この記事では、中小企業や小規模事業者(個人事業主など)の事業継承をめぐる近年の動向について、件数などのデータをもとに紹介していきます。なお、「事業継承」と「事業承継」は同義ですが、法律用語としては「承継」が使われてきた歴史があります。本記事では法律名・政策名については正式名称を挙げ、その他では一般になじみのある「継承」を使うことにします。
10分程度で読み終わるので、後継車不足や継承支援の取り組みについて理解を深めていきましょう。
中小企業経営者の高齢化と後継者不足
中小企業では経営者が高齢化し、引退年齢が高くなってきていますが、その背景には人口全体の少子高齢化による後継者不足の問題があります。ここでは高齢化と後継者不在率の推移を見ていきます。
経営者高齢化の推移
2019年版中小企業白書(※1)によると、1995年から2018年の間に経営者年齢の分布の山は47歳から69歳へと移り、2017年の時点で60歳以上の経営者の数が59歳以下を上回っています。
2013年版白書(※2)のデータでは、2012年頃の経営者平均引退年齢は小規模事業者で70.5歳、中規模企業では67.7歳(30年以上前にはそれぞれ62.6歳、61.3歳)。高齢化の進展とともに引退時期が遅くなってきているのが見て取れます。
その背景には後継者不足があります。資産が負債を上回る状態で休廃業・解散に及んでいる企業の数は増加傾向にあり、これも後継者不足と関係すると見られています(※1)。
後継者不在率の推移
中小企業庁の資料(※3)によると、今後10年の間に70歳を超える(つまり平均引退年齢を迎える)中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人で、そのうち約半数の127万が後継者未定となっています。
帝国データバンクが行った調査(※4)を見ると、後継者が不在だと答えた企業は2011年から2018年にかけて66%程度を推移しています。ただしこれは若い経営者の企業も含めた数値です(20代30代の経営者に後継者がいなくても不思議ではありません)。
60代経営者の数値(2016年から2018年)を見ると50%台前半、70代でも40%台前半となっており、引退の迫ってきた時期にあっても後継者が見いだしにくい現状が表れています。
事業継承支援政策の相談・実績件数
こうした現状に対処するため、近年さまざまな政策が打ち出されてきました。ここでは2つの政策の成果について見ていきます。
事業引継ぎセンターによるマッチング支援件数
従来、中小企業や小規模事業者の事業は親族(とくに息子)へ継承される親族内承継が通例でした。2019年版白書のデータによれば現在でも55%程度が親族内継承となっています。とはいえ、親族内継承が当たり前という慣習はすでに崩れています。
それに代わるのが役員・従業員による継承と社外の第三者へのM&Aによる親族外継承です。近年とくに後者が広まりを見せており、潜在的な市場の大きさが期待され、国も支援に力を入れています。
2011年には中小企業庁による事業引継ぎ支援事業が始まり、第三者継承を目指す企業に対しM&Aについてのコンサルティングと買い手とのマッチング(引き合わせ・橋渡し)を提供するための支援センターが全国各地に設置されました。
全国の事業引継ぎ支援センターへの相談件数と、センターを通して継承に至った件数は年々大幅に増加しており、全国47都道府県に支援センターが設置された2016年度には相談件数が6,293件、継承件数が430件となり、2018年度にはそれぞれ11,477件、923件に及んでいます(※5)。
従業員への継承の相談も多く寄せられており、M&Aと並んで従業員継承の件数も今後伸びていくことが見込まれます。
関連記事:事業承継の件数はどのくらい?近年の推移やM&A型事業承継の件数も解説
事業承継税制措置の申請件数
2008年に施行された経営承継円滑化法(「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」)は次の3つを柱としています。
- 税制支援(株式の贈与税・相続税の納税猶予・免除措置)
- 金融支援(中小企業信用保険法などに特例設定)
- 相続の円滑化(生前贈与株式を遺留分の対象から除外するなど、民法に特例設定)
このうち1の税制支援については、継承時に比べて8割以上の雇用(従業員数)を保つことなどを条件に、総株式数の3分の2までの範囲で贈与税(全額)・相続税(80%)の納税を猶予する措置です。猶予認定を継続することも可能で、状況により免除となる場合もあります。
2018年の改正では雇用についての条件が緩和され、株式数の限定はなくなり、相続税についても全額猶予とするなど、税制支援の強化が盛り込まれました(10年間の特例措置)。
こうした支援を受けて、特例措置の申請件数は急激に増加しています(※3)。改正前は税制措置の申請件数が月間2桁(改正直前には10数件程度)を推移していましたが、改正後の特例措置ではすぐに3桁に乗り、2018年12月は499件にも及んでいます。今後も盛んに申請が行われていくことでしょう。
なお、特例措置の申請には「特例承継計画」などの提出が義務づけられており、これの作成にあたっては国が認定した経営革新等支援機関(商工会、金融機関、税理士など)への相談が必要とされます。公的機関である事業引継ぎ支援センターとともに、こうした民間機関の支援サービスが今後活発になっていくものと見られます。
まとめ
親族内継承の慣習が崩れ、中小企業・小規模事業者の後継者不足が深刻化するとともに、経営者の高齢化が進んでいます。そんな中、従来の親族内継承にこだわらず従業員継承や第三者へのM&Aを模索する企業が徐々に増え、国も力を入れて対策に乗り出しており、相談・申請件数、実際の継承件数ともに増加傾向にあります。
日本経済を支える中小企業・小規模事業者の活性化のため、事業継承の当事者である企業、公的な支援機関、民間のサポート企業が今後ますます有機的に連携していくことが望まれます。
※1
2019年版中小企業白書 第2部第1章
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf
※2
2013年版中小企業白書 第2部第3章
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H25/PDF/0DHakusyo_part2_chap1_web.pdf
※3
経済産業省・中小企業庁「事業承継・創業政策について」
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2019/download/190205kihonmondai02.pdf
※4
帝国データバンク 「全国『後継者不在企業』動向調査(2018 年)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p181103.pdf
※5
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 「平成30年度 事業引継ぎ支援事業に係る相談及び事業引継ぎ実績について 」
https://www.smrj.go.jp/org/info/press/2019/frr94k000006p4ug-att/20190523_press01.pdf