企業は、稼ぎ続けないと生き残ることができません。置かれた環境下で、様々な影響を受けながら活動しています。
市場、顧客、競合、自社、それら状況を素早く、客観的に理解し把握することで自社を有利な状態にすることができ、厳しい競争に打ち勝つことができます。状況理解も何もない中では、勝負に出たとしても勝ち目はありません。
経営環境について、立ち位置や外部環境を把握した上で戦略立案を行い実行することで、勝ち目が見えてきます。

情報の多さが勝負を決める

企業は自分の置かれている環境をしっかりと把握し、リスクを認識しながら進まなければなりません。 その上で、大前提として情報量が必要になります。ただし、どのような大企業でも、どのようなツールやテクノロジーを活用しても、集めることができる情報にも、分析できることにも限りがあります。

状況は刻一刻と変化しているため、一見相反するようですが「完璧」な情報把握は行うことができません。大勢をとらえて判断し、時には物事に取り組みながら、外部環境と向き合い、折衝する中で新たに情報を得て再び考えるという進め方も必要になります。

 

経営者に必要な情報咀嚼力

経営環境を分析していくと、様々な事項が明らかになってきます。しかし、分析結果のひとつひとつをみていても、大きな流れや要点が見えないことが多いです。つまるところ、情報1つ1つに集中しすぎるのではなく、大局を捕捉する力、即ち情報の咀嚼力が必要です。

市場、業界、お客様、競合、法制度、そして自社の経営資源など、様々な状況の中で企業は成長していかなくてはなりません。環境を分析していくと、たくさんの問題点が出てきます。やってしまいがちなこととして、問題点があるから、改善策を見出そうとすることです。10個問題点があると、10個の改善策が出てくるということも起こりえます。しかしながら、これでは個々の問題は改善されても、企業全体で見てみるとちぐはぐで本質的な解決にならない方が多いです。

例えば、人件費率が高いという問題があった時。営業をアウトソースするという改善策で解決することもあるかもしれません。
しかし、人件費率が高いという状況は、売上が低いか、人件費が高いために起きるものです。安易に営業をアウトソースしてしまうと、売上が減り、長期的に会社の体力を奪ってしまう場合もある。大切なことは、個々の問題を見て個々に解決するのではなく、個々の問題を俯瞰して、「要するに何が問題なのか?」という視点で根本問題を見出すことです。

分析情報には、相関性があるものや主従関係があるものも多く含まれます。このように、経営者には俯瞰して情報を咀嚼する力、すなわち抽象化する力が求められます。

 

収集した情報から戦略へ

経営者にとっては、接する情報量を増やすことが目的でもなければ、情報を分析すること自体が目的でもありません。目的はあくまでも自社の環境を知り、潜在的になっている問題や課題を見出し、打開する方針や打ち手を考え実行することです。

多くの情報や分析結果から、「つまりはどういうことか」と自分に投げかけて続ける習慣を身につけてください。
多くの情報を大局的に見て、体系化をしながら考えることで表面的な課題ではなく真の課題を見出すこと。そして、基本方針を導き出すこと。それまでに培ってきた自社の強みや財産、知見を生かしつつ、それらを活用・応用できる製品、市場、顧客を選び、優位に戦い続けること、それが経営者の役割です。

現場のことは現場が考える、それで良いでしょう。経営者にとって大切なのは、現場が考えるうえでの基軸となる会社の在り方(市場や顧客の絞り込み)、どのように勝負するのかということ、どんなメリットを顧客や社会に提供するのかということを明らかにする思考力です。

 

TDKグループ

実際の企業の例を見てみましょう。

下記は、TDKグループのサステナビリティビジョンです。

TDK「経営理念体系とサステナビリティ」
https://www.jp.tdk.com/corp/ja/sustainability/tdk_sustainability/sus01300.htm

 

企業行動憲章として、体系的に整理されています。円で囲われた、企業倫理要領が経営理念の核となります。社会課題に端を発し、最終的にサステナビリティビジョンとして発信されています。すべての根幹となるものであり、会社の存在意義やこれからも大切にしていくこと、普遍的なスタンスが読み取れます。
このようにしっかりと纏まり、発信ができていない場合は、企業活動や運営に統一感がなくなってしまったり、その場しのぎのものになってしまったりします。

また、TDKの場合では、注力している市場と、そこで戦うための資源(自社の強み)があり、社会課題を踏まえて取り組んでいく様子が伺えます。

戦略コンセプトとは、本来はどこで勝負するのか、何で勝負するのか、どんなメリットを提供するのかを、わかりやすく端的に表したものです。一般的には、戦略コンセプトという大きな概念を具体化したものが経営戦略にあたります。生かす強み、市場の選定、そこでの差別化は端的ですが具体的であるため、今回の例では経営戦略として捉えた方が良いかもしれません。

環境分析自体は表に出ていませんが、社会課題と自社・競合企業との立ち位置を考え取り組み続けていたからこそ、このように一体感のあるまとめとなっています。社会課題と向き合うからこそ、特にCSRの取り組みまで表記されており、見ている側も納得感が出ます。

 

経営者が行うべきこと

上記のTDKの例にみることができる、企業理念、ビジョン、戦略コンセプト・経営戦略の策定、環境分析は経営者が行うべきことです。ただし、この例は外部向けに発信されている情報に過ぎません。
企業内では、この他にビジネスモデルと具体的な数か年のビジョンを考えておかなければなりません。企業は儲けなければ生きていくことができません。人や組織、モノ(生産、販売)、金、情報といった経営資源をどのように活用するかを決めていく必要があります。これは現場と経営者が決めていくものです。経営者だけが決めるものではありません。

また、現場の意見を吸い上げて反映することで、経営者と現場が共通目的に向かう体制が出来上がります。この共通目的に向かう体制づくりまでが、経営者が行うべきことです。

 

環境分析を行う上でのフレームワーク

SWOT分析

SWOTは、下図の頭文字をとっています。

強み:自社の得意とすること。他社よりも優れていたり武器となったりすること。

弱み:自社の苦手なこと。他社よりも劣っていることや克服できないようなこと。

機会:自社にとってチャンスとなるような環境変化や社会動向、そして自社の今後の可能性。

脅威:自社の強みに影響を及ぼしたりするような環境変化や社会動向、競合他社。

集めた情報と自社の情報をこのように整理した後に、施策立案を行います。施策立案の段階では、外部環境である「機会」と「脅威」について考察し、それを内部環境である「強み」と「弱み」に落とし込みます。

 

PEST分析

SWOT同様、PEST分析は下図の頭文字をとっています。

PEST分析では、政治・経済・社会・技術の4つの側面からマクロ環境を分析し、その環境が自社のビジネスにとって機会となるのか、脅威となるのかを振り分けていきます。

例としては、次の通りです。

・政治(Politics) 法律改正、政権交代、外交など

・経済(Economics) 景気動向、インフレ デフレ、失業率、GDP成長率など

・社会(Society) 文化の変遷、人口動態、教育、犯罪、世間の関心など

・技術(Technology)新技術の完成、新技術への投資など

このフレームワークを用いることで、外部環境をマクロ視点で分析することができます。2020年は大きく変わった年でしたが、PESTのどれもが動いたことから、企業への影響度の大きさを改めて実感することができると思います。

この他にも、様々な分析手法やフレームワークがあります。次回は、実際の企業を例に分析例をご紹介します。