M&A・事業承継で”後継者”として事業を引き継ぐ際、財務データの読み込みが不十分で、承継後に想定とのギャップが生まれるというケースが多々あります。そこで今回、「貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書」の財務3表について後継者が押さえておくべきポイントをまとめました。

財務データを正しく確認する重要性

事業承継を検討するには、承継する会社の様々な資料に目を通し、現状・将来性を把握する必要があります。最低でも過去3年~5年分の情報を確認し、承継後の未来を思い描くことで、より具体的な検討が可能になります。

数ある資料の中でも「決算書・財務諸表」は、最も大切な基礎資料であり、それと同時に最も理解しづらい資料といえます。事業承継・M&Aの交渉時に、これら資料のポイントがわからずに誤った理解をしたまま交渉が進み、結局行き違いが生じて話が進まなくなるケースもよくあります。資料には、これから損失が出ることが分かっているが現時点では書き加えられていないものがあったり、書面に記載された資産価値と取得時の資産価値が異なる場合があります。
引継ぎ後にこれら認識の齟齬を生まないためにも、財務の実態把握を必ず理解し、正確に行わなければなりません。

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財務データに載っている情報とは

財務の実態把握をした方が良いということが分かったところで、その資料となる決算書・財務諸表について詳しく確認していきましょう。

精査をするにしても、そのものが分からなくては精査できません。決算書・財務諸表でチェックすべきは、「貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書」の財務3表です。(上場企業でない場合、キャッシュフロー計算書は、ついていない場合もあります。) この3つの書類を必要な状況に合わせて組み合わせて分析することで、会社の財政状態や経営状況を分析することができます。

 

貸借対照表

まず、貸借対照表は現在の会社の資産と負債の内容が書かれています。表の左右で対照になっており、右側に”負債”と”純資産”、左側が”資産”が記載されています。負債や純資産によって調達された資金が運用されることで資産が発生します。よって、”負債”+”純資産”と”資産”の収支は対になり一致します。会社の内部の状況を映写している貸借対照表を見て財務状況の良し悪しを判断します。

 

損益計算書

次に、損益計算書です。こちらは”収益”からコストを差し引いて儲けを計算する書面です。利益の種類によって計算が分かれており、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益の5つが記載されています。このうちの「経常利益」は”本業で得た営業利益”と”本業以外(家賃収入等)で得た営業外収益 & 営業外費用”を掛け合わせた「会社の日常的な営業活動より得られた利益」であり、会社が黒字であるかを把握する一つの指標になります。

 

キャッシュフロー計算書

最後に、キャッシュフロー計算書です。会社の1年間のキャッシュ(現金)の増減について表したもので、会社における家計簿のようなものです。営業に関するもの、投資に関するもの、借入金等の借金に関するものの3つに分けて、現金がどのような理由で増えて、減ったのかを明らかにしています。

 

事業承継における財務分析

財務分析では「収益性分析」「安全性分析」「生産性分析」「成長性分析」の4種類に分類され、事業承継においては収益性分析と成長性分析が特に重要になります。
収益性分析では、企業が投入した資本に対して効率よく利益を生み出しているかどうかを分析します。特に売上高、粗利、営業利益は重要な項目です。業界や事業規模から判断できる平均水準との乖離を見ることで、収益性が高いかを判断します。例えば「前年に10%あった営業利益が5%に下落しているにも関わらず、粗利が変化していない」という企業の場合、「人件費や広告費などの販売管理費に手が加わった。」などと判断することができます。

中長期的な観点で経営状況を知りたい場合には成長性分析が有効です。成長性分析とは、前期や数期前と比較して売上高がどれだけ伸びたのかを確認する指標です。増収率や増益率という指標で評価しますが、これが高ければ事業が成長していることを表し、低ければ事業が衰退していることを表しています。

 

“損益計算書”の抑えておきたいポイント

損益計算書は「P/L」とも呼ばれています。損益計算書を理解する上では以下の2つのポイントが挙げられます。

(1)利益を分析できる

損益計算書には、会計期間内に会社がどれだけの売上高や利益をあげているのかが、勘定科目ごとに記載されています。経営戦略を計画する際に重要な書類で、会社の収益力や利益構造を分析するための書類であるといっても良いでしょう。M&Aにおいては、その損益から”企業価値算定”や”事業の継続性”を判断するために使用します。

 

(2)5つの利益を理解

損益計算書で把握できる利益の「粗利率」「営業利益率」「経常利益率」「税引き前当期純利益率」「税引き後当期純利益率」の5つは経営分析に必要な数値です。

・営業利益率
特に中小企業を評価する上で重要な指標が”営業利益率”です。営業利益がプラスの場合でも、売上高で割った「営業利益率」が低い場合には注意が必要です。営業利益率が低い状態では営業活動の効率が悪く、売上が少し減少するとたちまち赤字になってしまう可能性があります。したがってM&A・事業承継時、営業利益率を分析することで企業の経営状況や事業の継続性を読み解くことができます。

ただ、営業利益率は会社の業種によって大きく異なるので、一概に何パーセント以上あれば良いという判断は難しいです。ですが、業種別の営業利益率をまとめた統計があるので、自社と業界平均の営業利益率を比較することができます。下記に主要なものを抜粋したので参考にしてください。

出典:財務総合政策研究所HP、法人企業統計調査(平成24年度)

 

・雑費・雑損失
次にP/Lの販売費及び一般管理費等の「雑費」や営業外費用の「雑損失」といった、用途が明確でない勘定科目に多額の金額が計上されている場合は要注意です。
これらが多いと、従業員不正が起こっている場合もあり、例えば、仕入や外注費の水増し計上が行われている等のリスクを考える必要も出てきます。この場合は、売上高に比較して売上原価が異常に大きくなるという形でP/Lに表れてくるので、売上原価率をチェックすることで状況を把握することができます。

「この項目の数値が大きくなることで、会社で何が起こっている可能性があるのか。」をしっかり把握する為にもP/Lの理解を深めましょう。

 

・分析内容に応じた評価方法の違い
最後に、損益計算書の評価には、分析内容に応じて”単年度で評価する場合”と”複数年で評価する場合”があります。

例えば、「収益構造」を分析する際は、単年度で売上原価率や販売費率、売上高販管費率などを見て判断することができます。一方で、「今後の経営方針」を分析する際は、単年の指標だけを見て判断するのではなく、過去3年~5年の売上高比率の変動が大きい勘定科目に注目し、増減内容を鑑みて将来の動向を予測しなければなりません。

M&A・事業承継においては、初期分析では単年度分析で相手先の収益構造を把握し、複数年度の分析で経営上の特徴や長期的な事業の持続性を把握するのが一般的です。

 

“貸借対照表”の抑えておきたいポイント

貸借対照表は財務上の健全性を理解できる書類で「バランスシート(B/S)」とも呼ばれており、企業がどのくらいの財産を所有しているかを把握できる表です。貸借対照表を理解する上では、以下の2つのポイントを押さえておきましょう。

(1)財務上の会社の健全性を理解する

貸借対照表は「資産」「負債」「純資産」から構成されており、事業承継を行う場合には財務上の健全性を分析するために用います。資産には現金や預金などの金融資産だけでなく、売掛金や土地建物などの固定資産が計上され、負債には借入金や支払手形なども含まれます。特に「負債」については重視する必要があり、負債額の中でも借入金がどれくらいあるのかを分析することが重要で、”倒産のリスク”を読み解くことができます。

例えば、自己資本比率が50%以上であれば優良企業とされていますが、自己資本比率が低ければ低いほど”他人資本(借入や融資)”の影響を受けやすい安定性に欠けた会社と判断されてしまいます。また、流動資産に対して流動負債が多い場合、資金繰りに不安要素があると考えることができます。このような状況の会社では一度資金繰りが悪くなると事業を継続するのが一気に難しくなる可能性があります。

 

(2)資産・負債・純資産の部門毎の理解

貸借対照表を構成する3つの部門の内訳や項目毎の特徴を理解しておくことも重要です。

・資産
現金、預貯金、売掛金、固定資産などから構成されています。”固定資産”は製造では工場や機械などの固定設備があるので多くなり、サービス業においては少ない傾向にあります。また、固定資産の購入時期から減価償却のサイクルを読み解くこともできます。

・負債
対外債務としての買掛金、借入金、中小企業の場合は”オーナーからの借入金”が挙げられます。“オーナーからの仮入金”はM&A・事業承継にあたってトラブルの原因になりやすいので、M&A・事業承継の交渉時に合意しておくことが重要です。例えば、オーナーからの借入金は退職金と相殺し、経営状態をできるだけフラットにすることで承継後の経営をスムーズに行えます。

 

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・純資産
資本金や資本剰余金などの出資金、利益剰余金が主となります。自己株式を株主から購入している場合には、自己株式も純資産に含まれます。自己株式を購入していると、その分株式数が減っているので一株あたりの単価が上昇することになります。

 

“キャッシュフロー計算書”の抑えておきたいポイント

キャッシュフロー計算書は「C/S」とも呼ばれ、会計期間のお金の流れを知るために必要な書類です。キャッシュフロー計算書を活用するためには、以下の2つのポイントを押さえておきましょう。

(1)会計期間の現金の流れを示す

会計期間に増減した現金預金の金額と、その内容が記載されている書類です。上場企業でない場合は作成義務がありませんが、企業のお金の流れを把握して黒字倒産を防ぐために作成する企業も多いです。

ビジネスにおいて会計上の利益と「運転資金」と呼ばれる手元にある現金はイコールではありません。製品やサービスを生み出す前に仕入れを行う必要があるビジネスは多いので、損益計算書上では利益が上がっているように見える場合でも、資金繰りが悪化するというリスクは存在します。M&A・事業承継後に資金繰りを安定させるためにも、キャッシュフロー計算書によって資金の流れを把握し、財政面での弱点を考察し、余裕を持った資金繰りが可能かを判断しましょう。

 

(2)3つのキャッシュフローを理解

キャッシュフローは「営業活動」「財務活動」「投資活動」の3つのキャッシュフローで構成されており、それぞれの現金の流れが確認できます。一般的に、黒字経営の企業では営業活動のキャッシュフローがプラスになり、営業活動で得たお金をどのように配分するかを判断します。

キャッシュフロー計算書を読み解く方法として、例えば「営業活動のキャッシュフローはプラスだが、財務活動のキャッシュフローはマイナス」「経常利益が営業利益より少ない」などという企業があった場合には借入過多ということがわかります。また、投資活動のキャッシュフローが急激に増えた場合には「設備を売却して現金を集めた」という可能性を考えることができます。貸借対照表と比較することで企業がどのようなアクションを起こしたかを把握することができ、業績悪化や事業縮小の兆候を掴むことができます。

 

まとめ

事業承継を行う場合、財務諸表を用いて初期分析を行うことが成功の第一歩です。財務状況や経営状況を正しく知ることが、引き継ぎ後の適切な経営に繋がります。

ただ経営者にとって、財務データは見せたくないという場合もあります。それでも、後継者は引き継ぐと覚悟を決めたら経営者と徹底的に財務データの確認をしましょう。またM&Aの場合は、相手先の経営状況の推移やお金の流れを把握することで、「買収後のシナジー効果が得られるのか」「買収後に自社の経営環境が悪化しないか」などのリスク分析が可能となります。

財務分析に自信がない場合には、財務アドバイザーや財務分析に強い会計士やM&A仲介会社に相談するのも一つの選択肢です。まずは事業承継を検討していると相談してみることから始めてみましょう。

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