超高齢社会の煽りを受け、事業承継やM&Aによって企業の経営を後継者に譲る方も増えてきました。事業承継に興味を持っている方も多く、相続税や贈与税の面でも様々な優遇処置が取られ始めています。注目を集めている事業承継ですが、後継者へ経営を譲ることでどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。この記事では、事業承継によって生まれるメリットやデメリットに加えて、事業承継時に気をつけるべきポイントについても紹介しています。これから事業承継に取り組もうと考えている方はぜひ参考にしてみてください。

 

事業承継が注目されている背景

まず、事業承継・M&Aが注目されているのでしょうか。その背景には、以下3つにまとめられるように、日本経済の現状や超高齢化社会の影響があります。

 

1.日本の後継者不足が深刻化している

2.日本で休廃業している企業の50%が黒字経営

3.事業承継は技術を後世へ受け継ぐ手法

 

これらに関する詳細は、別稿「事業承継とM&Aが注目されている背景やメリット・デメリットを紹介」の第二章「なぜいま事業承継やM&Aが注目されているのか」をお読みください。

 

事業承継の種類

事業承継には大きく分けて3つの種類があり、それぞれに手順があります。

 

親族内承継:自分の子供や親族に事業の引き継ぎ。

親族外承継:幹部や役員など親族ではない社員に事業の引き継ぎ。

M&A:外部の人や企業に会社を引き渡す。

 

また、これらの他に、「廃業(精算)」という選択肢も考えられます。ただ、この場合、廃業(精算)の準備や後処理に相当なの時間と工数を割く必要があります。また、金銭面での問題も出てきますので、現実的には、なかなかに厳しい、取りづらい選択肢といえます。

「廃業(精算)」という選択肢と選ぶべきではない理由

 

休廃業・解散件数・倒産件数の推移

引用元:事業承継ラボ別稿「事業承継とは?日本にたった500人しかいない事業承継士が答えます

 

実際に、中小企業庁が発表しているデータによると、2004年を境に、清算などによる休廃業・解散が倒産の件数を超えています。また、2008年以降からは、廃業や解散などで事業を清算する傾向が増加してきているといいます。廃業などで事業を清算した件数は、2016年には3万件を近くに達しています

 

後継者がどうしても見つからない、経営者の時間や体力に限界がある、事業売却の資金がないなどの理由により選択することは致し方ありませんが、最後の手段として推奨しています。それは金銭面と社会意義面で大きくデメリットがあるためです。経済的に余裕の場合はそれに限ることではありませんが、事業譲渡や売却と大きく異なってくるのが手取り額の差です。また、社会意義を背負っている企業という存在をなくすことで意義を果たせなくなります。

 

1.金銭面

 -1. 課税制度の違い

 -2. 時価評価額の違い

 -3.キャッシュフローの違い

2.社会意義面

 -1. 従業員の解雇

 -2. 取引先などの関係各社との関係終焉

 

ーー◯1-1. 課税制度の違い

事業売却の場合は分離課税の株式譲渡益課税の1回で済むものが、会社清算の場合は資産の含み益などに対する法人課税と、その後の配当所得に対する個人課税の2回の課税が行われます。単純に税率だけを比べても事業売却の方が税率が低くなります。

 

ーー◯1-2. 時価評価額の違い

廃業(精算)の場合には、営業権(のれん)という会社の価値を上げてくれる要素を廃業時に使うことができません。そのため、会社の価値を低く計算された状態で廃業することになります。会社がなくなるという前提があるため、会社の持つ資産に対する時価評価額も低く計算される傾向にあります。

 

ーー◯1-3.キャッシュフローの違い

事業売却の場合は、まず株式譲渡代金が「入金」されてからキャッシュフローが動き出しますが、会社清算の場合は「出金」が先行する形です。すべての清算が完了して、初めて自分の手元に「入金」があるため、手持ちの現金に余裕がなければ、そもそも廃業(精算)手続きすらできないというケースも起こり得るのです。

 

ーー◯2-1. 従業員の解雇

何よりも考えなければならないのが、従業員の解雇です。従業員とまたその家族の生活まで背負うという社会意義を持っているといっても過言ではない経営者にはとって、従業員を解雇するということは重大な決断です。取引先など関係各社に引き取ってもらえる従業員もいますが、中には再就職先がなかなか決まらない従業員も存在します。こうした従業員の生活を破綻させる可能性も大いに考えられるのです。

 

ーー◯2-2. 取引先などの関係各社との関係終焉

今まで築き上げた関係各社また各所との関係性も終了を迎えてしまいます。中には私的に付き合いが残る人もいるかもしれませんが、基本的には企業として構築してきた取引先との関係性などは終わり、また地域社会との関係性も希薄になります。

 

廃業には数々のデメリットがあります。では事業承継をする場合にはどういったメリット・デメリットがあるのでしょうか。次項にて説明していきます。

 

事業承継のメリット・デメリット

では、事業承継やM&Aで経営権が後継者に移譲されると、そもそもどのような変化が生じるのでしょうか。社内に生じる変化を詳しく読み解いていきましょう。

 

1.経営者の世代交代

2.社内体制の変化

3.新規事業の創出

 

ーー◯1.経営者の世代交代

事業承継によって起こる最も大きな変化は経営者の世代交代です。内閣府の「平成29年度高齢社会白書」によると、中小企業の経営者の平均年齢は59.5歳とされており、過去最高の年齢を更新しました。事業承継によって新たな経営者が事業を受け継ぐことで、経営者の世代交代が果たされます。これまでになかった革新的なアイデアを生み出したり、新規事業を立ち上げたりといった変革を期待できるでしょう。

 

ーー◯2.社内体制の変化

事業承継によって経営者が代替わりすることで、企業内の体制を改革することもできるでしょう。例えばこれまでBtoCの営業といえば架電や外回りなどの方法が主流でしたが、IT化を迎えてからはインサイドセールスと呼ばれる方法が主流になっており、従来の営業方法に比べて効果が高いことが分かっています。Webサイトを制作してメディアを立ち上げることでWebからの集客を行ったり、SNS運用を通してユーザーの目に止まるようにしたりといった「社内でできる営業方法」によって結果を出す企業が増えているのです。このように、事業承継に取り組むことで時代に即した営業方法を採用したり、新規事業を立ち上げたりといった良い変化を起こせます。

 

ーー◯3.新規事業の創出

事業承継後に新規事業を立ち上げるケースも多く、新規事業の立ち上げは事業承継によって起こる変化のひとつと言えるでしょう。さらに、新規事業を立ち上げることで新たな雇用が創出されたり、業績が改善されたりといった好影響が期待でき、企業のさらなる発展にもつながります。こうした変化を踏まえて、事業承継のメリットやデメリットを詳しくみていきましょう。

 

事業承継を行うメリットを紹介

事業承継に取り組むことで様々な変化が生じますが、こうした変化によって企業にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。まずは、事業承継によって得られるメリットを紹介します。

 

1.事業承継によって業績が回復する

2.地域や社会に対して好影響を与える

 

ーー◯1.事業承継によって業績が回復する

事業承継を考え始めるタイミングは人それぞれですが、一般的に経営者の引退年齢は引き上げられており、高齢の経営者が増加していることが危惧されているのです。中小企業白書によると、平均引退年齢は中規模事業者の場合で67.7歳、個人事業者の場合は70.5歳とされており、日本の平均寿命が伸びたことや後継者不足が原因となり引退できない経営者も存在すると見られています。また、経営者が高齢になるほど経常利益が減少傾向にあることも分かっており、若い経営者にバトンを譲ることで業績が回復する事例も数多く報告されているのです。日本政策金融公庫のデータによると、事業承継後に経営革新に取り組んだ企業のうち、小企業では4割以上、中企業では5割以上が「業績が改善された」と報告しています。

参考:村上義昭・古泉宏「事業承継を契機とした小企業の経営革新」『日本政策金融公庫論集 』第8号,2010年

 

これらのデータに加えて、野村総合研究所が行った事業継承のタイミングに関する調査からも事業継承の必要性を感じさせられます。

中小企業庁発表の「中小企業白書2013」によると、

「ちょうど良い時期だった」と回答する割合が最も高い年齢層は、40~49歳である。

と報告されており、平均すると43.7歳が最適な事業承継のタイミングだと考えられます。若い後継者に経営を任せることで、時代の流れを読んだ適切な舵取りやマネジメントを実現できるでしょう。

その結果として企業のアップデートにつながり、マーケットが広がったり、さらなる発展が見込めたりといったメリットが生まれるのです。

 

ーー◯2.地域や社会に対して好影響を与える

事業継承によって新しい経営者が誕生することで、地域や社会にとって好ましい影響を与えられることも分かっています。また、「中小企業白書2013」によると、

中規模企業の約3分の2、小規模事業者の5割強が、経営者の世代交代によって、地域や社会に良い影響があったと考えている

と報告されており、具体的には「やりがいのある就業機会の提供」や「地域のコミュニティづくりや伝統文化の継承」という回答が得られました。事業継承によって先進的な風を吹き込むことで老若男女にとってやりがいのある就業機会をつくりつつ、伝統文化を継承する担い手としての立場も確保できるのです。事業承継に取り組むことで、地域社会や国家にとってプラスの影響を与えられるだけでなく、自社にとっても様々なメリットが生まれます。

 

事業承継によって生じるデメリットを紹介

事業承継によって様々なメリットが得られるのは事実ですが、反対にデメリットも存在します。デメリットを理解して適切なリスクコントロールを行えば事業承継後の経営を安定させやすくなるので、ぜひ参考にしてみてください。

 

1.相続税や贈与税の支払いが生じる可能性がある

2.親族内に事業承継できる人物がいない可能性もある

3.事業承継を成功させる際に踏む手順が多い 

 

ーー◯1.相続税や贈与税の支払いが生じる可能性がある

事業承継のデメリットとしてまず考えられるのは相続税や贈与税といった税金の支払いでしょう。事業承継によって経営権を移譲するには、代表取締役としての立場だけでなく経営者が保有している株式の譲渡が条件になります。中小企業の株式については、経営者がその多くを保有しているケースも少なくないため、立場だけでなく実質的な経営権もあわせて譲り渡すことになるでしょう。しかし、株式を譲渡する際には相続税や贈与税を納めなければならないため、株価が高い中小企業を承継する場合は高額な税金を納税しなければなりません。事業承継によって生じる税金を節税する方法はいくつかあります。また、特定の条件を満たしたときに相続税や贈与税が非課税になる「事業承継税制」についても紹介しているので、詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてみてください。また、相続によって事業承継を行う場合は、後継者以外の他の相続人に残された遺留分がスムーズな事業承継を阻害する可能性もあります。あらかじめ相続や贈与について知識を得ておくことで、こうしたデメリットを軽減できるでしょう

 

ーー◯2.親族内に事業承継できる人物がいない可能性もある

事業承継の多くは親族内承継によるもので、経営者の親族から後継者が選ばれるケースが散見されます。しかし、親族内に十分なノウハウや知識を有した人材がいないことも考えられるでしょう。実際に、親子内承継の件数は減少傾向にあり、多くの中小企業では親族内で後継者を見つけるのが難しくなっています。

 

「親の事業を承継する意思があるかどうか」を尋ねたニッセイ基礎研究所のアンケート調査19の結果でも、

「承継者は決まっておらず、自分は承継するつもりはない」との回答が、半数近くにも及んでいる。

との報告に加えて、承継しない理由については、

「親の事業に将来性・魅力がないから」という回答の割合が 45.8%と最も高く、次いで「自分には経営していく能力・資質がないから」(36.0%)、「今の仕事・企業等が好きだから」(16.9%)

という回答が得られています。親子や親族内で事業承継が進まない場合は社外の信頼できる人物を探して事業承継を進めることになりますが、その場合はM&Aが有効な手段の一つです。既存の企業に自社を吸収・合併してもらうことで、ノウハウや雇用、伝統技術を守ることができるでしょう。しかし、M&Aではなく事業承継にこだわる場合は事業承継を専門に扱う企業やサイトに依頼することでスムーズに手続きを進められます。後継者を見つけることも含めて、事業承継を進める際には様々な手順を踏まなければなりません。

 

ーー◯3.事業承継を成功させる際に踏む手順が多い

事業承継自体は株式を移譲することで完了しますが、実際には他にも様々な手順を踏まなければなりません。ここでは割愛しますが、事業承継の手順を詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてみてください。事業承継をスムーズに進めるには、後継者候補を探すだけでなく、経営を問題なく行うために様々な経験や知識を身につけてもらう必要があります。また、他の社員や役員にも納得してもらうために社内の関係性をもう一度見直したり後継者に十分な実績を提示してもらわなければなりません。こうした手順を怠ると、事業継承後に内部分裂を起こしたり、リーダーシップが足りず思い通りの経営が実現しなかったりといったデメリットが生じてしまうでしょう。日本政策金融公庫論集によると、事業承継後に経営革新を打ち出した中小企業は9割近くにも上りますが、そのうち3〜4割が「業績が悪化した」と回答しています。反対に「業績が改善した」と回答した企業も多く存在しますが、これには入念な準備と着実なステップの有無が起因していると考えられるでしょう。事業承継が企業に与える影響は非常に大きなものです。そのため、事業承継後の経営まで見通して適切に手順を踏まなければ、今後の経営が不安定なものになり、最悪の場合は倒産や休廃業に追い込まれてしまうでしょう。こうした事態を防ぐためにも、事業承継に関するノウハウを有した専門家や企業に依頼することが大切です。

 

事業承継パターン別のメリット・デメリット

事業承継は、前述どおり以下3パターンがあります。

 

親族内承継:自分の子供や親族に事業の引き継ぎ。

親族外承継:幹部や役員など親族ではない社員に事業の引き継ぎ。

M&A:外部の人や企業に会社を引き渡す。

 

これらパターン別による、メリットやデメリットを整理した内容を、別稿「事業承継の3つの方法ーメリットデメリットで比較」にまとめておりますので、そちらをご参考になさってください。

 

事業承継で企業をさらに発展させる

 

事業承継によって企業には様々なメリットやデメリットが生まれます。それらを正しく理解することで、メリットを最大化しつつデメリットを抑えられるでしょう。事業承継は税制優遇などをみても分かる通り、日本が直面している少子高齢化対策としても有効な手段ですが、まだまだ事例は少なく、自社内だけで完遂しようとすると様々な弊害が生じてしまう可能性があります。親族内承継で生じる問題やM&Aの注意点などを理解している企業へ依頼すれば効果的な事業承継が実現できるので、事業承継を考えている方はぜひ一度ご相談ください。