今日では、多くのM&A仲介会社が独自の料金体系でサービスを提供しています。M&Aをご検討されている経営者様はサポートを依頼する前に、手数料の算出方法や相場について体系的に知っておくべきでしょう。今回は、M&A仲介会社の手数料や相場についてまとめましたので、是非参考にしてください。

問題視されているM&A仲介手数料

2021年1月上旬に、河野太郎行政改革担当大臣がM&Aの仲介手数料が「利益相反」だという指摘をしました。この指摘を受け、M&A関連の上場企業は一様に株価が大きく下落しました。河野氏は、「中小企業のM&Aの際に仲介業者が買い手・売り手の両方から手数料を取るのは利益相反」だと言及しており料金体系についての改善を求めています。
そこで、現在注目が集まっているM&Aの手数料について、傾向や特徴を紹介していきたいと思います。

M&A仲介の手数料体系

買い手、売り手と、どちらの立場においても、M&A仲介会社へ支払う手数料の相場は一概に言い切ることができません。なぜなら、手数料にはさまざまな種類があり、支払う額や支払うタイミングはM&A仲介会社によって違いがあるからです。

特に比較するにあたって注目したいのが、着手金や月額手数料の有無、そして成功報酬の計算方法などです。料金プランそれぞれの項目を確認してみましょう。

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1.相談料

相談料とは、”M&A仲介を正式に依頼”する前にM&Aに関する相談をするための手数料のことを指します。専門家の知識や経験に基づいた助言を貰います。相談のために時間を割くので、相談料として料金が発生します。ただし、ほとんどのM&A仲介会社の相談料は無料です。

ごく稀に1回の相談につき5,000~10,000円程度の相談料が発生する仲介会社もあります。念のため、最初の問い合わせの際に電話やメールで相談料の有無を確認しておくとスムーズです。

 

2.着手金

着手金とは、M&A仲介会社に仲介業務を着手してもらうために支払う手数料です。

日本M&Aセンターやストライクでは着手金が発生します。相場は、50~200万円程度となっていますが、着手金が発生しないM&A仲介会社も多くあります。着手金はM&A仲介業者の初期活動の諸経費として充てられ、依頼企業の本気度を確認するためのものでもあります。

着手金を支払う必要のないM&A仲介会社も多くあります。「着手金を支払う必要のない会社を選んだほうが良い」ということは全く無く、”日本M&Aセンター”や”ストライク”はM&A仲介における最大手企業であり、素晴らしい支援を受けることが期待できます。

譲渡企業の簿価総資産額手数料
10億円以下100万円
10億円超50億円以下200万円
50億円超300万円

基本的に、着手金は支払うと戻ってはきません。今後のM&Aに必要な売買相手を探すことや、企業価値算定などに使われるからです。本格的に動いてもらうための初期投資として考えましょう。

 

3.月額報酬(リテイナーフィー・コンサルタント料)

M&A支援を依頼してからM&A成立時までに毎月支払うのが「月額報酬(リテイナーフィー)」です。毎月定額の場合もあれば、業務内容に応じて支払う場合もあります。アドバイザリーやコンサルタントへ支払う報酬のため、コンサルタント料ともいいます。こちらの相場は30~200万円程度です。

M&Aが成立するまで支払い続けないといけないため、じっくりM&Aに取り組みたい際は避けるのも1つの選択肢となるでしょう。また「マッチングに時間がかかるほどお金が取られるのはおかしい」と考える方もいるので、近年はリテイナーフィーを請求しないことを謳う会社もあります。
※その分、中間報酬や成功報酬に手数料が乗ってくる可能性もあるので、契約内容は要確認です。

 

4.中間報酬(基本合意)

中間報酬とは、譲渡企業と譲受企業の双方が「基本合意書」を締結したときに発生する手数料です。M&Aの取引では、最終的に売買が成立する前に、これまでの交渉の内容や今後実施することを「基本合意書」としてまとめます。基本合意書の役割は、最終契約に向けてスムーズな進行と拘束力をもたせることです。

相場は、50~200万円程度で、成功報酬額の10~20%という設定をしている場合や、そもそも中間報酬が発生しないM&A仲介会社もあります。
中間報酬はM&Aが成立しなかった場合でも返金されませんが、成立した場合は成功報酬に含まれる場合が多いので、成功報酬の一部を前払いしている状態に近いといえます。

 

5.デューデリジェンス費用(企業調査手数料)

デューデリジェンス費用とは、M&Aをするにあたって行う企業価値評価、財務調査費用のことです。相場は10万円~80万円程度となっています。また、デューデリジェンスは譲受企業が行うため、費用がかかるのは基本的に譲受企業のみです。

もし、この費用を出し渋ってデューデリジェンスを疎かにすると、譲渡企業の正確な分析ができず、M&Aが大失敗に終わるかもしれません。非常に重要な手数料といえます。デューデリジェンス費用は着手金や成功報酬に含まれていることが多いため、デューデリジェンス費用のみを設定しているM&A仲介会社はあまり多くありません。

念のため、依頼をする前にデューデリジェンス費用が別途かかるのか確認しておきましょう。

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6.成功報酬(クロージング)

成功報酬とは、M&Aが成立して最終契約を結んだ後に支払う手数料です。M&Aが成立しなかった場合には、支払う必要はありません。

成功報酬の額は、譲渡額を基に“レーマン方式”と言われる計算方法で決めているM&A仲介会社がほとんどです。この方式の場合、譲渡金額が高ければ高いほど、成功報酬として支払う額も大きくなります。

この時、売り手と買い手から料金を取る仕組みが「利益相反」だとして問題視されています。そのため現在は、買い手のみが支払う傾向にあります。また、“完全報酬型”といって、成功報酬だけしか受け取らない会社も増えてきました。特に、M&Aマッチングサイトでは完全報酬型の傾向にあります。

多くの場合、この費用が支払額全体の9割以上を占めます。また、レーマン方式に関しては、仲介業者・案件ごとに算出方法が変わります。ほとんどの仲介会社がレーマン方式を採用しており、重要なポイントとなっているため後程詳しく説明します。また、中間報酬や月額報酬が成功報酬に充当されることも多いです。中間報酬や月額報酬が充当されるかを契約する前に確認することをお勧めします。

 

7.業務実行にかかる実費

M&A仲介会社の業務実行にかかる費用は、実費で請求されることもあります。例えば、会社の評価額の計算のために工場視察や店舗視察を行う場合、出張費用は実費で請求される可能性があるのです。

また、契約書作成時の弁護士相談費用や不動産鑑定、登記および株券印刷などの費用は実費となることがあります。さらに、M&Aを行った後に法人税や所得税といった税金も支払う必要があるため、M&A仲介会社に支払う仲介手数料と合わせて、M&A時の予算として確保しておく必要があります。一方で、全て着手金や成功報酬の中に含んでいるM&A仲介会社もあるので、相談時に確認するようにしましょう。

 

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成功報酬額を決めるレーマン方式とは?

“レーマン方式”とは、成功報酬計算方式のことで、M&Aの売却額によって手数料の割合を計算する方法です。仲介会社によっては最低報酬金額を設定している場合もあります。

最低報酬金額は、多くの仲介会社で500万円~2,500万円で設定されています。M&A仲介会社のほとんどが、手数料の計算をするときにレーマン方式を用いています。そのため、M&A仲介会社の手数料について理解を深めるために、レーマン方式の知識は欠かせません。手数料の割合は一定ではなく、M&A仲介会社によって異なります。

ただし、一般的に採用されている水準があるので、それを売却額ごとに見ていきましょう。

売却額手数料の割合
5億円以下の部分5%
5億円超・10億円以下の部分4%
10億円超・50億円以下の部分3%
50億円超・100億円以下の部分2%
100億円超1%

 

売却金額が大きくなるにつれて手数料の割合(%)が減っていくのがレーマン方式です。上記のような報酬料率を定めている場合の成功報酬額は下記の様に計算されます。仲介会社ごとに、料金表が全体的に1%ずつ低かったり、段階表が細かくなっていたりします。比率の小さな違いでも金額に大きな違いが生まれます。

起算基準額:11億円(売却額)
成功報酬額:4,800万円

・1億円~5億円までは5%が適用 → 5億円×5% = 2,500万円
・5億円~10億円までは4%が適用 → 5億円×4% = 2,000万円
・10億円~11億円までは3%が適用 → 1億円×3% = 300万円

※レーマン方式で、売却額の5億円部分までは5%、5億円~10億円部分を4%、10億円~50億円部分を3%とした場合

 

レーマン方式の留意点 ※ポイント

レーマン方式に関して、重要なポイントがあります。「算出元となる金額がどの金額を指しているのか」という点です。
算出元となる取引金額にどの数値を使うかは、仲介会社によって異なります。取引規模の考え方については、主に4つのパターンに分かれます。

株式の値段(株式価値基準) → M&Aキャピタルパートナーズが採用
株式の値段+株主からの借金額(オーナー受取額基準) → ストライク(対売り手)が採用
株式の値段+借金額(企業価値基準) → 大手三社では採用なし
株式の値段+すべての負債の総額(移動総資産基準) → 日本M&Aセンター、ストライク(対買い手)が採用

 

・オーナー受取額基準
オーナー受取額基準では、株式価格に、会社が株主やその親族から借入をしている負債である「役員借入金」を加えたものを基準とします。役員借入金は会社売却の直後に返済されることが多いものの、返済が受けられない場合は、売却によって実際に手にする金額より多い金額を基準として、成功報酬が算定されます。

・企業価値基準
企業価値基準は、株式価格に「有利子負債(役員および銀行からの借入金の総額)」を加えたものを基準とするものです。「企業価値は株式価格と有利子負債を加えたもの」とされているため、企業価値基準はフェアと言えるでしょう。しかし、銀行からの借入金は売り手の手元に入らないため、納得できない向きもあるでしょう。

・移動総資産基準
移動総資産基準は、株式価格に負債の合計額を加えたものを基準とするものです。買掛金や前受金の額まで報酬の基準とされるため、これらが多い会社では成功報酬が大きく上がることになります。

上述の通り、何を取引規模と定めるのかで同じレーマン方式でも大きな違いが生まれます。移動した総資産額ベースや株式価格ベース、企業価値ベースなどがあるので、必ず事前にチェックしておく必要があります。

 

まとめ

法律や会計といった専門知識の支援が受けられることはM&A仲介会社を活用する大きなメリットになります。その他にも、譲渡企業と譲受企業双方の希望や条件をM&A仲介会社がすり合わせることで、友好的なM&Aが実現できることもメリットといえます。また、M&A仲介会社を活用することで、どちらかにとって不利な条件などの不都合な内容が、契約に盛り込まれることを避けられるなどリスク防止も期待できます。

M&Aの手数料は、仲介会社によって大きく異なります。手数料の金額が異なるだけでなく、支払い方法についても着手金がある会社や、完全成功報酬型の会社など様々です。本記事を参考に少しでもM&Aの料金体系やレーマン方式について皆様のご理解が深まれば幸いです。

ただM&Aの第一の目標は、「自社にとって最適な相手とマッチングできる」ことです。したがってM&A会社を選ぶ際は、手数料だけに囚われず、総合的な観点から検討するようにしましょう。