらいところがあるかもしれないので、表裏一体ではあるのですが。

でもそれって、ひっくり返せば地元への深い愛着と誇りの表れなんですよね。

そういう意味で、特に事業承継でも地元の方に会社を引き継いでいただけると嬉しさはひとしおですね。

地元を思う気持ちから、大切に受け継いでくれる、これほど嬉しいことはありません。

一方で東京の会社に買収していただくケースも大切だと思うんですよ。

地域の良さは残しつつ、常に新しいものを取り入れ続けることも不可欠です。

そうしないと持続可能な地域社会は作れないとも思うので。

私は特に地元にこだわるつもりはありません。

でも、地域の魅力を後世に伝えていくためにも、会社を守りながら進化させてくれる、地元を想う気持ちのある方に引き継いでいただきたいですね。

「この街の事業承継の応援隊」について教えていただきたいです

 「この街の事業承継」ホームページでコメントをいただいた方々ですね。

 僕が事業承継支援をやるという話は方々でしているので、その必要性に共感してくださった方々、税理士さんであったり商工会議所の方であったり、と後継者問題の解決に協力していただき、コメントを載せさせていただいたということになっております。

会社の強みをご教示いただきたいです

強みとしては、やはり僕が弁護士であるということ、税理士や社労士といったいわゆる士業の方々とネットワークを持っているので、広い範囲で専門知識を提供できるということがあると思います。

ただし実際にお客様と向き合っていると、そうした知識以上に弁護士という肩書きの安心感を買われている部分もあると感じます。

なので私が考えている自分たちの強みと、お客様からの評価はなにか食い違っているかもしれませんね。

地域の味や文化、ノウハウを継承していくためにどのような事業承継の支援が必要だとお考えですか

 やはり、「事業承継やМ&Aの成功とはなにか」を見失わないことではないかと思います。

 事業を引き継いだ後に、引き継ぐ前の状態よりも良くなっている、というのが成功の条件であるはずなんですよ。ただくっつけて利益を得られればいい、では意味がない。

現段階ではリソース的に難しいですが、いわゆるPMI、承継したあとの統合まで丁寧にアフターケアを行えるのが理想ですよね。

 ですから必要な情報を隠したりしないで、社長同士で腹を割って話していただいて、従業員の方々にも仲介として説明すべきことを、責任を持って丁寧に説明する。

そうした誠意ある支援が何よりも重要だと考えています。

今後の展望をご教示ください

後継者不足に悩む社長の皆さまとの信頼関係を築くこと、です。

心を開いていただければ、きっと様々な選択肢をご提案できると思うんですよね。

一度ご縁があった方とのつながりは、これからも大切にしていきたいです。

いつかふとした時に、私のことを思い出して相談してくださったらいいな、と。

経営者の方々のすぐ近くにいて、心から納得のいく決断をサポートできたらと思います。

後悔のない選択は難しいかもしれません。

でも、悩んで悩んで決めたことであってほしいんですよね。

僕自身が知らなかったから、と後悔する方を見るのは嫌なんです。

だって、事業承継って、知らなかったでは済まされない、そんな重要な決断ですからね。

だからこそ、経営者の皆さまに寄り添って、尽力していきたいと考えています。 

事業承継ラボの読者(アトツギや現経営者)にメッセージをお願いいたします。

何よりもまず、困ったことがあれば専門家に相談していただきたいです。

専門家は様々な事例を知っているので、一人一人に寄り添った回答ができます。

実は、ある社長さんから直接お話を伺ったことがあって、その方は事業を売却されたのですが、新しい社長が来たことで居場所がなくなってしまったそうです。

結局、売らなければよかった、と。

もちろん、事業を存続させるためには、誰かに引き継ぐ必要があります。

しかし、売却するにしても、相談していただければしばらくは相談役として残るとか、そういう交渉も可能になりますから。

事業承継の決断は、利益だけでなく、会社に関わる一人一人の人生を良い方向に導くものであるべきです。

だからこそ、必ず誠意ある専門家に相談していただきたいですね。