事業承継と廃業で迷ったら|選ぶポイントを収益や手続きの面から考える

経営者が高齢化したり、体調を崩したりすると、事業承継と廃業のどちらかを選択しなければなりません。いずれも企業のゴールではありますが、得られる結果は大きく異なります。例えば、大きな負債を抱えた企業が廃業を選ぶと経営者に負債がのしかかってしまいますが、事業承継やM&Aによって経営を引き継げば経営者は資金を得られるのです。
どのような点に注意してゴールを選べばよいのか、わかりやすく解説していきます。

事業承継と廃業はいずれも「企業のゴール」のひとつ

事業承継という選択肢が中小企業のゴールとして、また新たなスタートとして認識されるようになりました。その背景には、平成30年度の税制改正(事業承継税制)の存在があります。一定の条件を満たすことで、相続税や贈与税が免除されるので、事業承継の大きな足かせとなっていた「税負担」を大幅に軽くすることが可能です。

経済産業省の統計によると、事業承継税制が施工されてから中小企業が事業承継を行う件数が増加していることがわかります。年間400件だった申請件数が、平成30年の12月には6000件に増加しているのです。このことから、税負担という足かせがなくなったことで、事業承継という選択を取りやすくなっている様子が伺えます。

廃業も事業承継も、企業が選ぶ「出口戦略」のひとつですが、その実態は大きく異なります。

「このまま経営していくのは難しい」と立ち止まったときにどちらを選択するかによって、企業の今後は大きく左右されるのです。直感的な選択ではなく、廃業と事業承継のメリットやデメリットを十分に理解した上で、最適な選択肢を選びましょう。

まずは、廃業や事業承継の実態について、詳しく解説します。

中小企業の廃業件数は2.9万件にのぼる

中小企業白書によると、2016年の時点で中小企業が休廃業を選択している件数は「29,583件」。さらに倒産を選んだ企業は「8,446件」とされています。休廃業を選択する企業は2003年から増加傾向にある一方で、倒産を選ぶ企業は減少しているのです。

財務上の赤字が続き、倒産を選択してしまうケースも少なくありませんが、後継者不足や経営者の高齢化を理由に休廃業を選択するのは得策とは言えません。有形無形の資産を次世代へ引き継げなくなってしまうだけでなく、これまで築き上げてきたブランドや取引先との関係性、雇用なども水の泡になってしまうでしょう。

しかし、そもそも中小企業はなぜ休廃業を選択するのでしょうか。休廃業の理由が、先述したように後継者不足や経営者の高齢化によるものであったならば、事業承継を成功させることで休廃業に陥ることなく事業を存続させることができます。

中小企業が廃業してしまう理由は?

中小企業白書によると、中小企業が休廃業を選択する理由として最も多いのは「経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題」とされており、全体の38.1%を占めています。次いで「売上の減少」が理由として挙げられますが、28.1%と全体の3割程度にとどまっています。

休廃業というフレーズを聞くと、売上や利益の減少が理由であるように思えますが、実は最も大きな割合を占めている理由は経営者の高齢化や、それにともなう体力・気力の減衰にあったのです。先ほど述べたように、休廃業を選ぶ理由が経営者の年齢などに由来するのであれば、事業承継によって事業を存続させることができます。

また、注目すべきは3番目に大きな理由となっている「事業承継の問題」です。割合は5.3%とさほど大きくありませんが、そもそも事業承継という選択肢が頭になかった経営者も少なくないため、妥当な数値と言えます。

むしろ、経営者の高齢化や体力・気力の問題は、言い換えれば「誰かに経営を引き継がなければならない」状況と言えるので、事業承継の問題とも関わってきます。事業承継という選択肢が一般的になり、ノウハウの確立や認知度の向上がなされれば、廃業の理由の大多数は「事業承継の問題」となるでしょう。

しかし、事業承継と廃業のどちらを選ぶべきか、と問われると、企業の実情に依るところが大きく、一概に「事業承継すべきだ」とは言い切れません。その選択を下すためには、事業承継と廃業のメリット・デメリットを正しく理解して比較・検討する必要があります。

事業承継と廃業を比較してみよう

事業承継と廃業のどちらが良いのか、という質問には一概で答えられません。なぜなら、企業の財務状況や業種の将来性によって選ぶべき選択肢が変わってくるためです。多額の負債を抱えており、立て直せる見込みがない企業を後継者に譲り渡したとしても、経営の手腕や胆力がなければ事業承継のメリットを最大化することができず、爆弾ゲームのように爆発を先送りするだけになってしまうでしょう。

仮に、多額の負債があったとしても、事業承継ファンドや金融機関からの融資を活用すれば事業を立て直すことは可能です。その場合は事業承継の計画を綿密に立てたうえで、後継者を支援するメンバーを充実させ、承継後の事業計画についても気を配らなければなりません。

事業承継と廃業のいずれかを選択するには、財務状況だけでなく、様々な要素で比較・検討してみる必要があります。ここでは、「収益」「手続き」「社会的な意義」「従業員や取引先との関係性」などの観点から比較して、どちらの選択肢を選ぶべきか判断していきましょう。

――◯経営者の収益面で比較する

事業承継…株式譲渡の代金が取得できるのでメリットが大きい

廃業…経営が健全であれば余剰分が収益となるが、そうでない場合は負債が残る

事業承継に関しては、相続の場合を除いて、基本的に経営者にまとまった金額が支払われるようになっています。

例えば株式譲渡によって事業承継を果たす場合、必要な手続きを示すと、

  1. 企業の株価を算出する
  2. 経営者が保有している株式を後継者に譲渡する
  3. 後継者から株価分の現金をもらう

上記のようになります。株価は企業によって、また算出方法によって異なりますが、いずれにせよ先代経営者にはまとまった金額が支払われるので、ハッピーリタイアのためにも活用できる手法と言えるでしょう。

しかし、特別清算と同様に、債務超過に陥っている企業の場合は思ったように事業承継が進まない可能性も考えられます。株式譲渡によって望んだ利益が得られなかったり、そもそも後継者が見つからなかったりといった問題が生じるかもしれません。

財務状況が優れないからといって事業承継が進まないというわけではないので、まずは経営を引き継げるように財務状況を棚卸しして状況を把握しましょう。自社内での立て直しが難しい場合は、事業承継ファンドを活用することがおすすめです。経営支援や会社存続に向けた各種サポートを通して、事業承継に取り組める体制をつくるところから二人三脚で歩んでくれます。

いっぽう、廃業と聞くと「多額の負債が残ってしまう」ことをイメージしがちですが、実はそうではありません。キャッシュフローが正常で、資産と負債のバランスが取れている上で廃業を選択するのであれば、廃業時に余った資産や現預金を手にして事業をたたむことも可能です。

このような廃業を「通常清算」と呼び、債務超過などによってやむを得ず廃業する場合は「特別清算」と呼ばれる方法で廃業手続きを進めます。特別清算は裁判所の管理下で「債権者の保護」を担保しながら進めなければならないので、企業のすべての資産を現金化して債権者へ返済したとしても負債が残ってしまった場合は、経営者が責任を持って返済していく必要があるのです。廃業にまとわれているマイナスイメージはこの特別清算によるものが大きいのではないでしょうか。

しかし、先に紹介した通常清算によって企業をゼロの状態に戻し、なお資産が残った場合は、経営者の手元に余剰分の資金や資産が残ることになります。経営状態が健全で、廃業しても現金が得られる場合は、廃業を選択するのも良いでしょう。

――◯手続き面で比較する

事業承継…中小企業庁のガイドラインによると5〜10年の準備期間や税務、財務面での手続きが必要

廃業…企業の資産や負債をゼロに戻し、債権者への説明や書類作成・提出を済ませることで可能

事業承継の手続きには税務や財務だけでなく、後継者の育成など時間がかかるものも含まれているので、非常に長い時間と労力がかかります。中小企業庁が作成した事業承継ガイドラインによると、準備期間も含めて5〜10年という長いスパンで後継者を育成し、手続きをすすめていく必要があると言われているのです。ただ、2019年の中小企業白書によると、実態は1年未満で後継者に引き継いでいるケースが半数近くを占めているので、十分な後継者教育が施せているか、という点には疑問が残ります。

事業承継で引き継ぐものは目に見える資産だけではないので、時間をかけて後継者を育成し、無形資産である企業のブランドや取引先からの信頼といったものも余すことなく引き継いでもらわなければなりません。

そのため、事業承継を自社内だけで賄うのは難しいのが実情です。事業承継センター株式会社が育成・輩出している事業承継士や事業承継プランナーといった専門家や、信用金庫や商工会議所などの地元企業と密接に関わっている組織を頼ることで、なるべく時間や労力をかけずに事業承継を成功させることができるでしょう。

一方の廃業においては、事業承継に比べて簡単な手続きで完了できます。とは言っても、大きく7つのステップを踏まなければならないので、大きな労力がかかることに変わりはありません。

  1. 解散決議と清算人の選任
  2. 選任登記
  3. 解散届の提出
  4. 廃業の公告
  5. 企業の精算手続き
  6. 決算書類の作成・提出
  7. 確定申告・清算結了登記

これらの手続きを済ませた上で廃業が完了します。詳しい手続きについては、以下の記事を参考にしてみてください。

――コラム――

丁寧に引き継がれた自社の資産は、新たな経営者の手によって、新たな花を開く可能性が高いのも事業承継に取り組むメリット。以下の図は、2011年に事業承継を行った企業を対象に、中小企業庁が実施した調査の分析結果です。

横軸が事業承継後の年数、縦軸が売上高成長率となっており、年数を重ねるごとに売上高の成長率が高まっていることが分かります。しかし、事業を承継する後継者の年代によっては、うまく事業承継のメリットを享受できないことも。

以下の図は、事業を承継する後継者の年代別に売上高成長率を比較したものです。この図から見て取れるように、後継者となるのはなるべく若い「30代以下の方」であるほうが、売上を伸ばしやすくなる傾向にあります。この図を見た限りでは、50代の方に事業承継したとしても、4年目からは成長率が下がってしまっているのです。つまり、事業承継によるメリットを最大限に享受するには、若い経営者に事業承継を行い、後継者教育や周囲のメンバー補強なども含めて業績をアップさせられるような環境を整えてあげることが大切であると言えます。

 

――◯社会的な意義で比較する

事業承継…次世代に自社の資産や理念、雇用を引き継げる

廃業…雇用の喪失やGDPの減少などにつながるので、なるべくしないほうがよい

事業承継によって次世代に資産や理念、雇用などを引き継げるので、社会にとっても有意義な選択であることは間違いありません。とくに、ゼロからこれらを用意して事業を軌道に乗せるのは非常に骨が折れるでしょう。既に基盤が確立された状態で経営を引き継げるので、後継者にとってもゼロから起業するより魅力的な選択となりうる可能性があります。

逆に、休廃業することで失われるGDPや雇用は日本に深刻なダメージを与えます。中小企業庁が試算したデータによると、このまま経営者の高齢化が進み、事業承継が行われずにいると22兆円のGDPと650万人の雇用を失う可能性があると言われています。社会的な意義の面で見ると、廃業よりも事業承継を選択したほうがよいのです。

また、取引先の企業や商品・サービスの消費者にとっても大きな影響を与える選択なので、廃業は最後の選択肢として考えておくのが良いでしょう。

――◯企業の未来で比較する

事業承継…引き継いだ有形無形の資産が未来へつながり、企業がより大きく成長する可能性がある

廃業…事業が存続しないので、その時点で未来が絶たれてしまう

事業承継を選択することで、これまで述べてきた様々な資産を未来に引き継ぐことができるので、現状からは想像できないような成長を遂げる可能性もあります。より多くの方に自社の商品やサービスを利用してもらえることで、経営者にとっても「自分が生きた証」として、誰かの役に立っていることが見て取れるでしょう。また、株式譲渡の代金を受け取ったり、退職金を支払ってもらったりすることで、資産を自分の手元に移動させられるので、セカンドライフの自由度を高めることにもつながります。

対して、廃業を選択すると企業の未来はその時点で途絶えてしまいます。せっかく作り上げた資産やブランドが消えてしまうのは非常にもったいないことです。しかし、事業承継を選んだほうが多くのメリットを得られるのに、なぜ事業承継に取り組む中小企業が多数派ではないのでしょうか。

その理由は大きく「事業者」「事業承継の支援事業者」「後継者」「金銭面での負担」などに分けられます。詳しくは以下の記事で解説していますので、事業承継が抱えている課題を理解した上で、事業承継に取り組んでみてください。

自社の事業承継を成功させるには、事業承継を成功させるためのポイントをあらかじめ理解して、早めに手を打っておく必要があります。

事業承継を成功させるためのポイント

ここからは、事業承継を成功させるために必要なポイントを大きく3つに分けてご紹介します。

――◯事業承継の引き継ぎ先を理解する

事業承継を成功させるには、まず「どのような承継先があるのか」を抑えておかなければなりません。それによって後継者教育の必要性や、事業承継計画が大きく変わってくるためです。

事業承継では、主に「親族内承継」、「従業員(企業内)承継」、「企業外承継(M&A)」があります。

親族内承継は、最もポピュラーな事業承継の形のひとつですが、綿密な計画と後継者教育が必要となるでしょう。承継後の経営を安定させるために、社内からの反対を打ち消すための施策も重要です。

従業員承継は、もとから自社の従業員として働いている方を後継者として定め、事業承継を行う形です。既に自社の業務内容や理念、雰囲気を理解しているので、親族内承継よりも短い後継者教育で済むのが特徴。すでに役員として活躍している方であれば、経営についても知識や経験があるので、さらに教育の期間を短縮できます。従業員へ事業承継する場合は「MBO」と呼ばれる手法を使うケースが多いです。

企業外承継は、いわゆるM&Aを指します。企業や個人に自社の株式を過半数以上保有してもらい、経営権を譲渡するものです。事業譲渡と間違われることも多いですが、ここでいうM&Aは企業譲渡、つまり事業単体を売り渡すのではなく、企業そのものを売り渡すことを指しています。より大きなチャネルを持っている企業に買収してもらえば、自社だけでは開拓しきれなかった領域や範囲にまでサービスや商品を行き届かせることが可能となる、というメリットも。

――◯中小企業の事業承継に関する支援体制を知る
中小企業の事業承継を支援する体制は、万全とは言えませんが整いつつあります。例えば、先ほど紹介した事業承継税制やよろず支援拠点などは政府が主導している公的な制度、機関です。小規模事業者や中小企業が、経営について無料で相談できるプラットフォームとして全国に設置されています。もちろん、事業承継に関する相談も受け付けているので、廃業と事業承継で迷ったならまず相談したい公的機関です。

各商工会議所でも、事業承継に関するセミナーを開催したり、実際に無料相談に応じてくれる専門家を設置していたりといった動きが見られており、事業承継について相談できる相手がいなかった時代から大きく変化している様子が見て取れます。また、自治体によっては事業承継を行う事業者に対して補助金を支給しているところもあり、事業承継にかかる費用の負担を減らすことができるのです。

事業承継を成功させるためには、こういった動きをキャッチして自社で利用できるものを見極める必要があるでしょう。

――◯先代経営者と後継者候補の意見をすり合わせる
事業承継を成功させるには先代経営者と後継者の意見をすり合わせる必要があります。

親族内承継の場合はとくに、親の資産である株式の譲渡が必要となるため、相続人を集めて家族会議を開く必要があります。後継者のみならず、他の被相続人からも了承を得ることで、後継者の経営がスムーズに進むようになるのです。しかし、家族会議とは言っても相続と絡んでくる問題なので、どうしても感情的になってしまう部分でもあります。事業承継と絡めた家族会議を行う場合は、銀行の応接室のような公的な場所を利用し、事業承継士や顧問の税理士・会計士などの第三者を入れて行うのがおすすめ。

また、後継者に経営のすべてを任せきるのが怖い場合は、先代経営者が期間を決めて「黄金株」を保有しておくことで、ストッパーとしての役割を果たすこともできます。黄金株は1株持っているだけで、株主総会で決まった経営方針を棄却できる強力な株式です。例えるなら、教習所の助手席に座る教官のように、いつでもブレーキをかけられる状態で、運転席に後継者を座らせている状態をイメージするとわかりやすいでしょう。

M&Aを行う場合であっても、同様にデューデリジェンスをしっかりと行ったり、売り手企業のトップと買い手企業のトップが理念をすり合わせたりする必要があります。M&Aの契約が成立した後にトラブルを起こしてしまうと、双方の企業の従業員のモチベーションにも悪影響が生じてしまったり、顧客からの信頼を失ってしまったりするので、予想していたシナジー効果が生まれにくくなってしまうのです。最悪の場合は事業の存続が危うくなる可能性もあるので、M&Aを行う場合は慎重に自社と相手企業の状態を見極めるようにしましょう。

事業承継と廃業で迷ったら専門家に相談を

企業の状態によっては事業承継せずに廃業したほうが良い場合もありますが、中小企業が抱えている問題は、外部の支援者を入れることで解決できる可能性があるのです。

既に解説した事業承継ファンドの活用などはその一例ですが、まずは事業承継士などの専門家に相談して、経営に関する今の悩みを相談してみることをおすすめします。

事業承継ラボ

日本は大廃業時代に突入するとも言われ、 「事業承継」をいかにうまく行うか。そして、次の世代交代で新たなチャレンジを「IT」と「マーケティング」を活用して実施していく必要がある。 そんな、チャレンジングな強い日本企業の成長を支えて行きたいと考えています。 Facebook URL https://www.facebook.com/jigyoshokeilabo/ Twitter URL https://twitter.com/jigyoshokeilabo