事業承継に興味を持っている方も多く、相続税や贈与税の面でも様々な優遇処置が取られ始めています。
注目を集めている事業承継ですが、後継者へ経営を譲ることでどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
この記事では、事業承継によって生まれるメリットやデメリットに加えて、事業承継時に気をつけるべきポイントについても紹介しています。
15分程度で読み終わるので、これから事業承継に取り組もうと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
事業承継によって何が変わるのか?
事業承継によって経営権が後継者に移譲されると、どのような変化が生じるのでしょうか。
社内に生じる変化を詳しく読み解いていきましょう。
経営者の世代交代
事業承継によって起こる最も大きな変化は経営者の世代交代です。
帝国データバンクの全国社長年齢分析(2019年)によると、中小企業の経営者の平均年齢は59.7歳とされており、過去最高の年齢を更新しました。
事業承継によって新たな経営者が事業を受け継ぐことで、経営者の高齢化を防ぎ、経営権を新たな世代へ交代できます。
これまでになかった革新的なアイデアを生み出したり、新規事業を立ち上げたりといった変革が期待できますし、時流に乗った経営が可能になればさらなる売上増加も見込めるでしょう。
社内体制の変化
事業承継によって経営者が代替わりすることで、企業内の体制を改革することもできるでしょう。
例えばこれまでBtoCの営業といえば架電や外回りなどの方法が主流でしたが、IT化を迎えてからはインサイドセールスと呼ばれる方法が主流になっており、従来の営業方法に比べて効果が高いことが分かっています。
Webサイトを制作してメディアを立ち上げることでWebからの集客を行ったり、SNS運用を通してユーザーの目に止まるようにしたりといった「社内でできる営業方法」によって結果を出す企業が増えているのです。
事業承継によって時代に即した経営方法を導入できれば、業務の効率化を通して企業全体の改善が見込めます。
新規事業の創出
事業承継後に経営革新に踏み切る企業は数多く存在しますが、新規事業の立ち上げはその一環と言えます。
事業承継によって起こる良い変化のひとつでしょう。
さらに、新規事業を立ち上げることで新たな雇用が創出されたり、業績が改善されたりといった好影響が期待でき、企業のさらなる発展にもつながります。
こうした変化を踏まえて、事業承継のメリットやデメリットを詳しくみていきましょう。
事業承継を行うメリットを紹介します
事業承継に取り組むことで様々な変化が生じますが、こうした変化によって企業にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
まずは、事業承継によって得られるメリットを紹介します。
事業承継によって業績が回復する
事業承継を考え始めるタイミングは人それぞれですが、一般的に経営者の引退年齢は引き上げられており、高齢の経営者が増加していることが危惧されているのです。
中小企業白書によると、平均引退年齢は中規模事業者の場合で67.7歳、個人事業者の場合は70.5歳とされており、日本の平均寿命が伸びたことや後継者不足が原因となり引退できない経営者も存在すると見られています。
また、経営者が高齢になるほど経常利益が減少傾向にあることも分かっており、若い経営者にバトンを譲ることで業績が回復する事例も数多く報告されているのです。
日本政策金融公庫によると、事業承継後に経営革新に取り組んだ企業のうち、小企業では4割以上、中企業では5割以上が業績が改善したと報告しています。
これらのデータに加えて、野村総合研究所が行った事業継承のタイミングに関する調査も、事業継承の必要性を感じさせるものでした。
引用:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H25/PDF/0DHakusyo_part2_chap1_web.pdf
また、事業承継に踏み切る最適なタイミングについては、先代経営者が43.7歳を迎えたタイミングで事業承継を行うのが最適であるとの見方が記されており、中小企業の高齢化が示唆されています。
若い後継者に経営を任せることで、時代の流れを読んだ適切な舵取りやマネジメントを実現できるでしょう。
その結果として企業のアップデートにつながり、マーケットが広がったり、さらなる発展が見込めたりといったメリットが生まれるのです。
地域や社会に対して好影響を与える
事業継承によって新しい経営者が誕生することで、地域や社会にとって好ましい影響を与えられることも分かっています。
中小企業庁の発表では、
引用:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H25/PDF/0DHakusyo_part2_chap1_web.pdf
と報告されており、具体的には「やりがいのある就業機会の提供」や「地域のコミュニティづくりや伝統文化の継承」を通じて、社会に好影響を与えることが期待されています。
事業継承によって先進的な風を吹き込むことで老若男女にとってやりがいのある就業機会をつくりつつ、伝統文化を継承する担い手としての立場も確保できるのです。
事業承継によって生じるデメリットを紹介
事業承継によって様々なメリットが得られるのは事実ですが、反対にデメリットも存在します。
デメリットを理解して適切なリスクコントロールを行えば、事業承継後の経営を安定させやすくなるので、ぜひ参考にしてみてください。
相続税や贈与税の支払いが生じる可能性がある
事業承継のデメリットとしてまず考えられるのは相続税や贈与税といった税金の支払いでしょう。
事業承継によって経営権を移譲するには、代表取締役としての立場だけでなく経営者が保有している株式の譲渡が条件になります。
中小企業の株式については、経営者が自社株式の多くを保有しているケースも少なくありません。
立場だけでなく実質的な経営権もあわせて譲り渡すことになるでしょう。
しかし、株式を譲渡する際には相続税や贈与税を納めなければならないため、株価が高い中小企業を承継する場合は高額な税金を納税しなければなりません。
事業承継によって生じる税金を節税する方法はいくつかあります。
また、特定の条件を満たしたときに相続税や贈与税が非課税になる「事業承継税制」についても紹介しているので、詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてみてください。
また、相続によって事業承継を行う場合は、後継者以外の他の相続人に残された遺留分がスムーズな事業承継を阻害する可能性もあります。
あらかじめ相続や贈与について知識を得ておくことで、こうしたデメリットを軽減できるでしょう。
親族内に事業承継できる人物がいない可能性もある
事業承継の多くは親族内承継によるもので、経営者の親族から後継者が選ばれるケースが散見されます。
しかし、親族内に十分なノウハウや知識を有した人材がいないことも考えられるでしょう。
実際に、中小企業白書によると親子内承継の件数は減少傾向にあり、多くの中小企業では親族内で後継者を見つけるのが難しくなっていると報告されています。
との報告に加えて、承継しない理由については、
という回答も。
親子や親族内で事業承継が進まない場合は社外の信頼できる人物を探して親族外承継を進めることになりますが、その場合はM&Aが有効な手段です。
既存の企業に自社を吸収・合併してもらうことで、ノウハウや雇用、伝統技術を守ることができるでしょう。
しかし、M&Aではなく事業承継にこだわる場合は事業承継を専門に扱う企業やサイトに依頼することでスムーズに手続きを進められます。
後継者を見つけることも含めて、事業承継を進める際には様々な手順を踏まなければなりません。
事業承継を成功させる際に踏む手順が多い
事業承継自体は株式を移譲することで完了しますが、実際には他にも様々な手順を踏まなければなりません。
事業承継をスムーズに進めるには、後継者を探すだけではなく教育も行う必要があります。
事業を引き継いだあとに後継者が問題なく経営を行うために、様々な経験や知識を身につけてもらう必要があります。
また、他の社員や役員にも納得してもらうために社内の関係性をもう一度見直す必要があるでしょう。
さらに、社内の反発を防ぐためには、後継者に十分な実績を提示してもらわなければなりません。
こうした手順を怠ると、事業継承後に内部分裂を起こしたり、リーダーシップが足りずに思い通りの経営が実現しなかったりといったデメリットが生じてしまうでしょう。
日本政策金融公庫論集によると、事業承継後に経営革新を打ち出した中小企業は9割近くにも上りますが、そのうち3〜4割が「業績が悪化した」と回答しています。
反対に「業績が改善した」と回答した企業も多く存在しますが、これには入念な準備と着実なステップの有無が起因していると考えられるでしょう。
そのため、事業承継後の経営まで見通して適切に手順を踏まなければ、今後の経営が不安定なものになり、最悪の場合は倒産や休廃業に追い込まれてしまうでしょう。
こうした事態を防ぐためにも、事業承継に関するノウハウを有した専門家や企業に依頼することが大切です。
事業承継は企業をさらに発展させる手段のひとつ
事業承継によって企業には様々なメリットやデメリットが生まれます。
それらを正しく理解することで、メリットを最大化しつつデメリットを抑えられるでしょう。
事業承継は税制優遇などをみても分かる通り、日本が直面している少子高齢化対策としても有効な手段です。
しかし、まだ事業承継に取り組んだ事例は少なく、自社内だけで完遂しようとすると様々な弊害が生じてしまう可能性があります。
まずは事業承継に関する情報を集めることから始めると、スムーズに事業承継をすすめられるでしょう。