中小企業の事業承継は、その規模や実情によってさまざまな特徴があります。
今回はそんな中小企業の事業承継における問題に焦点を絞って、具体的な対処策も含めて紹介していきます。
中小企業が事業を継承する際に生じる問題は決して他人事ではありません。
これを機に中小企業の事業承継と経済とがどのようにつながっているかも意識してみましょう。
中小企業を取り巻く事業承継の現状
大企業・中小企業問わずいつか必ずやってくる事業承継。中でも中小企業の経営者は大企業とは異なる環境で様々な問題に直面します。
今回はそんな、中小企業の事業承継の実状に迫ります。
経営者の高齢化
日本の企業における社長の平均年齢は毎年のように上がっています。
帝国データバンクの調べによれば、1983年には52歳だった経営者の平均年齢が2008年には平均で59歳と7歳も上がっています。
また、1995年には経営者の中で最も多い年齢層が47歳だったのに対して、2015年には66歳となっています。
同時に引退する年齢も後ろ倒しになっており、30年以上前では平均60歳すぎには引退をしていましたが、今では平均で70歳近い年齢まで働いている方が増えています。
高齢になればなるほどいつ身体の調子が悪くなってもおかしくありません。つまり、会社としてトップが急に不在になるリスクを背負うことになります。
中には引退の時期を決めておらず、「やれるところまでやる」と辞め時を見失っているケースもあります。
[出典]中小企業庁・事業承継に関する現状と課題
後継者不足
元々日本では息子・娘に事業を引き継ぐ「親族内承継」という形態が事業承継の大きな割合を占めていました。
しかし、少子高齢化や職業選択の自由度が高くなってきて、親族内承継よりも従業員や外部の第三者に事業を承継していく動きが主流になってきました。
そんななか、中小企業では後継者に相応しい適性のある人物が親族内や従業員にいなくて、事業承継が滞ってしまっているケースもあります。
期待していた従業員も転職して大手の会社に入るなど、優秀な人材ほど取り合いになるため、中小企業は不利な状況に立たされることもしばしばです。
親族内承継は減少
最近では息子・娘に会社を引き継ぐこと自体をためらい、あえて譲らないというケースも増えています。
特に経営者は会社を経営していくうえで苦労をしているため、わざわざ自分の子どもに大変な思いをさせたくないという親心からあえて継がせない選択を取るかたもいます。
また、経営者の息子・娘とは言っても経営者としての素質があるとは限りません。
適性がないまま重責を背負わせるのは本人のためにもならず、会社で働く従業員の不安材料になりかねません。
事業承継にある根強い3つの問題
中小企業の事業承継は様々な問題が出てきます。
事前に起こり得ることを知っておけば、対処方法を考えたうえで事業承継を進められます。ここでは中小企業の事業承継で起こり得る代表的な問題を4つピックアップします。
承継後に経営が傾くリスク
中小企業は設立当初に営業ができる社長が一人でガンガンお客さんをとってきてその営業力によって成り立っているケースが多いです。
社長に任せきりになっていると、会社を引き継いだ途端にお客さんが取れず売上が伸びにくくなることもあります。
特にワンマン経営をしていた会社によく見られる傾向で、引き継ぐ前はお客さんがたくさんいたのに、引き継いだ瞬間に一気に経営が傾くことがあります。
対策としては前社長から引き継ぐ前に営業を経験しておき、お客さんを取ってくる見込みが立てられた段階までは待ってもらうことです。
後継者の資金不足
社内の役員や従業員から後継者を探して承継する際は、引き継ぎのための資金が役員や社員に圧倒的に不足していることが多くあります。
対策としては後継者として引き継ぎの話し合いをしっかりとして、折り合い付くポイントを探さないといけません。また、後継者が決まっていないならM&Aに切り替えるなどの方法があります。
参考記事:M&Aの流れや手順を知りたい!M&AのポイントやPMIを分かりやすく解説
会社内部での争い
社員に引き継ぐとなった場合、内部紛争が生じる可能性があります。
既に派閥ができあがっている場合、次期社長になるであろう候補同士でいがみ合う状態になれば通常の業務どころではなくなります。
一番良くないのは、内部分裂が起こり会社として機能しなくなることです。社内で起こりそうな問題が予め予想できるなら後継者を別で立てるか、対立しない形で権限を持たせるか、工夫をする必要があります。
事業承継問題は国レベルに発展
中小企業の事業承継問題は一社だけでみると小さい問題かもしれませんが、実は日本全体の問題として捉えるべきことです。
ここからは、中小企業の事業承継と国の経済がどうつながっているのか解説していきます。
日本全体の雇用減少
日本にある約420万社のうち、中小企業は99.7%とほとんどです。
また、中小企業で働く従業員数は日本全体の7割に当たります。
大企業のような大量採用はありませんが、母数では日本の雇用の大部分を占めている中小企業の雇用はとても大事なのです。
ノウハウ・資産の価値が消滅
廃業となった場合、雇用が失われるのと同時に、それまで積み上げてきたノウハウや資産が消えてしまいます。
特に日本の中小企業に見られるような、その企業しか出来ない技術や伝統工芸品などの特殊な分野に関しては希少価値が高く、継承できないと文化そのものが消えてしまいます。
つまり、国の資産としても事業承継を成功させることが貴重な資産を守ることに繋がります。
国力低下の原因
以上のように、中小企業は日本において国民の雇用を大多数創出すると同時に、企業ならではの強みを生かして世界で戦っている企業もあります。
また、トヨタ自動車などの大手企業も下請け企業との取引があるからこそ世界でも戦えています。日本を代表する企業を陰で下支えしている中小企業も少なくありません。
中小企業の事業承継失敗による廃業は一企業だけの問題ではなく、国力(GDP)にも大きな影響を与える問題になりかねません。
また、国の経済は国内で稼ぎを得た人が消費活動をしていくことで成り立ちます。
中小企業が存続をして、そこで働く人が稼いだお金で消費活動をしていくことで健全な経済の巡りを回していくことができます。
国が制度を整えている背景と施策例
国も中小企業の事業承継の実態を見かねて具体的な対策に乗り出しています。
ここからは国がなぜ事業承継問題を見過ごせないのか、具体的にはどのような対策をとっているのかを紹介していきます。
事業承継を行わないと雇用・GDPの危機に
経済産業省と中小企業庁の試算によると、2025年ころまでには累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされています。
これだけの雇用・GDPの喪失は国に与える打撃が大きいため、「集中実施期間」として中小企業の事業承継にテコ入れをしていく方針を固めました。
事業承継税制を活用
事業承継を行う上で大きな負担になるのが税金です。
非上場株式会社の引き継ぎにあたって生じる贈与税・相続税に関して、一定の条件に当てはまれば納税の猶予または免除される事業承継税制が始まりました。
注意したいのは、下記のケースです。
- 事業承継税制を適用するために細かな要件をクリアしなければいけないこと
- 適用したがゆえに逆に負担になるケースもある
専門家のサポートを上手く使って贈与・相続にかかる出費を減らせるようにしましょう。
参考記事:事業承継でかかる費用を知る 特例事業承継税制や補助金まで
事業承継ガイドラインの活用
事業承継ガイドラインは、円滑に事業承継を進められるように作成した資料です。
承継時の根本となる考えや、具体的な計画の立案から実施するまでの5つのステップについて細かく書いてあります。
また、事業承継を進めていくうえで関わる専門家の果たす役割や支援制度についても記載があります。
事業承継計画を作成する際に最も役立ち、事業承継に関する全体像をとらえるには適した資料です。誰でも無料でインターネットからダウンロードして閲覧できます。
参考記事:事業承継マニュアルとは?事業承継に役立つマニュアルの中身をわかりやすく解説!
それでも独学では難しい事業承継
国も支援の体制を進めており以前に比べればかなり事業承継は実施しやすい環境が整っています。実際に中小企業の倒産・休廃業・解散件数は少しずつ減少している傾向にあります。
しかし、まだまだ事業承継が思うように進んでいない企業は存在します。
- 頭では理解できても動きだせない
- 目の前の会社運営が忙しく優先順位が下がってしまう
- 現役でいけるからしばらく考える必要はない
など理由は様々ですが、忙しい社長だからこそ起こる問題です。
また、中小企業は業務を兼務している人も多くリソースをフルで稼働している会社が多いはずです。特に社長は朝から晩まで働いており、事業承継に関してまとまった時間を取るのは不可能です。事業承継は専門的なジャンルが多岐にわたるので知識が無い状態で作業を進めていくのは効率も悪く難易度も高いです。専門家に相談しながら進めるのが最も効率が良く、事業承継自体もスムーズに進むでしょう。
参考記事:親子承継を検討している経営者のパートナー「事業承継士」ってどんな資格?
事業承継問題は専門家に相談を
国の支援も整ってきた事業承継の分野ですが、その会社にあった準備を進めていく必要があります。事業承継を考えはじめたタイミングで一度専門家へ相談することをおすすめします。
早めから準備を
事業承継は10年計画を立てるのが一般的です。
そのため、計画や準備は早ければ早いほど円滑に進みます。もしあなたが60歳を迎え、売上が安定していて社内の体制が整っているなら早めに計画を立て始めましょう。特に候補者を選定する際には、経営者としての教育が必要なはず。後継者についても早めに考えはじめましょう。
外部承継という手もある
これまでは親族内承継をはじめ既に知っている人に受け継いでもらうという流れが主流でしたが、現在は外部へ委託をして完全に赤の他人のプロ経営者に承継するM&Aも割合が増えてきました。
中小企業でもM&Aは増えています、親族内・社内に適任者がいなければ思い切って外部に委託するのも想定しておきましょう。
専門知識を持つアドバイザーに相談するべき
中小企業の事業承継に関する問題について紹介していきました。
どんな対策を取っていくにしろ専門家の知識・経験なしで社長一人で進めていくのは非常に大変です。
また、これから事業承継をやり始めるというスタート段階から専門家に相談をすれば、効率良く計画を進めることができます。
近くに相談できる専門家がいないという方はまずは事業承継ラボにお問い合わせください。